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文学

忘れん坊のサンタクロース

作者: 純白米

 「ねえ、サンタクロースは、どうして夜にみんなに隠れてプレゼントを配るの?別に悪いことをしているわけじゃないのに。」


 父は、分からないなぁと答えた。母も分からなかった。誰も答えが分からない。少年は、ずっと疑問であった。毎年毎年、クリスマスの夜に枕元にプレゼントを置いてくれるサンタクロース。でも、会ったことは一度もない。少年は、お礼が言いたかったのだ。


 「ああっ、いけない!プレゼントの梱包作業がまだ終わってないや!」

一方、こちらは世界中のサンタクロースが集まっていると言われるサンタクロース村。サンタクロースは、一人じゃない。たくさんのサンタクロースがいて、地域ごとに担当が決まっているのだ。疑問をもった少年の地域を担当するサンタクロースは、少々忘れん坊だった。


 「おい、またお前手袋を忘れているぞ!こんな赤い手袋、どうやったら忘れるんだ!」

 「この3号車のソリの乗車券、忘れたのはお前じゃないのか!?ソリに乗れなくても知らないぞ!」


こんなことが、日常茶飯事。忘れん坊のサンタクロース。

今もちょうど、明日に迫ったクリスマスをすっかり忘れていて、大慌てでプレゼントの梱包作業の続きをやっているところ。


「明日のプレゼントの配達は、絶対忘れるなよ!年に一度の一大イベントを忘れられちゃかなわないからな!」

そんなことを同僚に笑いながらバカにされるのも、もう慣れた。


 そして、いよいよ出発のとき。真夜中に、サンタクロースがそれぞれのトナカイが引っ張るソリに乗り込み、プレゼントを配る準備をする。

「いくぞ!!」

その合図で、サンタクロースは一斉に夜空へと飛び立つ。もちろん、あの忘れん坊のサンタクロースも。


「プレゼントの梱包もすべて終わってちゃんと積み込んだし、他に忘れ物もないな。あとは、忘れずに全ての担当の家庭に配るだけだ。」


 今年もサンタクロースは着々とプレゼントを子ども達へ届けて行く。

そして、ついにあの疑問をもった少年の家へとサンタクロースはやってきた。

サンタクロースには、子どもにバレてはいけないという決まりがあった。迅速に一夜のうちに世界中の子どもにプレゼントを配るためには、出来るだけ一つの家の滞在時間は少なくなければいけないのだ。子ども達とお喋りしている暇はない。

 だが、いろいろな家にプレゼントを配る中で、子どもが起きてしまうことはよくあること。ずっと起きて待っているなんていう子も中には居る。もし、一人の子に会ってしまえば、当然他の子も会いたがるだろう。だから、もしバレたときには、記憶変換ライトというライトで光を浴びせて、サンタクロースとの記憶だけを消さなければいけないのであった。


 サンタクロースは、忍び足で少年の部屋へと向かった。ゆっくりゆっくり、一歩一歩と少年の寝ているベッドへと近づく。可愛い寝顔である。サンタクロースは、毎年この可愛い寝顔を見るのを楽しみにしているのだ。

無事、枕元にプレゼントを置き、部屋から出ていこうとした。すると……


「……だれ?」

なんと、少年が起きてしまったのである。サンタクロースは慌てた。思わず荷物がこぼれおちる。ああ、落とした荷物を拾おうか、それとも先に少年の記憶を消そうか…。

サンタクロースが慌てていると、少年が話しかけてきた。


「サンタクロース……だね。はじめまして。毎年、素敵なプレゼントありがとう。

 ボクね、ずっと聞きたかったことがあるんだ。」


サンタクロースの動きが止まった。サンタクロースに聞きたいことなんて、一体なんだろう?


「サンタクロースは、どうして夜にみんなに隠れてプレゼントを配るの?別に悪いことをしているわけじゃないのに。」


サンタクロースはふふっと笑った。どうせ、この少年の記憶は消してしまう。だから、この少年の質問に、サンタクロースが答える必要もなかった。しかし、サンタクロースは口を開いてこう言った。


「それはね、サンタクロースは夢を配るのが仕事だからさ。夢は夜に見るものだろう?」


そう言って、サンタクロースは二カッと白い歯を見せて笑った。少年も笑った。

そして、サンタクロースはゆっくりと少年に記憶変換ライトを当てた。

「メリー・クリスマス……。」

少年はその光を浴び、そのまま再び眠ってしまった。


 翌朝、少年は目が覚めた。昨日の夜のことは、すっかり忘れてしまっていた。

「なんかあったような気もするけど…。変な夢でも見たのかな。」

少年の枕元にはクリスマスプレゼントがあった。少年は大喜び。ふと、少年は床に何かが落ちているのに気がついた。それは、赤い手袋だった。


「うーん、一体誰の手袋だろう?誰かの忘れ物かな……?」


忘れん坊のサンタクロース。

もしかしたら、誰もがサンタクロースに会ったことがあるのかもしれません。

ただ、忘れているだけで……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいてあったかい気持ちにさせられました。サンタクロースを信じていたころのことを思い出させる、そんな素敵なお話でした。 「それはね、サンタクロースは夢を配るのが仕事だからさ。夢は夜に見…
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