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設定資料集  作者: 米中毒
21/22

「街道宿〈三つ鍋亭〉 食堂の落書き」

食堂の机には、傷が多い。


ナイフで付けた切り跡、酒瓶の底でできた輪染み、焦げた跡。


誰が書いたのか分からない落書きが、木目を埋めるように彫り込まれている。


冒険者の悪口。

種族の噂。

酔っぱらいの自慢話。


中には妙に達筆なものもあれば、

酔って手元が狂ったのか途中で終わっているものもある。


料理を待つ客は、それを読む。

酒が回れば、自分も何か彫る。


店主は文句を言わない。

どうせ削っても、次の客がまた彫るからだ。


木の表面には、何年分もの酔っぱらいの知恵が刻まれていた。


そしてその中には、

妙に納得してしまうものもある。


一番近くの落書きを指でなぞった。



「この店のスープはうまい。

ドワーフが火を見て、エルフが水を見て、人間が鍋を見てる。


だが、客は猫獣人。

熱くてまだ飲めてない」



「天使は食堂にあまり来ない。

来ても静かに食って帰る。


ただ一つ分かっていることがある。


カレーを食わない。」



「人間は食材の解毒が得意だ。


数が多い分、馬鹿も多いんだろう。」



「エルフと呑みに行ったことがある。


俺が肉料理を待ち望んでいた時も、

三皿目を平らげた時も、

サキュバスをナンパし始めた時も、


あいつはずっとサラダを食っていた。


勘定のために席を立った時、

ようやく肉料理に手をつけた。」



「堕天使が食堂に来た。


羽は黒く、態度も気楽だ。

酒も肉も遠慮なく頼む。


いい客だ。


ただ一つ分かったことがある。


あいつらはソースを気にしないらしい。」



「竜人はよく一人でソファー席に座っている。


カウンターだと尻尾が通路を塞ぎ、

椅子だと尻尾がつっかえるからだろう。


それはそれとして友達もいない。」



「ドワーフとサキュバスの二人が酒場をやっていた。


一方は酒を選り好みし、

もう一方は丁寧な接客術を心得ていた。


確かに、いい店だ。


だか、がっかりした。


俺はドワーフの酒と、サキュバスの接客術を期待していた。」



「樹霊族を花瓶に入れて連れてきたバカがいた。


食堂では珍客だ。

店は大いに盛り上がった。


高級料理をふんだんに与えてやった。


だが、あいつらは皿をひっくり返し、

根っこから栄養を取っていた。」



「獣人は意外と理性的だ。

味覚も鋭く、隠し味も見抜かれた。


だが、あいつらは野生的だ。


食卓に並べる前に、俺の分は消えていた。」



「吸血鬼はサシの入ったいい肉ばっか食いやがる。

赤身肉は血生臭いんだとよ。


確かに。

あいつらの口の匂い嗅いで、俺も赤身肉が嫌いになりそうだ。」



「子供の妖精が食堂に来た。


料理を頼まず、

テーブルの花瓶に止まった。


蜜を舐めて満足したらしい。


だが帰ったあとで分かった。


花がやたら元気になっていた。」



「また、こんなくだらないことを机に彫っている。

隣には付き合いの長い悪魔がいた。


消化もできないのになんで飯屋に着いてきてくれたのか聞いた。


だって飯を食ったら人は口を滑らすからだと。

それをつまみに呑んでるんだと。


俺はやっぱり悪魔が嫌いだ。」



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