俺達はこの為に頑張ってきた
キーワード3つ目、なんか一周回ってこんな内容に。
ゲームで1つの事を熱中したことがあるだろうか。
例えば、最強の武器を作るためにドラゴンを倒したり、称号が欲しいからとひたすら地味な作業をやったりしただろう。
そして、俺達は地下帝国というギルドを作り……ある物を作る為だけに頑張ってきた。
地下にあるギルドは、ライトに照らされて大きな工場が広がっていた。
「健人、今まで俺のワガママに突き合わせてもらって、ありがとな」
「もう今さらだろ? どうせここまで来たんだ、やるなら徹底的にやろうぜ!」
「あぁ! 俺の最高の杏仁豆腐を作る為に!」
は? おい、今なんて言った? 杏仁豆腐だと? いやいやいや、嘘だろ?
疑問の声が出ていたのか、こっちを見て首を傾げていた……いや、どう考えてもおかしいだろ。
確かにお前は俺を誘う時に「俺はずっとやりたかった事があったんだ、手伝ってくれるか?」と言ってきたから、手伝ってやっただけだが……。
「おい! まさか、ただの杏仁豆腐を作る為だけにあんな事させたのか!?」
「ただのとは何だ! 俺は、このゲームで杏仁豆腐を作れるって聞いて、調べに調べ上げて最高の素材と最高の器具で作ろうとしたんだ!」
「騎乃が、杏仁豆腐を好きなのは知っていたが、そこまでするか!?」
このVRMMOのゲーム……クラフト・ワールド・オンラインを始めて2年目となるが、いきなり友達が「そのゲームをやるから手伝ってくれ!」と言ってきたのが始まりで。
数ヶ月に及ぶ、素材を取るためのレベル上げとゲーム内容把握で費やした時間がそれだけ?
「それじゃ、あの馬鹿デカイドラゴンは何のためだ!」
「あれは、鍋の素材で必要だったんだ……あのサイズを作るにはな」
「もしかして、あの硬い亀みたいなのもか?」
「あいつか、あれは近くにある植物取りたかっただけだ」
こいつの杏仁豆腐の為に……1人で数人以上で戦うドラゴンと戦い、レアドロップ品を1ヶ月かけて。しかも、亀みたいなやつと戦った理由が……そいつの素材じゃなくて周りの植物とか。
それもこれも全て、杏仁豆腐作るためだけかよ!
「知らなかったのか? 全員には言ったはずだがな」
「俺には1言もいってなかったぞ?」
「まぁいいじゃないか、2個のクレーンに吊るされて、出て来る大きな鍋で作った杏仁豆腐を頂こうじゃないか!」
いらねぇ~! 鍋のサイズ分かるか? 人が軽く30人は入れる大きさだぞ? それを俺一人で作って、その用途が杏仁豆腐だけだと? 馬鹿にしてるのか!
そんな俺を他所に、騎乃が凄く嬉しそうにしていると……10人以上の人達が俺達に近づいてきた。
「副マスター! このゲームの快挙ですよ!」
「ははは……ありがとう……」
10人の内1人が俺に話しかけて来るが、俺は素直に喜べない……副マスターの地位でいるが、正直もうやめたい……。
まさか、奴が勝手に設定していった、この工場兼……ギルド本部がただの杏仁豆腐の為に作られた物だったなんてな……。
こんな巨大な地下で基地の様な要塞まで……しかも巨大なクレーンも作って、しかも2個! 多額の費用と素材使ったんだぞ! 本気でどうなってやがる!
「よし、クレーンを上げろ!」
「「「「はい!」」」」
そう言って、騎乃が持っていた赤いボタンを押すと……巨大なクレーンが上がり、見えなかった鍋が見えてくる……。
その中には、デカくてこの人数でも食べきるのが難しいと思える量の杏仁豆腐が入っていた。
ゲームだから連続使用すればいいかもしれんが、1ヶ月くらい見るのは御免こうむりたい気分になりそうだ……。
全員なんでそんなに嬉しそうなんですかね! 聞きたいわ!
「俺はこんな事の為に頑張ってたのか……」
それと同時に俺は白目を向いてぶっ倒れた。
およみいただけでありがとうございます。