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XV


「キキトって情報屋は「八神」に仕えてる人間だからな」


「……は?」


燃え続ける洋館の一室で対面したリュクスの口から出た言葉、それを聞いたガイは驚くあまり言葉を失うが、イクトは驚きと困惑に板挟みされたのか目の前の男の言葉を疑うように声が漏れてしまう。


そしてその言葉を聞いても疑いが拭えないイクトはリュクスに向けて問い詰めるように質問した。


「何を根拠にそんなことが言えるんだよ?

アイツが「八神」の人間だなんてなんで分かるんだよ?」


「んん?

何でって……オマエより博識だからだよ」


「ふざけるな!!

こっちは真面目な質問してるんだぞ!!

さっさと真面目に答えろ!!」


「リュクス様に対してなんて無礼な口を……」


いいんだよ、とリュクスは彼に向けて言葉を発したイクトに対して嫌悪感を抱いている仮面のメイド・ジャスミンに優しく伝えるとイクトに向けて話し始めた。


「オマエはここに真実を求めてやって来たんだろ?

それなのに人の話を聞かないってのはどうかと思うぞ」


「答えろよ……」


「答えてもいいけど、今みたいに信用しないんだろ?」


「いいから答えろ!!」


「落ち着けイクト」


声を荒らげるイクトだが、そんな彼を諭すかのようにガイは言うと続けてイクトに現状について話した。


「ヤツの言う通りだ。

オマエはヒロムが狙われるその理由と真実を知るために来たんだろ?

だったらまずはヤツの話を聞く必要がある。

信じる信じないはその後だ」


「けど……」


「この部屋も炎で焼かれるまで時間は長くない。

可能な限り早く話を聞き出さなきゃ意味が無い。

それに……あの口振りは確実に何か知ってる言い方だ。

この機を逃せば……次はないぞ」


「……」


「イクト、オマエの目的のためだろ。

しっかりしろよ」


「……分かった。

話を聞く」


ガイの話で気持ちの整理がついたのかイクトは深呼吸するとリュクスの方を見ながら彼に言った。


「……話してくれないか?

アンタの知ってることを」


「……いいよ。

けど、ここで話すのか?」


「……移動するのを待ってくれるのか?」


「待つ必要は無いかな……。

ジョーカー、力を借りるぞ!!」


リュクスが何かの名を叫ぶと彼の手元に二枚のトランプが現れる。


現れたトランプ二枚をリュクスはガイとイクトの足元に突き刺すように投げ、投げられたトランプはリュクスの思惑通りに彼らの足元の床に刺さる。


「「?」」


このトランプが何なのか分からないガイとイクトは不思議そうにカードを見つめていると、二枚のカードが強い光を放ち始める。


「「うわっ!!」」


「大丈夫、すぐに終わる」


突然の光の眩さに二人は手で目を覆い隠そうとするが、リュクスは呑気に話す。


「指を鳴らせば全て終わるさ」


リュクスがそう言って指を鳴らす。


するとトランプの放つ光が彼の言った通りになるように消える。


「一体何を……」


リュクスが何をしたのか気になるイクトは目を覆い隠そうとした手をどけると、目の前の光景に驚かされる。


「え……!?」


全てを焼こうと炎が迫っていた洋館の一室にイクトはいたはずなのに、彼はガイやリュクス、ジャスミンとともに洋館の外の庭園に立っていたのだ。


「ええ!?

なんで!?」


「これは……転移術?

だとすればさっきのカードは転移術のための媒体と転移座標の固定か」


「すげぇ冷静に考察してますね!?」


何が起きたのかと混乱するイクトの隣でただただ冷静に考えるガイ。


「面白い少年たちだな」


そんな二人の様子を見るなりリュクスは面白そうに笑うが、彼らに対して一言伝えた。


「けど、驚いたり考えたりはあとにした方がいい」


「ん?」


「どういうことだ?」


「あ?

オマエら……」


誰かがイクトとガイに声をかけた。


誰が声をかけたのかと声のした方に二人が視線を向けると、その方向には銃を構えた相馬ソラがいた。


相馬ソラは二人に向けて銃を構えてるのではなく、彼の前にいる中年の男に対して銃口が向けられていた。


「おっ、ソラ!!」


「あ?

馴れ馴れしくすんじゃねぇぞ「死神」が」


「ええ……ひどくない?」


「……ソラ、その人は?」


ソラの冷たい態度に少し落ち込むイクトに対してガイは彼が銃口を向ける男が気になっていた。


「ちょうどいい。

これから暴くところだ」


「暴く?

何を……」


「コイツはオレがここを襲う前に追い出されていた男だ。

どういうわけかオレのことを殺そうとナイフで襲おうとしてたのさ」


「つまりコイツは情報屋か」


「なんでソラを?」


「それを今から確かめんだよ、バカか「死神」。

コイツの正体暴こうとしたらオマエらが急に現れたんだよ」


「な、なるほど……」

(相変わらずオレのこと嫌悪してるなぁ……)


「暴いてあげようか?」


するとリュクスがソラに歩み寄るなり彼に男についての話を始めた。


「もしよければオレが暴いてやるよ」


「誰だオマエ?

賞金稼ぎか?それとも……」


「そんな弱っちいのじゃねぇよ。

オレは……気ままに流れる紅い翼の旅人だ」


「は?

何を……」


「気にするなよ」


さて、とリュクスは男の方を見ながら話を進め始めた。


「リブラとの話が終わって逃げたと思ったんだが……残ってたんだな」


「な、何を言っている?

そこの子どもは集会所を炎で……」


「そう仕向けたのはオマエだろ?

オマエがリブラのもとへ向かわせた結果がこれだ」


「ま、待ってくれリュクス!!

私は……」


「あれ?

名乗たっけ?

アンタみたいなおっさん知らねぇんだけどな」


「……嵌めやがったな、リュクス」


リュクスの言葉に突然声色を変える男。

声色が変わると共に男の体から殺気のようなものが溢れ出し、そして目つきも鋭くなっていく。


「オマエ、リブラの尻拭いを依頼したはずだぞ」


「はぁ?

尻拭い?するわけないだろ?

オレはオマエごときの指示は受けねぇんだよ」


「オマエ……」


ジャスミン、とリュクスが呟くと彼の隣からジャスミンが右手を男に向けてかざし、かざされた手から魔力の弾が放たれる。


放たれた魔力の弾は迷うことなく男の方に向かっていき、そして男の体に命中すると大きく爆発する。


「なっ……」


「何してんだよアンタ!!」


「落ち着きなって死神くん。

真実を知りたいたらよく見ときな」


「はぁ?」


リュクスに言われてイクトはジャスミンの一撃に襲われた男の方を見た。


魔力の弾の爆発に巻き込まれる男、それしかないとイクトは思った。


が、それで終わらなかった。


爆発に巻き込まれたはずの男の体が風船のように膨れ上がり、そして男の体が割れた風船のように弾ける。


「!!」


「まさか……能力者か!!」


「いや、待てガイ。

あれって……」


ソラが不審に思っていると、膨れ上がって割れた男の体が魔力となって消えていく。


そして男が立っていた場所には黒いローブに身を包んだ緑色の髪の青年が新たに立っていた。


「あれは……」


「誰だ……?」


その青年が誰なのか気になるガイとソラは警戒して構えるが、そんな中でイクトだけはその青年の姿に驚きを隠せなかった。


「オマエ……何で……」


「イクト……?」


「おい「死神」。

コイツを知ってるのか?」


「……知ってるも何もねぇよ。

真実が自分から現れたんだぞ……」


「真実?

何を……」


「……まさかイクト。

コイツは……」


その通りだ、とリュクスがイクトの代わりに答えるようにガイとソラに向けて説明するように語った。


「あそこにいるのが真実を知る一人、情報屋のキキトだ」


「「!!」」


「リュクス……オマエ、裏切ったのか!!」


キキトは血相を変えながらリュクスに向けて言うが、リュクスはどこかおかしそうに笑みを浮かべながら答えた。


「裏切るも何もないだろ。

オレはオマエの指示を受けた覚えはないし、オマエに力を貸す気もないんだよ」


「オマエ……「八神」に喧嘩を売るつもりか?」


「喧嘩、ね。

オレの素性すら分からないくせに偉そうに語るなよ。

「八神」の後ろ盾がなきゃ何も出来ない愚者が」


「オマエ……!!」


「キキト!!」


するとリュクスとキキトの話に割って入るようにイクトがキキトの名を叫んだ。


そのイクトの顔には何か迷いのようなものを感じ取れた。


「キキト……。

どういうことだよ?」


「……何がだい?」


「オマエが「八神」に仕えてるとかウソだよな?

オマエは……」


「なら聞くけど、なんで標的の仲間と一緒にいるんだよ。

オマエ……依頼ミスしてるのに何してんの?」


「悪いキキト……でもオレは真実を知りたかったんだ。

なぜ姫神ヒロムが標的にされなきゃならないのか。

何でオマエが姫神ヒロムに大金をかけるような依頼をしたのか……」


「……うるさいな。

詮索するなって言ったろ?」


「人の命を奪うような仕事だぞ!!

疑って当たり前だ!!」


イクトは影の中から大鎌を出現させると手に取り、キキトに向けて構えた。


「……今なら分かるよ。

オマエの言ってたクライアントってのは「八神」の人間なんだろ」


「なるほど……ヤツの経歴を知ったか。

なら分かるだろ?

力によって序列が決まり、力のある世界に生きる「十家」において、「八神」の血をあんな力のないヤツが生きてること自体が汚点なんだよ」


「力がなくても相応の強さをあの男は持っている。

それを認めてないだけじゃないか!!」


「認めて何になる?

次期当主のあの方もヤツの始末を強く望まれている。

そのために大金が動いてるんだよ」


「ふざけ……」


もういい、とガイとソラはイクトの前に立つと全身に魔力を纏い、そしてキキトを睨みながら構えた。


「これ以上の話など無意味だ」


「イクト……悪いけど、ここでコイツは殺す」


「待ってくれ二人とも!!

まだ真実を……」


「「真実なら目の前にあるだろ!!」」


二人を止めようとするイクトの言葉に対してガイとソラは声を揃えて強く反論した。


そしてガイはイクトに向けて少し冷たい言い方で告げた。


「ヤツは根っからの「八神」の人間だ。

今の「八神」にはヒロムへの憎悪しかないんだ。

オマエがあの男に何を抱いているかはもう関係ないんだよ。

アイツはもう……「八神」の人間としてヒロムを始末するためにオマエを利用したんだよ」


「でも……」


「理解しろよイクト。

オレは「八神」のために使命を全うする必要がある。

オマエらの相手をしてる暇もない」


キキトが指を鳴らすと砂塵が巻き上がり、それがキキトを覆い隠していく。


「まさか……」


「逃がすか!!」


ソラは炎の弾丸を放ってキキトを撃とうとするが、炎の弾丸はキキトを覆い隠そうとする砂塵に防がれてしまう。


「くっ……!!」


「どうするソラ?

ここは……」


「慌てなくてもすぐに会えるさ愚かな戦士ども。

近いうちに必ず殺しに行く。

それまでの短い余暇を楽しめばいい」


「キキト!!」


「イクト、キミには失望した。

この件から手を引くのなら……見逃してあげるよ」


さよならだ、と砂塵が天に向けて舞って行き、そして砂塵に覆い隠されたキキトの姿も無くなっていた。


取り逃した、ガイとソラは悔しさを噛み締めながら舞って行く砂塵を睨み、イクトは大鎌を手放すと思わず叫んでしまう。


「ああああああああぁぁぁ!!」


その叫びが何を意味するのかは分からない。


だがその叫びからは彼のうちにある悔しさと信じていたものへの怒りを感じ取れた……


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