【短編ver】転生、異世界転生て大多数はこんなもん。
オレの名前は竜崎 信二。
不慮の事故で異世界転生してきたばかりだ。
「くそぉ……何が異世界転生だ……さっきまで喜んでた自分を殴ってやりたい……」
不慮の事故で亡くなったオレは、あの世でガチムチの自称女神の男に異世界での転生を勧められた。
自分は、ノンケだ。
少しづつ身体をくねらせながら近づいて来る自称女神から逃げるべく、詳しい説明も聞かずに、転生先に向かう光の中へ飛び込んだ。
気がついた時、オレは森の中にいた。
明らかに先ほどいた場所でもなく、前の人生でいた都会でも無いことに、オレは喜んだ。
「やったーー! 転生したぞー!」
オレは両手を挙げ、高らかに叫んだ。
だが、その瞬間凍りつく。
オレは確かに両手を挙げた。
しかし、その目に写った両手は明らかに人の手ではなかったのだ。
オレは焦った。足元を恐る恐る見たが、どう見ても人ではない。
近くに池があったので、自分の姿をゆっくり確認する。
「!!」
赤い目、頭から生えた長い耳、ヒクヒク動く愛らしい鼻。
どっからどう見ても、ウサギだった。
「何でだ……何でウサギ?」
異世界転生って言えば、普通、人だろ? せめてドワーフとかエルフとかじゃないの? 何故、動物? 100歩譲って魔物だろ? はっ! もしかしたら、ウサギ型の魔物……って、そんなワケねぇ! 爪も無い、牙も無い。
くそぉ、愛らしい位しか取り柄がねぇ!
ん? もしかしたら、この森って、平和なんじゃない?
意外と、快適にウサギだけど所謂スローライフ、出来るんじゃない? って、思ってたバカなオレを、ホント殴りたい!!
「くそっ! くそっ!! くそっ!!!」
後ろから、うねうねと植物型の魔物が追ってくる。しかも、速い!
オレは懸命に走って逃げた。
だが、だんだんと迫ってくる。
「イテッ!」
足がもつれ転んでしまった。
オレは懸命に這うように逃げる。
「あれ?」
なんか、この態勢の方が速くね? って、そりゃそうか、ウサギだしな。二足で走るより、四足で跳んだように走る方が速いに決まってる。バカだなオレは。決定だ。もう、いっそ誰でもいいからオレを殴って。
スピードが上がり、なんとか植物型の魔物から逃げ切ったオレは、木の根元に隠れていた。
「腹、減った……」
ウサギって、何食べたっけ? あ、ニンジン……いや、そんなものは此処には無いか。なら、葉っぱ……葉っぱかぁ、あまり食べたくないなぁ。
我慢して、側にあった葉っぱをかじる。
「ま、不味い……焼き肉食いてえなぁ、って今はオレが焼かれる方か。ワッハッハ……ハァァ…………もう、寝よ」
オレは、とっとと寝る事にした。
散々走ったから疲れた。さ、寝るぞ。
ガサッ
ピクッ
ガササッ
ピクッピクッ
ね、寝れん。何か音がするたびに耳が反応する。
ウサギは、臆病ってのはホントみたいだな。
◇
「くそ! くそ! くそ! くそ~~!!!」
ほとんど、寝れず朝を迎えたオレは、懸命に跳び跳ね、逃げていた。
後ろからは、かなり速く迫ってくる。
狼、いや、恐らくは狼型の魔物。
普通の犬より遥かにデカい。
不味い、非常に不味い。オレより速い。このままじゃ、追いつかれる。
オレは焦っていた。
オレは度々振り返り、狼との距離を確認する。
いや、前だけ見て走るべきなのだろうが、恐怖心からか、どうしても振り返ってしまう。
だからだろう、これは仕方がない。例え前方の川に気づかないとしてもだ。
ドボン
オレは、川に飛び込んだ。決して落ちたわけではない。水泳で全国大会に出たオレが言うのだから、間違いない。
川は結構な流れの速さだった。
オレは得意のクロールで、ってダメだ。手が後ろに回らない。
というか、バタ足も出来ん! 平泳ぎ…………一見出来そうだが流れが速い。バタフライ…………だから、手が後ろに回らんて。背泳ぎ…………これも手が後ろに回らん。
オレは、もがいた。手足を必死に動かし、あれ? これ犬かきになってると気づく。
少し、流れが緩やかな場所に出ると、オレはチャンスだと思い、必死に川岸まで、泳いだ。
「はぁ……はぁ……な、なんとか着いた」
昨日から、走りっぱなし、ご飯もろくにありつけず、寝不足で疲れが全く取れない。
だからだろう、オレはここに来て最大のミスをした。
ガキン
「ーーーーッ!!」
足に、痛みが走る。
オレの右足は、まるでトラバサミのような、植物の魔物に挟まれていた。
「イテーーーーッ!!!!」
痛みがどんどん増してくる。それに、その魔物のフォルムには見覚えがあった。
─ハエトリ草─
かろうじて、まだ感覚のある右足から、挟まれた中がヌルッとしてるのに気づく。
「溶かされてる!」
オレは焦りを覚え、必死に残った左足で魔物を蹴りまくる。
「くそ! 離れろ! 離れろ!! 離れろ!!!」
ガンガン蹴ると、若干隙間が空き、オレは激痛を堪えながら右足を引き抜いた。
「ぐ────ッ」
オレは、恐る恐る引き抜いた右足を見ると、右足は血だらけで、少し溶けたのか骨が見える。
「うわぁぁぁぁ、もう嫌だ、なんで、なんで、オレがこんな目にぃ!」
オレは、残った片足でその場から離れるが、右足が地面に擦れる度に激痛が走る。
ガサッ
オレは、その音に気付き音がした方を見る。
そこには、茂みから出てきた、所謂ゴブリンがナイフを持ってこっちを見ていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
オレは泣きながら、必死に逃げる。片足でも、必死に逃げる。
後ろからタッタッタと、ゴブリンの足音がするが、振り返らず逃げる。
ズザーーッ
オレは盛大に転んだ。だが、転んだ所よりも右足に今まで以上の激痛が走った。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
オレは恐る恐る右足を見た。
しかし、その右足は本来ある場所ではなく、オレを見下ろすゴブリンの足の下にあった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない。
オレの意識は、そこで途絶えた────
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只今『不運な少年は転生したら異世界初の人間でした』も連載中です。
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