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XIV


「さて……オマエたちの運命も決めるか」


イクトとガイの目の前でリブラを焼き消した青年は笑みを浮かべながら二人に向けて言うと、二人の方に向かって一歩ずつゆっくりと歩き始めた。


青年が迫ってくる、それはたしかなことであり、イクトとガイは戦う意志を見せながら構えようとする。


イクトは大鎌を構える中で自身の影の中から一本の刀を取り出すようにガイの方へと飛ばし、飛んできた刀を手に取るとガイは青年に向けて構えた。


「どう思うイクト」


「リブラを一撃で倒した……そう認識してるよ。

この建物もそう長くもたないだろうし、長期戦は避けるべきだ」


「……避けるべき、か」

(それが出来る相手なら苦労しないんだがな……)


ガイは刀を構える中で青年の方を見ながらある不安を抱いていた。


長期戦を避けるべきだとイクトは言っているが、おそらくいイクトもガイと同じ不安を抱いているはずだ。


いや、不安という言葉は違うかもしれない。

恐怖とも呼べ、そしてそれは二人の体から戦う意志を削ぐような冷たい殺意でもあった。


それらから連なって二人の中に生まれるものは不安と呼べるものかもしれないが、今の二人は別にそこをハッキリさせたいわけじゃない。


ゆっくりとゆっくりと歩みを進める目の前の青年……その青年の全てが未知であり、二人は警戒するしかなかった。


「……作戦あるか?」


「無茶言うなよガイ……。

今現れたばかりの情報のない相手に作戦も何もないって……」


「ならやることは一つか」


「そういうことだよ……。

手っ取り早く言うなら……」


「「実力行使!!」」


イクトとガイは声を揃えて青年に対してどう動くかを口にすると走り出す。


未だにゆっくりと歩く青年は慌てる様子も見せず、イクトとガイは走り出してから何の苦労もなく接近すると両者ともに手にした武器で斬りかかろうとする。


が、それでも青年はゆっくりと歩き続けていた。


「コイツ……!!」


一切動じぬ敵を前にしてイクトは驚きを隠せないが、だからといって攻撃をやめるつもりはない。


何もしようとしないなら躊躇うことも無く力一杯斬るだけ、イクトはそう思っていた。


「はぁっ!!」


「おりゃっ!!」


ガイの刀とイクトの大鎌、二人の武器から放たれた一閃は力強く放たれるとともに敵に襲いかかろうとする。


しかし……


二人の攻撃に対して青年は防御する様子はない。


なのに二人の攻撃は青年に当たることなく外れてしまう。


「……え?」


何が起きた?


避ける動作も防ぐ動作も取ろうとしなかった無防備に等しい相手に攻撃が当たらなかった。


一切のダメージを受けることなく終わった青年は少し進んだ先で足を止めるとイクトとガイの方に振り返り、そして彼らに向けて話し始めた。


「オマエたちじゃオレには触れることは出来ない。

オマエたちとオレとでは……立っている場所が違うのだから」


「そんなこと……!!」


炎に焼かれて崩れていく洋館が激しく揺れる中でイクトは影の腕を出現させると青年を捕らえようと放つが 、青年に向かっていく影の腕は対象に近づく中で目に見えぬ何かに弾かれてしまう。


「!?」


「……伝わってないかな?

オレとキミじゃ……話にならないほどに力の差があるんだよ」


「……!!」


「だとしても!!」


イクトが驚く中でガイは刀を構え直すと青年との距離を一瞬で詰めて斬撃を放とうとした。


しかし、それすらも叶わなかった……



「遅い」


ガイが斬撃を放とうとした時青年は指を鳴らし、鳴らされた指の音に反応するように刀は砕け、そしてガイは押し返されるように吹き飛ばされてしまう。


「ぐっ……!!」


吹き飛ばされてしまったガイは何とかして体勢を立て直すとイクトの方を向いて何かを目で訴えるように視線を向け、それを受けたイクトは影の中から新たな刀をガイに向けて放つ。


放たれた刀を手にしたガイは構え直そうとしたが、ガイが刀を構えようとしたのとほぼ同じタイミングで青年の頭上の天井が崩壊して落下物が炎とともに青年に襲いかかろうとする。


「ここも限界か……」


青年がため息をつくなり何かしようとした。


が、それよりも先にどこからともなく吹いてきた烈風が落下物と炎を吹き飛ばしてしまう。


「!?」


突然の事で動きが止まってしまうイクトとガイ。


そして二人は何かしたであろう青年の方に視線を向ける。


「オマエ……何をした?」


「……別にオレは何もしてないさ」


「ふざけ……」


「ふざけてるのはアナタたちです」


どこからともなく声がする。


イクトでもガイでも敵として認識している青年でもない誰かの声。


誰の声だ?

主のわからぬ声はイクトとガイの後ろから聞こえてきた。


そのためイクトとガイは咄嗟に声の主の正体を確かめようと後ろを見た。


そこにいたのは仮面をつけたメイドだった。


顔全体を隠すように付けられた白い仮面には赤い瞳のような模様が描かれ、床につきそうになるほどの長さのスカートのメイド服に身を包む人物は両手に黒いガントレットを装備していた。


腰の辺りまで長く伸びた白銀の髪の美しさとは違い、その仮面越しに伝わってくるのは冷たく重い敵意。


イクトもガイも仮面越しに伝わってくる敵意を感じ取ると武器を構えようとしたが、それを遮るように仮面のメイド……メイドの女性は二人の行動を止めるかのように静かに言葉を発した。


「……リュクス様。

ご命令を」


メイドの女性が発した言葉はイクトとガイが敵と認識して先程攻撃していた青年に向けてのものであり、彼女の言葉を聞いた青年は首を鳴らすと迷うことなく告げた。


「現実を少しばかり理解していないようだ。

そこの彼らに……実力の差を教えてやれ、ジャスミン」


「……承知しました」


青年の言葉に対して一言返事をしたジャスミンと呼ばれた彼女は全身に魔力を纏うと音を立てずに姿を消してしまう。


「な……」


「消え……」


目の前からジャスミンと呼ばれた仮面のメイドが消えた、二人はそう認識していた。


だが……


そう認識してした時にはイクトもガイも何かに殴られたかのように吹き飛ばされてしまう。


「「!!」」


吹き飛ばされたことに驚く二人だが、受け身を取って体勢を立て直すと武器を構えようとした。


しかし……


「ずいぶんゆっくりと動かれるのですね」


イクトが構えようとした大鎌を足場にするように彼女はイクトの武器の上に立っていた。


いつの間にそこにいたのか……いや、いつからそこにいたのか。


イクトはそれを何とかしてハッキリさせようと思考を働かせるが、その一方でガイは刀を強く握って彼女を斬ろうと迫っていた。


「ガイ!!」


「何をしたかは関係ない……。

邪魔をするなら女でも倒す!!」


仮面のメイドに接近するとガイは迷うことなく刀を振って一閃を放つ。


ガイの放つ一閃、それはジャスミンと呼ばれた彼女の首を落とそうと彼女に向かっていくが、彼女は指示を出した青年同様に避けようとも防ごうともしない。


ただ彼女は何かのボタンを押すかのように右手人差し指を前に出した。


が、ただそれだけの行動によって次に起きた事は攻撃を放ったガイとそれを見ていたイクトを驚かせる。


「な……」


「ウソだろ……!?」


「意気込みは見事です。

ですが……」


ガイの放った一閃を彼女はただ前に出したであろう右手人差し指の一本で止めており、止められた刀の刃は無数の亀裂が生じると砕けてしまう。


「意気込みだけで力量は不足しています。

この程度ではリュクス様どころか私すらも倒せません」


「コイツ……」


「少し期待してしまいましたが……残念です」


大鎌から飛び降りるように彼女は飛び、そしてまたしても音を立てずに姿を消してしまう。


「また消え……」


「イクト!!

後ろだ!!」


「え……」


「遅いですよ」


彼女を見失って動きが鈍くなるイクトに向けてガイは叫ぶが、ガイの言葉を聞いたイクトが反応するよりもはやくにジャスミンはイクトの体に後ろから数発の掌底突きを食らわせる。


彼女の攻撃を受けたイクトは何も出来ぬまま大きく吹き飛び、大鎌を手放す形で地面に倒れてしまう。


「が……!!」


「イクト!!

……「修羅」!!」


倒れるイクトを心配するガイは彼の名を呼ぶと蒼く染めた魔力を身に纏い、仮面のメイドに攻撃しようと考えた。


が、ガイが蒼く染めた魔力を身に纏った瞬間に彼女はガイの目の前に現れ、彼の腹に拳を叩きつける。


「ぐっ……」


彼女の拳を叩きつけられたガイの体から魔力が消え、体から力が抜けたのかガイは膝をついてしまう。


イクトとガイ、二人がこのまま戦闘を継続できないと判断したのかジャスミンは魔力を消すと青年のもとへ向かおうとした。


「リュクス様、終わりました」


「ご苦労さん、ジャスミン。

相変わらず戦う姿は美しいね」


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


「……待てよ」


すると倒れたはずのイクトが何とかして立ち上がると青年を見ながら質問をした。


「オマエは……オマエたちは何者だ?」


「それを聞いてどうするつもりだ?」


「……オマエたちの正体を知ることが出来る。

その為にも……」


「リュクス」


「え……?」


「オレの名はリュクス。

ギリシャ語でプテリュクス……翼を冠した言葉より名を授かった男だ」


「リュクス……」


「そして彼女はジャスミン。

オレのために戦ってくれる存在だ」


「リュクスとジャスミン……」


「名前はどうでもいい」


イクトが青年と仮面のメイド……リュクスとジャスミンの名を頭に記憶しようとしているとガイがリュクスに向けてある質問をした。


「キキトの居場所を教えろ」


ガイの質問、それは本来リュクスに殺されたリブラにするはずの内容だった。


そしてその内容を聞いたイクトはここに来た本来の目的を思い出す。


本来の目的……それはキキトの居場所を知り、今回の姫神ヒロムを狙うことになった本当の理由を知ること。


つまり、真実を知ることだ。


「キキト……ああ、あの情報屋か」


「そいつは今どこにいる?」


「……さぁな。

正確な位置は分からないが……まだ近くにいるんじゃないか?」


「……なぜそんなことが分かる」


「分かるに決まってるだろ?

何せヤツは……キキトって情報屋は「八神」に仕えてる人間だからな」


「……は?」


リュクスの口から出た言葉、それを聞いたガイは驚くあまり言葉を失うが、イクトは驚きと困惑に板挟みされたのか目の前の男の言葉を疑うように声が漏れてしまった……


***




洋館の外。


広い庭園は炎で焼き尽くされ、建物もほぼ半分が焼けて崩壊しているのが確認出来る。


そんな庭園の真ん中に相馬ソラは立っており、その周囲には全身に火傷を負った賞金稼ぎの能力者や情報屋の人間たちが倒れていた。


「……アイツら、遅いな」


ソラは武器として使っていた拳銃を片手に持ちながらイクトとガイが戻ってくるのを待っていたが、洋館の崩壊が進む中で二人が戻ってこないのを心配していた。


心配といっても彼ら二人の身の安全ではなく、イクトが裏切っていないかどうかについてだ。


「アイツ……リブラってのと裏で手を組んでてハメたとかなら殺すぞ」

(まぁ、その時はここに倒れてる全員を殺すだけだけど……)


「キ、キミ……」


すると一人の中年の男がソラのもとへと恐る恐るやって来る。


近づいてきた男にソラは銃を向け、銃を向けられた男は慌てて両手を上げて敵意がないことを伝えようとした。


「ま、待ってくれ!!

な、何もしないから……銃を下ろしてくれないか?」


「……アンタ、さっき洋館から追い出されてたヤツか」


「そ、そうだ。

キミのおかげで助かったよ」


「……そう思うなら失せろ。

邪魔だからな」


ソラはため息をつくと男に告げて銃を下ろすと男に背を向ける。


ソラの冷たい言葉を受けた男はどこか残念そうに落ち込むとソラに背中を向けてその場を去ろうとした。


が……男は去ろうとした瞬間に不敵な笑みを浮かべると懐からナイフを取り出し、振り向くなりソラに刺そうとする。


だがソラはそれを分かっていたのかすぐに銃を構えると引き金を引いて弾丸を放ち、男の手からナイフを弾き飛ばした。


「!!」


「……オマエ、何者だ?」



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