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XI


目的地である情報屋の集会所から約一キロ離れたところで車を降りたイクトはソラと集会所へ向かうように移動していた。


一緒に車から降りたはずのガイの姿はなく、二人はそれを気にする様子もなかった。


「で、その集会所とやらはどこで行われてるんだ」


目的地に向かう中、ソラは集会所についてイクトに訊ねた。


「もう少し歩けば見えてくるよ。

何せ目立つ作りになってるからね」


「情報屋の集会所だろ。

目立たなくするのがセオリーじゃないのか?」


「情報屋にとっては情報網のためならオープンの方がやりやすいらしい。

それに賞金稼ぎが情報を求めてやってくることもある。

情報を金で提供するとなれば外観は目立つ方が客寄せにもなる」


「金で手に入るのか?」


「高額だけどね。

簡単な情報一つだけでも数万単位を請求されるからね」


マジかよ、とソラは少し驚いた顔をして言うが、その表情を見る限りでは心の底からは驚いてはいないようだった。


言葉で驚いている風に見せているだけで本人は至って冷静だった。


それ故にソラは次の質問へと話を進めた。


「キキトから情報を得るのにも金がいるのか?」


「キキトは信用した相手にしか情報を渡さないから基本情報をもらうとなると信頼されてる証だから無償だ。

ただ眉唾物が多いけど……」


「今から向かう集会所で出くわす可能性はあるか?」


ないな、とイクトは即答するとその理由についてすぐに話した。


「マスターの店めちゃくちゃにしたことが噂としてアイツの耳に入っているとすれば集会所へ向かうのもバレてるだろうし、狙いがキキトってのも筒抜けだろうな」


「だがリブラってのが素直に居場所を話すと思えないな。

面倒なヤツなんだろ?」


「ああ、オレの影の空間に人を隠したまま話しかけられることすら嫌がるくらいに隠し事を嫌うヤツだ」


けど、とイクトは歩き進む中でソラに向けて言った。


「その面倒な相手から情報を得るためにやるんだろ?」


「当然、な。

ガイの考えた作戦でいく。

手はず通りにやれよ?」


「言われなくてもね。

……っと、見えてきたよ」


イクトが足を止め、ソラもそれに連なるように歩みを止めるとイクトが視線を向ける方へと視線を向けた。


イクトとソラの視線の先、その先には一際目立つ洋館があった。


今いる位置から確認出来る範囲で言えば洋館の敷地内にはスーツに身を包んだ男が何人も歩いており、建物の中には武器を背負った男たちが入っていくのが見える。


「あそこか」


「あそこだよ。

敷地内にいるスーツの男は警備だ。

能力者を倒すための特殊な訓練を受けてるから手強いぞ」


「……それ、オレに言ってるのか?」


「マスターの店にいた賞金稼ぎの比じゃないからな。

賞金稼ぎの反乱を阻止するためにリブラが用意したと言っても過言ではない」


「そうか。

まぁ、どの道邪魔するのなら殺すだけだ」


「……加減って言葉分かるよな?」


「遊びで来てんじゃねぇんだ。

一歩踏み出せば生か死しかない戦場だ」


「……車の中でも言ったけど、建物の中にいるのは大金を簡単に稼ぐ猛者どもだ。

外の警備ばかりに気を取られてたら……」


「そのためにガイが提案した作戦がある。

成功すればそれで終わりだ。

……分かったら準備しろ」


「強引すぎる男は嫌われるぞ?」


「軽口ばかり叩くなら先に殺すぞ?」


イクトの頭に拳銃を突きつけながらソラは告げ、ソラの拳銃をその目で見るとイクトはため息をついた。


「……分かったよ。

さっさとやろうぜ」


「素直に従えばそれでいい。

オマエとオレたちの共闘のためだからな」


***



熱海の別荘地から少し離れた場所にある洋館。


古びた外観からは歴史を感じさせるが、洋館の敷地内にある庭園は人が今も生活していることを証明するようにキレイに管理されていた。


そんな庭園を黒いスーツに身を包んだ男たちが周囲を警戒するように巡回していた。


男たちは耳に無線機を付けており、そして腰には武器を持っている。


イクトが言っていた特殊な訓練を受けた戦士、それが彼らだ。


「……」


「……」


AIに記憶された指示を全うするかのように静かに巡回する男たち。


すると洋館の入口の扉が開くと中年の男が放り出されてくる。


「ひぃぃ!!」


「おい、コイツを敷地外に捨ててこい」


扉の先から青年が男たちに指示を出し、指示を受けた男たちは放り出された中年の男を連れていこうとする。


「ま、待ってくれ!!

話だけでも聞いてくれ!!」


「てめぇの相手するほどこっちは暇じゃねぇんだよ」


失せろ、と青年は吐き捨てると中に入っていこうと扉を閉めようとする。


が、ふと敷地の外……洋館の庭園にある門の方を見るとそれをやめてしまう。


「あれは……」


門は人が入れるように開いている。


が、その門をくぐって入ってきたのは少年だった。


そう、ソラだ。


「……ガキが迷い込んだか」


だが青年とソラは初対面、つまり青年は初対面のソラを迷子だと思ったのだ。


青年はソラを追い出そうとするために建物の外に出ると庭園を歩いてくるソラのもとへと向かい、そしてソラを追い出すべく声をかける。


「おいオマエ。

子どもが何をしに来た」


「人を探してるんだが、質問していいか?」


「話を聞いてるのか?

何をしに来たか聞いているのは……」


「人を探してるって答えただろ」


ソラは音を立てることなく拳銃を取り出すと青年の両足に銃弾を撃ち込む。


「がぁぁぁあ!!」


「質問に対する答えを言え。

殺すぞ?」


弾丸を撃ち込まれた青年は悲鳴をあげながら倒れ、それを聞いたスーツの男たちは中年の男を放置してソラを始末しようと動き出す。


中年の男はスーツの男が離れたのをいいことに安全なところに隠れようと逃げていき、それを確認したソラは男たちに向けて拳銃を構えると叫んだ。


「さっさとかかってこい!!

オマエらまとめて殺してやるよ!!」


ソラは走って来る男たちに向けて拳銃から炎の弾丸を放つが、男たちは弾丸を避けながら距離を詰めていた。


が、ソラはそれに臆することも無く全身に炎を纏わせると自身の頭上にいくつもの巨大な炎の球を生み出していく。


「クリムゾン・コロナ・ワールド!!」


ソラが叫ぶと巨大な炎の球が勢いよく放たれ、放たれた炎の球はスーツの男たちを襲うと同時にその先にある建物……洋館に衝突するも破壊しようと炎で燃やそうとしていた。


炎の球に襲われたスーツの男たちはひどい火傷を負いながら倒れ、そして燃えていく洋館から次々と人が出てくる。


それは民間人ではない。


鍛えられた肉体を持つ男、巨大な槌を背負った男、両手に鉤爪を装備した細身の男……など、それぞれが異なった装いをする者たち。


その者たちに共通するもの、それをソラは説明されずとも理解していた。


「やっと出てきたか、賞金稼ぎの猛者ども。

オマエが出てこないと作戦が台無しなんだよ」


「おいガキ……。

ここがどこか分かってんのか?」


「オマエみたいなテロリストごっこのための場所じゃねぇんだぞゴラァ!!」


「こちとら生活のためにここに来てるんだぞ。

どう落とし前つけてくれるんだよ、ああ!?」


「……勝手に騒いでろ。

オマエらに何らかの理由があるのは百も承知だ。

けど……ここにいる親玉が隠してる情報のせいでオレの大事な者が狙われるのも事実!!

それを阻止するためにオマエらを殺す。

全てはアイツのため……オマエたちの首を並べてリブラの前に置いてやるよ!!」


ソラは全身に纏う炎を大きくさせると走り出し、ソラの言葉を聞いて完全に怒りを覚えた賞金稼ぎたちはソラを倒そうと武器を構えて動き出した。


「かかれぇー!!」


「「うぉぉおおお!!」」


「死にたいヤツからかかってこい!!

その代わりオレは簡単には死なせねぇぞ!!」


***


洋館の中。


ソラの攻撃により建物は燃え始め、中にいる人々は逃げようと外に向かって行く。


そんな中、スーツに身を包むサングラスをかけた長髪の男が建物の出入口とは反対の方向へ進んでいた。


階段を上り、炎に侵蝕されていく壁の続く廊下を歩いていき、その先にある扉を開けると中に入っていく。


扉の先は洋室で執務用と思われる机と大きな椅子があり、その椅子の上には一人の男が腰掛けていた。


コートに身を隠し、顔も見えぬようにフードを深くかぶった男。


その男に向けてスーツの男は報告した。


「リブラ様、ご報告があります」


「……何だ?」


「庭園にて相馬ソラと思われる人物が暴れています。

被害は甚大で……」


「そんな報告する時間があるなら始末してこい。

オレの手を煩わせるな」


「しかし……」


「それに……猿芝居はその辺にしたらどうなんだ?」


リブラと呼ばれた男はスーツの男に向けて冷たく言い、男に冷たく言われたスーツの男は言葉を失って何も言えなかった。



……と思われたが、スーツの男はため息をつくなり男に向けて言った。


「……いつ気づいたのか気になるな」


「最初からだ。

熱海にオマエたちが到着した時点で報告を受けてるからな。

オレに用があるんだろ、イクト」


まぁね、とスーツの男はスーツの上着を脱ぎ捨てると自分の髪の毛を掴み、掴まれた髪はカツラだったらしく頭から離れると黒い髪が姿を見せ、サングラスを外すことで男の素顔が晒される。


「分かってるなら話が早くて助かる」


スーツの男……に扮していたイクトは本性を見せるとリブラに向けて話を始めた。


「キキトの居場所を教えてくれ。

オレはアイツに用がある」


「それを教えて何の意味がある?」


「真実を知るためだ。

アンタに利益はないかもしれないが、教えてもらうぞ」


「ふざけるな。

オマエがヤツらを始末しないせいでオレの大事な館が焼かれそうになってるんだ」


男は立ち上がるなりフードを外し、額と口、顎などを機械のような鋼鉄の製品で覆われた素顔を表に出すとイクトを睨みながら言った。


「オマエのせいでこんなことになってるんだ。

責任、取ってくれるよな?」


リブラはマントを翻すと機械と化した両腕を出し、イクトを睨みながら構えた。


そしてそれと同時に入口を塞ぐようにイクトの背後に数人の能力者が現れ、前後でイクトは敵に狙われるような状況になっていた。


が、イクトは影を膨らませると大鎌を出現させ、それを手に取ると構えながらリブラに向けて告げた。


「責任なら取ってやるよ。

オマエらを倒して、この館の存在を終わらせてやる」


「オマエ一人でか?

さすがの「死神」でも……」


どうかな、とどこからか声がするとイクトの影が膨れ上がり、その中からガイが出現する。


ここに向かうソラとイクトのそばにいなかったはずなのになぜ?


「オマエ……」


「影の中に隠しての面会は嫌いだったっけ?

でも……仕方ないよな?」


「アンタがリブラか。

悪いが命を狙うヤツの土俵に入るほどオレたちも律儀じゃないからな」


リブラに向けて言うとガイはイクトから借りた刀を抜刀すると構え、イクトも影から大鎌を取り出すと構えた。


「さて……始めるか」


「ああ、ショータイムの始まりだ!!」

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