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XIII


炎に包まれ、焼けていく洋館の中でつづく戦い。


ガイは蒼く染めた魔力を纏う中で相対する敵のリブラに殺意を向けながら刀を抜刀しようと柄を握る。


「なるほど……。

能力を使えばオレを簡単に倒せる、そう考えているんだな」


構えるガイの姿を見ながら両腕の義手の拳を構えるリブラは彼に向けて話し始めた。


「たしかにオマエの能力についてはオレは情報を持っていない。

弱冠八歳にして大人三〇〇人を木刀一つで倒した天才、鉄をも斬る一閃を放つ剣舞……悔しいことに戦闘に関してはこれ以上の情報を持っていない」


「……今話す必要あるか?」


「ああ、あるさ。

立場をハッキリさせたいなら聞いても……」


断わる、とガイは刀を抜刀すると走り出す。


リブラに向けて殺意を向けるガイは迷うことなくただ敵の命を奪うために刀で斬ろうと距離を詰めていく。


「さっさと倒してオレはヒロムの強さを……」


「そもそもそれが間違っている」


リブラが指を鳴らすと敵を倒すために走っていたはずのガイが目に見えぬ何かに押し返され、リブラとの距離を引き離されるように吹き飛んでしまう。


「!?」


何が起きたのか、それは分からないがガイは受け身を取ると構え直した。


構え直すとガイは再び動き出そうとするが、イクトはそれを止めるように彼の前に大鎌を突き出した。


「……何のつもりだ?」


「無謀すぎる。

相手の手の内が分からないのに攻めるのはな」


「それは向こうも同じだ。

オレの能力を知らないなら……」


「さっきみたいに吹き飛ばされるだけで終わると思うか?」


「……」


イクトの言葉を受けるとガイは言い返すことをせずに黙り、ため息をつくとイクトに意見を求めるように訊ねた。


「ヤツについての情報は?」


「……ガイが能力を知られてないようにリブラも能力を知られていない。

けど、能力とは別の情報ならある」


「どんな情報だ?」


「……「リブラに触れるのは難しい」。

ある情報屋が口にした言葉だ」


「リブラと戦ったヤツか?」


「いや、情報屋だから戦闘じゃない。

リブラと話をしようとした情報屋の言葉だ」


ガイの問に対しての答えのように語られたイクトの言葉、それを聞いてガイはどういう意味なのか分からずにいた。


「どういうことだ?

ヤツは……」


「呑気におしゃべりとは余裕だな!!」


ガイがイクトに詳しく説明させようとしたその時、それを遮るかのようにリブラが叫ぶ。


リブラが叫ぶとイクトたちのいる部屋が急に揺れだし、壊れた壁や床の破片の一部が浮遊するとイクトとガイに向けて襲いかかっていく。


「!!」


「これがリブラの能力か!!」


イクトは影の腕を出現させると飛んでくる破片を防ぎながら自身とガイを守り、ガイは刀を構え直すとリブラに向けて走っていく。


「なっ……ガイ!!」


「何かするのは分かってる。

オレが何とかして致命傷負わせるから援護頼む!!」


「勝手なことを……いいけど!!」


勝手に決めて動き出したガイに対して不満を抱くイクトは渋々承諾すると影の腕を出現させ、ガイの後を追わせるように放つ。


放たれた影の腕はガイの後を追うように動く中でリブラに狙いを定めながら拳を作っていく。


さらにイクトは大鎌を構え直すと走り出し、自らもリブラに攻撃しようと接近していく。


(ガイの言い分も一理あるけど……気になるのはリブラの能力だ。

ヤツは何をしたのか……それをハッキリさせたい)


リブラに向かっていく中でイクトはリブラの能力につおて考え始める。


(さっきの破片を飛ばしたのとガイを押し返したあの力……可能性があるとすればサイコキネシス、「念力」の類だ。

あの手の能力は能力者の認識下にあるものでないとその力が働かない。

つまりこの部屋がの中にあってリブラの視界に入らないものは影響を受けないはずだから、オレの能力の射程圏に入ったと同時にアイツの影から奇襲を……)


「考えながら走ってるのが丸わかりだぞ、イクト!!」


リブラの能力について考えるイクトの思考を邪魔するようにリブラが叫ぶと天井が崩れ、崩れた天井から無数の鉄骨がイクトに向けて雨のように降って落ちていく。


「はぁ!?」

(鉄骨なんてどこから……)


「クソが!!」


イクトに鉄骨が迫る中、リブラに向かっていこうとしていたガイが慌ててイクトのもとへ向かうと斬撃を放ち、降り落ちる鉄骨を両断していく。


両断された鉄骨は軌道を変えて床に突き刺さるように落ち、イクトはそろを避けるように駆け抜けるとガイに礼を言うように一言叫んだ。


「助かったぞガイ!!」


「能力の全容が分からないなら油断するな!!」


「多分リブラの能力は「念力」だ!!

アイツが認識したものを……」


「その程度の情報しかないのに戦いを挑むとは賞金稼ぎとしては致命的な判断ミスだな!!」


イクトがリブラの能力についての考察をガイに説明しているとイクトに向けてリブラは鋼鉄のマスク越しに笑みを浮かべながら言うと両手を前にかざした。


リブラが両手をかざすと部屋がさらに揺れ、次第に壁や床に大きな亀裂が入り、どこからともなく鉄骨や石の彫像、さらには刀や斧までもがイクトとガイに襲いかかろうと飛んでくる。


「やば……」


「ちっ……!!

「修羅」!!」


ガイの蒼く染まった魔力が大きく膨れ上がると迫り来る飛来物を飲み込み、飲み込まれた飛来物はまるで斬撃を受けたかのように切り刻まれていく。


さらに蒼く染まった魔力はイクトの方に向かっていくとイクトに襲いかかろうとする飛来物を次々に破壊していく。


破壊され、切り刻まれた飛来物は床に落ちていき、イクトはガイのその力に驚いていた。


「すげぇ……」


「……久しぶりに使ったせいで調節ミスったな」


ガイは首を鳴らすと魔力を抑えるように小さくさせ、刀を構えるとリブラを睨むが、リブラは顔色一つ変えることなくガイを見ていた。


「……少しはやるようだな。

オマエの能力……あれは何だったのか気になるな」


「答える気はないし、オマエに知る権利を与える気もない」


「……まぁいい。

ここで殺せば知る必要もなくなるしな」


それより、とリブラはイクトの方に視線を向けると彼を憐れむように語り出す。


「オマエにはガッカリだ。

その程度の考えでオレの能力を理解した気でいる……これまで生きていたのが不思議だよ」


「リブラ、アンタの能力はまさか……」


「フッ……気づいたようだな。

冥土の土産に答えを教えてやろう。

オレの能力は「磁天」。

オレの能力な効果範囲にあるあらゆるものを自在に引き寄せ、反発させる力だ」


「あらゆるものを……」


「目に見たり耳で聞いたものが全てではない。

力とはあらゆるものを凌駕してこそ証明される!!」


「凌駕してこその力、か。

その割にはオレやガイを倒せてねぇよな?」


リブラの言葉を聞くなりため息をつくとイクトは相手を刺激するように言い、さらに大鎌を構える中でリブラを挑発するように言葉を放つ。


「オマエ、口だけでオレたちのこと倒せそうにないぞ?

その能力じゃオレたちを殺せないのか?」


「おい、イクト!!

やめろ!!」


リブラを挑発するように言葉を発するイクトを止めようとガイは叫ぶが、その言葉を無視してイクトはリブラに向けて挑発を続ける。


「結局オマエは偉そうにするだけで大したことの無い……その程度なんだよ、オマエは」


「……その手には乗らないぞイクト。

得意の挑発から冷静さを失わせて隙をつくる作戦……オレには通じない」


イクトの挑発を受けても平然としているリブラを呆れたような目でイクトを見ながら言うが、イクトはそれすらも聞かずに続けて言葉を発する。


「内心ではイライラしてるんだろ?

無理するなよ。

もうオマエが取り仕切っていた根城は焼け消えようとしてる。

オマエの虚勢だけの世界は消えるんだよ」


「……それ以上言ったら殺すぞ?」


「いいよ、やればいいさ。

オレの攻撃は……もうアンタを始末する気満々だけどな!!」


「何を……」


何を言っている、と言おうとしたリブラだったが慌てて背後を振り向いて何かを確かめようとした。


すると、リブラの背後から襲いかかろうと影の拳がすぐ近くまで迫っていた。


「なっ……」

(いつの間に!?)


「悪いね、リブラ。

鉄骨落とされる直前に背後から忍び寄るように影の腕を隠したのさ。

ガイが鉄骨両断なんて大技見せてくれて視線が誘導された隙にな」


「……小癪な真似を!!」


迫り来る影の腕を破壊しようとリブラは右手をかざす。


が、それを見たイクトは笑みを浮かべ、それを気配で感じ取ったリブラは慌てて影の腕を破壊してイクトの方を見ようと振り返る。


すると……


「なんだ、隙だらけだな」


リブラが振り返った時にはガイがすでに接近しており、刀はリブラの首を落とそうと迫っていた。


「もらうぞ、その首!!」


「……させると思うか!!」


リブラは左腕の義手で刀を防ごうとするが、ガイが放つ一閃は鉄骨を両断するほど。


その一撃を受けたリブラの義手は破壊されるが、同時にガイが手に持つ刀の刀身も砕けてしまう。


「はっ……!!

そんな脆い刀でオレを殺せると……」


「フッ……オレは倒せないようだから後は託すか」


リブラの言葉に対してガイは落ち着いた様子で告げると突然後ろに跳ぶ。


ガイの行動の意味が分からなかったリブラはチャンスだと思ったのかまだ残る右手でガイを倒そうとするが、その判断は甘かった。


「いいのか?

オレを倒そうとしても?」


「何を……」


ガイに言われて周囲に目を向けたリブラ。


彼の周囲にはいつの間にかイクトの影の腕と拳が展開され、その全てがリブラを倒そうと迫っていた。


「な……」

(ヤツの能力の射程圏には入っていないはず!!

なのに……)


「オマエのおかげだなリブラ。

オマエがあれだけ物を飛ばしてオレに破壊されたことでイクトの射程圏は増えたようだ」


イクトの代わりに説明するガイ。

その説明を受けたリブラは床を見た。


床には先程ガイが破壊した飛来物の欠片が散らばり、それを伝うようにしてイクトの影が広がっていた。


「まさか……」


「気づくの遅いぜリブラ。

ガイの一撃も最初の影の腕も……これを用意するための囮だ!!」


「オマエぇぇ!!

オレのことを……」


「ぶっ飛ばせ!!

無限影絶拳!!」


リブラが何かを言うのを止めるようにイクトが叫ぶと影の腕と拳が一斉にリブラを襲い、叩きつけられた拳は敵を殴り飛ばしてみせる。


殴り飛ばされたリブラは床に伏すように倒れ、影の拳に殴られたからか彼の右腕の義手は砕ける形で壊れていた。


「倒したか……」


「いやぁ、悪いね。

囮になってもらって」


倒れるリブラを見て魔力を消したガイのもとへ歩み寄ると笑顔でイクトは言うが、それを聞いたガイはイクトに向けて質問をした。


「……いつあの手を思いついた?」


「ん?

ああ……鉄骨落とされた時だよ」


「あの時から?

だがオマエは能力について把握してなかったはず……」


「してなかったよ。

けど知識はあった。

「念力」ならこの室内のものしか能力が及ばないはずだしな」


「だとしてもはじめから大量の影の腕を……」


「射程圏外になると威力と制度が落ちるんだよ。

だから射程圏に入るか影と影を繋げるしか無かった」


「なるほど……。

それをするためだけに間違っている情報を流して能力を引き出したのか」


「そっ。

直接手を下そうにも何らかのものを利用すれば影を伝うことが出来るようになる。

あとは適当に時間稼ぎして条件を整える」


「ふーん……」

(あれだけのことを短時間で思いついて実行に移す……。

口にするのは簡単だが実際やるとなれば無謀すぎる賭けだ。

それを躊躇うことなく実行するとは……賞金稼ぎとして修羅場を制してきたからこその自信というやつか)


イクトの考えとそれを行動に移した決断力に感心するガイだったが、話題を変えるようにリブラを見ながらどうするかをイクトに訊いた。


「キキトについて聞き出すんだよな?」


「ああ、そのためにまずは影で拘束しないとな」


リブラを拘束しようとイクトは影の腕を出現させるが、炎に焼かれて崩壊しつつある洋館の崩壊が今いる部屋にまで及び始める。


「イクト、聞き出すなら早くしろ」


「分かってるよ。

脱出する時間も考えて……」


「それは無理だな」


イクトでもガイでもリブラでもない声が聞こえてくると同時にイクトとガイは何かに殴り飛ばされる。


「「!?」」


イクトとガイはすぐに立ち上がると構えるが、二人はその目に映ったものに驚いていた。


「な……」


いつの間にそこに現れたのか?


倒れるリブラのそばには金色の装飾の施された黒いコートに身を包んだ紅い髪の青年が立っていたのだ。


「よぉ、リブラ。

うぇーい」


両肩には紅い翼を模したような装飾を付けた青年は気の抜けたようなあいさつをするとリブラに手を振る。


「お、オマエ……」


「……挨拶なしかよ。

それより、助けて欲しいか?」


「くっ……情けをかける気か?」


「質問に質問で返すヤツは嫌いなんだけど……まぁいいや。

オマエの利用価値も終わったからな」


じゃあな、と青年が指を鳴らすとリブラの全身が炎に包まれ、そして一瞬で黒く焼け焦げると音を立てることも無く消えてしまう。


「リブラ!!」


「オマエ……何者だ?」


リブラに何かしたであろう青年、それが敵だと確信したイクトとガイは戦おうと構えるが、青年はなぜか構えようともせずに何かを語り出す。


「……かつて聖女と謳われた少女は貶められて炎で焼かれた。

誰かを恨むことも無く、己の行いを信じながら人々を導こうとした」


「あ?」


「何の話だ?」


「……とある聖女の話さ。

さて……オマエたちの運命も決めるか」

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