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XVII


首都・東京。

大都会とも呼ばれる東京都内から隔離されるかのように離れた場所にある薄暗く人もいないような廃墟……


「ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな!!」


廃墟の中でキキトは古びた家具を大声で叫びながら次から次に破壊し、そして手当り次第に壁を殴ったり蹴ったりしていた。


「ふざけるな……!!

なぜヤツはオレのことを……!!」

(ヤツはオレの力になると思っていた。

だからこそ手を組もうと話を持ちかけ、そして「無能」を殺したイクトを始末させようとした)


「それなのに……!!」


何故だ、とキキトは近くにあった椅子を持ち上げると苛立ちを交えながら壁に何度も叩きつけて椅子を破壊した。


「手を組むどころかこちらの計画を……!!」


「ご乱心だな」


誰かの声がした。


キキトはその声を聞くなり破壊した椅子の破片を投げ捨てると声の主を探そうとする。


が、声の主であるとされる人物が足音を立てながらキキトに接近し、そして姿を見せたその人物を見るなりキキトは苛立ち交じりに叫んだ。


「オマエ!!

何しに来た!!」


「オマエの様子を見に来てやったんだよ。

利用してた気でいたのに何もかも失敗に終わったオマエのな」


「オマエ……!!

リブラの命も奪い、そしてオレの邪魔をした……目的は何だ?金か?「八神」の権力か?」


「そんなもん必要ねぇよ。

言ったはずだよな?オレの素性も分からないのに偉そうにするなって」


「黙れよリュクス……!!」


「黙ってやってもいいが、オマエにそんな暇あるのか?

あの手この手と用意して迎え撃とうとして失敗したんだろ?」


キキトの前に現れた人物……赤い髪の青年のリュクスは嘲笑うかのような笑みを浮かべながら言うと指を鳴らし、どこからか現れた椅子に腰掛けるとキキトに向けて冷たい言い方をした。


「目的のために急ぎすぎて失敗し、そして挙句の果てには殺そうとしていた相手に自分の素性がバレてしまった。

哀れを通り越して情けないし、何より不様で最悪だな」


「黙れ!!

オマエがオレの計画の邪魔を……」


「オマエの計画なんて知らねぇよ。

ただオレはオレのやりたいようにやっただけだ。

オマエが勝手にリブラの尻拭いと計画への協力を持ち出してオレがそれを引き受けたと勘違いしてた。

それをオレのせいにされても困るんだよ」


「バカにしやがって……!!」


「……で、追い詰められつつあるキキトさんよ。

何か策でもあるのか?

ないなら力を貸してやってもいいぞ?」


黙れ、とキキトはリュクスの言葉を冷たく突き返すと彼を睨みながら話した。


「オマエに助けを求めてもどうせ計画を乱されるだけだ。

オレはオレのやり方でヤツらを殺す」


「……殺す、か。

不可能に近いことを諦めずに頑張るのなら応援しておいてやるよ」


リュクスはため息をつくなり立ち上がり、そして椅子を消すとその場を去ろうとする。


が、リュクスの言葉に引っかかるものがあるのかキキトは彼の足を止めさせるかのように話の続きをした。


「オレの手にかかれば「無能」と呼ばれるあのガキの始末くらいすぐに終わる。

能力すら持っていないような低能な人間相手に失敗する可能性はないと断言出来る」


「……低能な人間?

その低能な人間を相手にして他人を使わなきゃ殺せないようなオマエが偉そうに話すとは笑えねぇな」


「何?」


「オマエがどう思ってようが勝手だが、これだけは忠告しておいてやるよ。

所詮オマエは敗者として地を這うことになるってな」


じゃあな、とリュクスは粒子となって消滅し、リュクスが消滅するのを確認したキキトは舌打ちをすると携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ始めた。


『……もしもし』


「オレだ。

力を借りたい。」


『オマエの方から連絡を寄越すなんて珍しいな。

何かヤバい仕事でも見つけたのか?』


「……ああ、そうだ。

オマエが手を貸してくれるのなら有力な情報をくれてやるよ、リトル・パープル」


『……報酬額とその情報の出処次第だな』


リトル・パープルという名の人物に淡々と話すキキト。

先程まで怒りと苛立ちによって取り乱していたというのに、電話をかけている今は元々そんなことがなかったかのように恐ろしい程に落ち着いた様子で話していた。


「情報の出処は「八神」だ。

そして殺しの情報だから報酬額はかなり支払われるだろう」


『あの「八神」の情報か。

それなら額も期待できそうだな。

で、誰を殺せばいいんだ?』


「それについては後で連絡する。

失敗の許されない仕事になるかもしれないからオマエが用意できるだけの人手を集めてくれないか?」


『……いいだろう。

情報に期待してるぞ』


電話の相手が話をおわらせるように電話を切り、それを確認したキキトはさらに続けて誰かに電話をかけた。


「……こんな時間にすみません。

一つだけお願いしたいことがあるのでご連絡させてもらいました」



***



「月翔団」の車に乗って熱海から姫神ヒロムの待つ屋敷に戻ったイクトとガイ、ソラは彼らの帰りを待っていたであろうヒロムに熱海での一件を報告しようと彼の屋敷のリビングに集まっていた。


が……


「ふぁ〜……」


時間も遅いせいかヒロムはあくびを何度もしており、そしてそれを見てイクトは少し戸惑っていた。


「あの……話聞いてた?」


「ふぁ……あ?

話って?」


「いやいや、熱海での一連の流れを話してただろ!?

まさか眠いから聞いてなかったとかじゃないよな!?」


「うるせぇな……聞いてたよ。

キキトってのは「八神」の人間でオマエは最初からそいつに利用されてたってのも、リュクスとかいう謎の男が現れたってのも聞いてたよ」


「そ、そうか……」


「しかも情報屋の集会所やらを全焼倒壊させて敵となるであろうヤツらを倒してきたんだろ?

それ以外に何かあるか?」


「あ、いや……うん。

それ以外は話してないけど……」


ならいいだろ、とヒロムはため息をつくと話を終えようとしたが、そんなヒロムに向けてガイはリュクスについて話し始めた。


「ヒロムは今の話を聞いてリュクスのことをどう思った?」


「どうってのは?」


「リュクスってヤツは素性もだけど実力も未知の男だった。

今の話を聞いたヒロムがリュクスってヤツのことをどう考えてるのかを聞きたくてな」


「なるほどな……。

まぁ、簡単なところから話せばそのリュクスってのは「八神」の人間でないのは間違いないな」


「え、そうなのか?

キキトと共犯の可能性は……」


「……はぁ」


イクトの言葉にヒロムは深いため息をつくと、彼に対してリュクスが「八神」の人間ではないと言った理由を分かるように説明した。


「ヤツが万が一にも「八神」の人間ならオマエらを全焼倒壊しかけてる洋館から助けるようなことはせずに対能力者部隊のギルドに拘束させていたはずだ。

「八神」としてはオレのまわりから邪魔な人間が消えた方が好都合だからな」


「つまりリュクスは「八神」の人間じゃないってことか」


「……賞金稼ぎとは思えないくらいに頭の回転悪いヤツだな。

それを視野に入れたとしても「八神」の人間じゃないと断言出来る理由は他にもある」


例えば、とイクトはヒロムが言う理由とやらを聞き出そうと訊ね、ヒロムはイクトを見ながらその理由を話し始めた。


「本当にオマエを利用してオレを始末させようとしてたキキトと同じように「八神」に属してるのならオマエに対してキキトについての話をしないはずだ。

そして……ヤツが「八神」の人間なら次期当主の直属の部隊の話なんか出さないはずだ」


「けど密かに繋がってたら……」


「そうか……。

直属の部隊の存在をオレたち三人に話せばその話はヒロムの耳に入る。

敵がわざわざこちらに情報を与えるのはおかしいことだな」


「でもそれすらもオレたちを撹乱するためじゃ……」


ヒロムの説明からその狙いに気づいたガイはそれを言葉にして出すが、それを聞いてもイクトの中の疑問は晴れなかった。


イクトの中でまだ疑問が残る中、ソラはため息をつくなり彼に向けて説明した。


「ヤツらは街に群がる不良とかじゃない。

権力を持ちながら世間すら操作できるような人間のもとに集まっている集団だ。

その気になれば撹乱する間もなくオレたちを潰せるようなヤツらが手間のかかることをすると思うか?」


「たしかにそうだけど……。

けどそれだけ大きな権力を持っていてもギルドやらが干渉してきて罪に問われたら……」


「その権力が大きすぎるんだよ。

何せヤツらはこの国の経済どころか軍事や法律、果ては刑罰すら覆せるほどなんだからな」


「な……」


「多分オマエを利用するために用意したであろうリブラやマスターって男はキキトの素性を知ったからこそ協力したんだろうな。

ヤツらにとって逆らうことも逃げることも損になるような相手だからな」


「場合によってはその恩恵を受けられる。

今の世の中の腐敗を象徴してるんだよ、ヤツらは……な」


「そんな……」


ソラ、ガイの話を聞いたイクトは言葉を失い、そして思考が止まったかのように動きが止まってしまう。


いや、無理もないだろう。

信じていたものや頼りにしてきたものが全て権力や目先の欲によって操られていたこと、そして何より信頼していた相手がその権力の中に生きていると知ったのだから。


これまでの全てのこと、賞金稼ぎとして生きてきたこれまでの全てを気づかなかったとはいえ「八神」の一部分であろう一人の男に操られていたと考えれば混乱するのも無理はない。


「じゃあ最初からオレはキキトにとって都合のいい駒だったのか……?」


「たまたまオマエが選ばれたって話だけどな。

下手すりゃ他のヤツが選ばれてたかもしれないからな」


「そうか……」


「……まぁ、「八神」の権力とかの話をしても仕方ない。

それよりもまずはオマエのことで話を進めないとな」


どこか辛そうな表情を浮かべるイクトに向けてヒロムは言うと、続けて彼に向けてある事を伝えた。


「オマエらが熱海に向かってる間に黒川イクトの処遇について話はつけておいた」


「オレはやっぱり罰を……?」


「いや、オマエは処分させない方向に進めた。

どの道キキトってやつを始末しないかぎりオレの日常は戻らないだろうからな」


「ヒロム。

さすがに無罪放免ってのは……」


慌てるな、とヒロムはガイに一言伝えるとイクトのこれからについてを三人に向けて説明をした。


「今回の件は仕立て上げられていたとはいえ情報屋や賞金稼ぎが暗躍している。

だから賞金稼ぎとしての知識を持つコイツをオレのそばにおいて敵の出方を見る」


「じゃなくてだな……。

仮にもイクトはヒロムの命を狙おうとしてたんだ。

さすがの団長も簡単には……」


「だから監視をこちらで用意して見張ることを条件にして納得させた。

それならオマエも納得してくれるだろ?」


「ま、まぁ……な。

けど誰が監視役を?」


決まってる、とヒロムはガイに言うとソラの方を指さしながらイクトの監視役について話した。


「コイツの監視役はソラに任せる」


「はぁ!?

オマエ、ふざけるなよ!?

なんでオレが……」


「適任だろ、オマエの方が。

狙われてるオレが監視するのもおかしいし、ガイは少し甘い部分もある。

そうなれば冷徹になれるオマエが一番向いてるんだよ」


「ふざけるなよ!!

なんでオレが……」


「一ヶ月だけでいい。

その期間内にイクトのことを「月翔団」が認めてさえしてくれれば監視も必要なくなる」


「認めさせる?

まさかオマエ……」


「ああ、オレはコイツを……黒川イクトを戦力の一つとして仲間にする」



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