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XVIII


「オレはコイツを戦力の一つとして仲間にする」


ヒロムの突然の宣言、それはイクト、ガイ、ソラを驚かせる。


当然だろう。


何せヒロムは自分の命を狙おうとしていたイクトを咎めることも無く、それどころか仲間にすると言っているのだから。


「お、オレを仲間に……?」


「ああ、オマエの能力は何かと応用が効くみたいだからな。

何かあった時のために仲間にしても損は無いと思ったし、何より賞金稼ぎとしての情報収集能力は今後のオレたちに必要になるだろうからな」


「たしかにヒロムの言い分も一理あるな。

イクトのような情報通の能力者がいれば今後動きやすくなるかもしれないな」


「だろ?

そうしたら面倒な手間も無くなって楽に……」


「オレは反対だ」


ヒロムの意見を聞いて納得するガイとは異なりソラは不満があるらしく、ヒロムの意見には賛同しようとしなかった。


それどころかイクトのことで文句を言い始めた。


「そもそもコイツは賞金稼ぎ。

どこの誰を狙ってたかも分からない危険なヤツだ。

どこかで逆恨みでもしてるヤツがコイツを狙ってオマエを巻き込む危険もあるんだぞ」


「オレに負けたコイツに負けるようなヤツが襲ってきても別に困らねぇよ。

返り討ちにすればいいだけだろ」


「あのな……。

そもそもコイツは賞金稼ぎとしては甘すぎる。

現にその甘さのせいで騙されて利用されてんだぞ?

そんな危なっかしい野郎がそばにいたんじゃオレとしては満足に戦うことすら出来ねぇよ」


「……なるほどな。

それもそうだな」


「冷静に考えるまでもないだろ。

コイツを自由にさせたら何が起きるか……」


「じゃあオマエがコイツの行動を全部管理すればいいだけだな」


「待て、話聞いてなかったのか!?」


ヒロムの言葉にソラは声を荒らげるような形で言い、そしてソラは続けてヒロムを説得するかのようにイクトのことを話し始めた。


「いいかヒロム?

コイツは数時間前までは敵だった。

熱海に向かう時に同行させたのはキキトという共通の目的があったからだ。

そのキキトってのが「八神」によって情報屋に仕立て上げられていた「八神」の能力者って判明した以上、コイツを留める意味が無いだろ」


「意味が無いことは無いだろ。

コイツを利用する手もあるし、コイツがいれば何かしら役に立つかもしれないしな」


「あのな……理想を並べても現実は変わらねぇんだよ。

コイツに何を期待してるか知らねぇけど、オレはオマエのために言ってんだぞ」


「ならオレも言ってやるよ。

これはオマエのために言ってんだよ」


イクトの今後についてヒロムとソラ、二人の意見がぶつかり、二人は譲れぬ意見をぶつけ合ううちに険悪なムードになりつつあった。


話題の中心にあるイクトは何か言いたい思いはあったが、この二人の間に割って入る勇気もないのか黙っていた。


確実に悪い方向に進みつつあるこの空気感、居合わせるだけでも気まずい。

そんな中、ガイはこの空気をどうにかしようとイクトに対してある事を確かめるように質問した。


「なぁ、イクト。

オマエはどうしたいんだ?」


「え、オレ……?」


「おいガイ。

今そいつの意見は……」


重要だ、とガイはソラに向けて強く言うとイクトのことを話した。


「たしかに熱海での共闘はキキトに対しての目的があったからだ。

その点は理解してる。

こど熱海の集会所にたどり着けたのはイクトの案内のおかげだし、リュクスという男に出会ってキキトのことを聞けたのもイクトがいたからだとオレは思ってる。

ヒロムの提案は間違ってないと思うし、ソラが警戒してるのも間違ってないと思ってる」


「おい、ハッキリさせてくれねぇか?

今必要なのはどっちが正しいかじゃなくて、コイツをどうするべきかだ」


「そのイクトがどうしたいと考えてるかを聞いてから決めても遅くはないだろ。

だからオレはイクトがどうしたいのかを聞きたい」


「……ちっ」


勝手にしろ、とソラは舌打ちしながら言うとガイはイクトに自分の意見をヒロムやソラに言うように視線を送った。


ガイの視線を感じ取ったイクトは緊張でもしてるのか深呼吸すると少し間を置き、そして緊張する中でゆっくりと言葉を発した。


「……オレは出来ることならこのまま一緒にキキトを追いたい。

わがままなのは分かってるし、正直な話敵として現れたはずのオレが仲間になるなんて認めてもらえることじゃないかもしれない。

けどオレは……こうして三人に出会ったからこそキキトの素性を詳しく知れた。

その……」


「長々と話されても聞くの飽きてくるから本題だけでいいぞ」


イクトが言葉に詰まる中、ヒロムは呑気にあくびをしながら言い、そのヒロムの言葉を受けたイクトは緊張が解けたのか自信を持って発言をした。


「オレは無実の人間が理不尽に狙われるのを見過ごせない。

オレの手でキキトを倒して……姫神ヒロム、アンタのために力になりたい」


「……そうか。

コイツはそう言ってるがどうする、ソラ」


イクトの言葉を聞いたヒロムはそれを真摯に受け止めたらしく、そして同じように話を聞いていたソラに対してイクトの話を聞いた上での彼の意見を求めた。


イクトの話を聞き、イクトの考えを理解したヒロムを前にしたソラは頭を掻くと深いため息をつき、そしてどこか面倒そうにヒロムに向けて言った。


「……オマエが認めてるなら認めるしかないんだろ?

分かったよ、コイツのことは受け入れてやるよ」


「そうか」


ただし、とソラはまだ何か言い分があるらしく、ヒロムに向けてイクトについてある事を条件として提示するように話した。


「コイツの監視を引き受けるが何か疑わしいと思えばオマエが止めたとしてもオレは始末する。

そしてオマエが設けた期間である一ヶ月の期間の中で少しでも信用に値するものがないと判断した場合もオレはコイツを始末する」


「つまり、熱海での共闘を延期する形でイクトを受け入れてくれるんだな?」


「そういうことだ。

文句はないよな?」


問題ない、とヒロムはソラに対して答え、その答えを聞いたソラはイクトのことを睨むような眼差しで見ながら彼に向けて告げた。


「とりあえずはヒロムの提案をのんでやるが、熱海の時と変わりはない。

オマエと馴れ合うつもりは無いし、オマエのことはこれから先も疑い続ける。

その代わり……オマエがもし本当に嘘偽りなくヒロムのために戦うこととその志を見せてくれるって言うなら一ヶ月には認めてやるよ」


「分かった。

じゃあ今は監視官と監視対象って関係なんだな?」


「……切り替えがいいのも腹立つな。

だがまぁ、そういうことだ。

オレはオマエが少しでも不審な動きを取ると判断したら始末するからな」


「そっか。

あっ、そうだ。

姫神ヒロム、アンタのこと……ガイやソラと同じように呼んでもいいか?」


「ああ、構わない。

オレとしても長々とフルネームで呼ばれるのも心地のいいものでは無いからな」


「オッケー、よろしくなヒロム」


イクトはヒロムに向けて握手を求めるように手を差し伸べ、それを見たヒロムは面倒くさそうに手を出すと握手を交わす。


その様子を見るなりガイはソラにだけ聞こえるように伝えた。


「何やかんやでソラも優しいんだな」


「うるさい。

ヒロムとオマエがどうしてもって言うからだ」


ソラは何か自分の気持ちを誤魔化すような言い方をするが、彼の言葉を聞いたガイは見抜いているのか面白そうに笑った。


「あ?」


「何でガイは笑ってるんだ?」


「オマエらには関係ない。

つうかこっち見るな」


何故ガイは笑ってるんだと気になったのかヒロムとイクトはソラに訊ねるかのように視線を向け、視線を向けられたソラは舌打ちをすると二人のに冷たい言葉を発する。


そうか、とヒロムは呟くように言うとイクトの握手をやめるように手を離し、そしてイクトはソラに対して頭を下げると彼に向けて今の素直な気持ちを伝えた。


「少しでも信用しようとしてくれたこと感謝する。

疑われるような立場のオレが言うのも何だけど……しばらくせわになります」


「……そう思うなら役に立ってもらいたいものだな」






***


二週間後。


とある港の物流センターの資材管理倉庫。


その近辺を数人のスーツの男が走っていた。


「お、おい聞いてないぞ!!」


「あんな化け物、殺せるわけないだろ!!」


逃げるように走る男たち。

男たちの後方……数十メートル離れたところに五、六人の男が血だらけで倒れており、そしてそのそばでヒロムが一人の男を何度も殴りながら倒そうとしていた。


少し振り向いてそれを見るなり男たちはさらに走る速度を速めていき、ヒロムから逃れようとしている。


が……


「逃がすかよ!!」


男たちが走っていく先にガイが刀を構えて立っており、ガイは刀を振るなり斬撃を放つ。


放たれた斬撃は逃げようと走る男たちの方に向かっていき、そして男たちの中の一人が斬撃を直撃で受けて負傷して倒れてしまう。


「ば、化け物かよ!?」


「クソ……!!」


「ガキ殺すだけで大金貰える仕事なのになんで……」


ヒロムとガイに恐怖してるのか男たちはパニック状態に陥っており、もはや逃げる以外のことが出来るような状態ではなかった。


そんな男たちのもとへとどこからともなく炎の弾丸が飛んで来ると、炎の弾丸は男たちの動きを封じるかのように足を撃ち抜いていく。


「ぎゃぁぁあ!!」


「あああああ!!」


「……ヒロムを狙ったオマエらを逃がすわけないだろ」


足を撃ち抜かれて苦しみ悶える男たちに向けて冷たい言葉を吐き捨てると弾丸が飛んできた方からソラが歩いてくる。


そしてソラは銃を構えるなりさらに炎の弾丸を放ち、男たちが逃げれぬように新たな傷を負わせていく、



「ああああ!!」


「ちっ……こんなんで賞金稼ぎとか笑えねぇな」


「ソラ、そっちは終わった?」


するとどこからかイクトが飛んで来てソラのそばに着地し、状況を確認するように訊ねる。


訊ねられたソラはため息をつくなり足を撃ち抜かれて痛みに悶える男たちを見ろと言わんばかりに指をさし、イクトもそれを見ると話を聞くことも無く理解した。


「終わったってことだな」


「オマエの方もか?」


まぁね、とイクトが指を鳴らすと彼の影が大きく膨らみ、そして膨らんだ影の中から吐き出されるような形でスーツの男が十人現れる。


現れた十人の男は全員が斬撃を受けたような傷を全身に負っており、それを見たソラはイクトの時と同じように話を聞かずに全てを理解した。


「取り逃したりしてねぇよな?」


「当たり前だろ?

貴重な情報源だからな」


終わったぞ、とヒロムは首を鳴らすなりイクトとソラに聞こえるように大きな声で言い、ガイと刀を鞘に収めるとイクトとソラのもとに歩み寄る。


「歯ごたえのない相手だったな」


「下級の使い捨てだろ。

大した情報を持ってればいいけどな」


「そこは尋問しなきゃ分からないって。

ソラも手伝ってくれるか?」


「……オマエが余計なことしないか見張らなきゃいけないからな。

ついでに拷問でもしてやるよ」


イクトとソラはどこか仲良さそうに話をしており、それを見たガイは微笑ましく思ったのか嬉しそうにしており、ヒロムも二人の姿を見て少し笑みを浮かべていた。


「じゃあソラ。

キキトについて調べようぜ」


「馴れ馴れしく指図するな。

言われなくてもやってやるよ」


あの日から二週間、その時間の経過とともにイクトは彼らと行動を共にすることで距離感を縮めていた。


だが、これは正しいことなのだろうか?


果たしてイクトはこのまま何事もなく彼らと過ごせるのだろうか……

次回、新章開幕!!

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