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連作短編集『 十六の標本 -愛の物語- 』

【標本No.3】永遠の花

作者: 湯琉里羅
掲載日:2026/03/15


――枯れない花は、神秘か?




その琥珀色の液体は、神の慈悲か、あるいは悪魔の退屈から生まれたものに違いなかった。


私は「枯れない薬」を、小さな鉢植えの一輪に、一滴だけ垂らした。



翌朝、私は部屋に満ちる異質な香りで目を覚ました。


かつて可憐だったはずの花は、瑞々しさを通り越し、まるで筋肉のように逞しく、艶やかな緑の蔓を壁に走らせていた。


「永遠」という名の契約が、音もなく私の生活を侵食し始めたのだ。



服薬から一ヶ月。


ついに花は天井に突き刺さろうとしていた。


窓をも埋め尽くしそうな太い茎が、力強く屋根を押し上げている。


私はこのとき、ここが田舎の一軒家で良かった、と心の底から思った。



それから一週間が経った。


天井を突き破るかと思われた花は、屋根に沿って湾曲し、徐々に電灯に忍び寄っていた。


大きく垂れ下がった蔓を、私は金具で誘導することにした。



それから五日が経った。


成長のスピードはどんどん加速している。


その花弁は、私の体をも覆うような傘になりかけていた。



それから三日が経った。


仕事帰り、ドアを開けようとすると、ギシギシ、という音がした。


無理やり開けると、ブチブチブチ、と蔦が切れてドアが開いた。


驚いた。もうこんなにも侵食しているとは。


愛おしかったはずの花は、いまや私をびびらせる存在になりかけている。


恐る恐る中を見ると、部屋の隅々まで蔦が張り巡らされていた。


挙句の果てには、葉がカッターのように壁をえぐる始末。


昼間の日光で急激に成長したのだろうか?


ヒビの入りかけたこの家を、どうすればよいというのか。


蔓を切ったところで切った蔓からまた生えてくるだけ...そう考えると恐ろしくて、いまだ手を付けられていない。


仕方がないので、明日の昼に作業することにした。


廃棄先も決めなければいけない。


やはり海が最適だろうか?


そんなことを考えながら、私は眠りについた。



翌日の朝。


私の目覚めはおおよそ良いものだった。


しかし、視界が見えない。


おかしい。これはなんだ?


ゆっくりとよけてみる。



――茎だった。



私は飛び起きた。


パジャマだったが構わない。


とにかく外に出たかった。


ドアへの道を幾つもの植物が拒む。


なんとかたどり着いたドアは、もう枠から外れ、歪んでいた。


開かない。


その恐怖を前にした時、私は瞬間的に近くに落ちていたマッチで蔓に火を点けた。


この蔓さえ燃えれば、外に出れる...。


しかし、私の考えは甘かった。


酸素いっぱいの部屋で炎は勢いを増し、あちこちに火花が散る。


蔦から蔦へと、赤は広がってゆく。


気づけば私は、燃え盛る蔦に囲まれていた。


あの日、私は自然の理に反した。


その報復は、これだとでもいうのか。


手足が被れ、服に火が点き、痛みが全身に巡ったと同時に、私は黒焦げた遺体となった。


だが、ここにはもう、あの恐ろしい植物は存在しない。


私は安堵とともに目を閉じた。



――消防隊が駆けつけ、彼の家は2日かけて鎮火された。



焦げ臭い匂いが抜けきらない一室の隅で、燃え残った緑の目が顔を出した。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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