Ⅰ
能力者の中には道を踏み外し、それ故に悪とみなされ、賞金を懸けられる者がいる。
犯罪者、そう呼ぶのが相応しいかもしれないが、彼らは能力者として戦っている。
故にその賞金額も通常の指名手配犯に懸けられる金額と比べると少し多い。
能力があるが故の金額。
だがその金額に目が眩み、興味本位で倒そう捕らえようとする者が後を絶たず、その度に搬送者が増える。
そんなことの繰り返し。
そんな中でそれらを相手にした賞金稼ぎをする能力者もいる。
情報に長け、実力も申し分ない。
殆どが大人、つまりは子どもや素人が軽い気持ちで入れる世界ではない。
だが、その世界に一人、彗星の如く現れた少年が一人。
十四歳という若さでありながら大人も顔負けの実力を持ち、あらゆる賞金を独り占めする能力者。
彼は畏怖と敬意を合わせて「ハンター」と呼ばれ、同時に武器に使う大鎌から「死神」と称されている。
そう、この物語は一人の少年が「ハンター」として過ごしていた頃の物語である。
***
夜の港。
人のいないはずのその場所に黒いスーツを身に纏った男が一人いた。
男は何かを探すように辺りを見渡しており、見つからなかったのかため息をつくとスーツからタバコを取り出す。
「まだ来ていないのか……。
約束の時間なんだがな……」
誰かを待っているらしい。
が、その相手は来ていないのか姿はない。
男は左腕につけた腕時計を見て時間を確認し、舌打ちをするとタバコに火をつけようとポケットにあるであろうライターを探す。
が、ライターがないとか中々見当たらず、男の苛立ちは増すばかり。
仕方ないな、と男はタバコに向けて右手人差し指を向けると、指から小さな火が現れ、タバコに火をつける。
「約束の時間までは能力者とバレぬように能力の使用を禁じられていたが……来ないアイツが悪い」
男はタバコで一息つきながら待ち人を待つことにした。
ちょうどその時だ。
男のもとへと向かってくるように黒いフードを被った黒いコートの何者かが歩いてくる。
待ち人が来たように思えたが、男はそれを警戒するように懐に隠す銃に手をかける。
「こんばんわ」
若い男の声、男と言うよりは少年という方が相応しいかもしれない。
だが少年だとすればこんな時間にこんなところにいるのはおかしい。
そう思うと男は余計に警戒してしまう。
「誰だオマエ?」
「あらら?
あいさつしてくれないんだ?」
目の前の者は挨拶されなかったことにため息をつくが、男はただ拳銃を構えれるようにスーツの中で握っていた。
「用がないなら帰れ」
「寂しいこと言わないでくださいよ〜。
お兄さんは誰を待ってるんです?」
「聞こえなかったか?
用がないなら……」
「もしかして、この人ですか?」
目の前の者はどこからか取り出したであろう写真を男に向けて投げ渡す。
受け取った男はそれを確認すると驚愕し、そして敵意を向けながら拳銃を構える。
「あら?」
「なんでこの男の写真を……!!」
「んん〜?
なんでだと思う?」
「答えろ!!」
「……やだ」
目の前の者……少年は笑みを浮かべて答えるが、それが男を刺激してしまった。
引き金に指をかけ、少年の額に狙いを定めて撃とうと男はする。
血相を変え、殺気に満ち溢れたその顔は同時に焦りすら感じられる。
「……どうしたのですか?
そんなに怖い顔して」
「そいつをどうした?」
「この写真の人?
どうしたって言うのは?」
「今どこにいるのか答えろ!!」
男は苛立ちと焦りから少年に大声で吠えるように言うが、少年は呑気にあくびをすると答えた。
「関係ないでしょ、今のアンタには。
どうせここで終わるんだからさ」
「何を……」
少年は何を言いたいのか。
それを理解しようとした男の思考を妨げるように拳銃が破壊される。
何の前触れも無く、だ。
「!?」
突然のことで驚く男を前に少年は右手を前にかざす。
何かされると感じた男は後退りするが、右手をかざした少年の影が隆起するとともに何かが飛び出してきた。
「それは……」
「オレの武器だよ」
影より出てきた少年の身の丈以上はあるサイズの大鎌、それを手にした少年はフードの下から不敵な笑みを男の目に捕えさせると大鎌を振り上げる。
「オマエは……まさか……」
「さぁ……ショータイムだ!!」
***
三分後。
男は黒い何かに縛り上げられる形で拘束されたまま動けなくなり、少年はそれを近くにあった木箱の上に座って眺めていた。
男は少年を必死に睨むのだが、口元まで何かにより覆われているがために何も言えないでいるのだ。
「無様だねぇ……そんなんで密売人やってるとか」
「フーッ!!……フーッ!!」
「ごめん、聞こえねぇわ。
つうかこんなんに懸賞金つけてんのがビックリだな」
少年は呆れながらに男に言うと、大鎌を影の中へと潜ませていく。
すると突然強い風が吹き抜け、少年のフードを頭から外させていく。
「……夜風は冷えるねぇ」
フードの下から現れた素顔。
若く、整った容姿はアイドルであってもおかしくないような美形で、黒髪と黒い瞳はそれをより引き立たせている。
「……さて、依頼も済んだことだし帰ろうかな」
ダメだよ、と少年の前に一人の青年が現れる。
緑色の髪に猫のヒゲを思わせるような両頬のキズ。
少年はそんな彼を見ると手を振った。
「情報と違うんだけど?」
「そうかい?
キミなら苦戦しないと思ったけど」
「……弱すぎるって話だよ、キキト。
これじゃあ稼いだ気になれない」
「大金欲しいならいい情報あるよ?」
すると青年・キキトは一枚の写真を少年に手渡した。
少年は写真を見ると、そこに写ってる人物に少しだけ驚いた。
「コイツは……」
「知ってるはずだよ。
キミと同じ学校の通う生徒だしね」
「説明してくれてるでしょうな?
コイツを狙う理由について……」
ダメだ、とキキトは首を横に振ると少年に補足の説明をした。
「詳細の追及は禁止。
極秘の仕事として受けるなら報酬は十倍だ」
「怪し過ぎねぇか?」
「簡単な仕事だよ……そいつを殺せばいい」
「……殺しの仕事か。
受けるの避けてきたのに……」
殺しの仕事、つまりは暗殺や殺人の類のものは苦手な少年はため息をつくと写真に写る赤い髪の少年を見つめた。
「……コイツに何があるのやら」
「受けるのかい?」
「……仕方ねぇ、受けてやるよ。
その代わり、そいつの運搬よろしく〜」
少年はため息をつきつつも承諾すると放置されている男の処遇をキキトに任せてどこかへ向かっていこうとする。
「……期待してるよ、イクト」
これは少年……黒川イクトが今に至る前の物語。
彼が姫神ヒロムと出会い、そこからの始まりまでを紡ぐ闇に潜みし影の物語……。