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第7話:同期の裏切り、魔王軍のチートコマンド

 神界管理庁、異世界プロデュース二課。

 このフロアには、俺たちの「勇者運営」と、壁を一つ隔てた向こう側に「魔王軍運営」を担当する三課がある。

 鳴り響く電話の向こう側から、懐かしい、だが極めて不愉快な声が聞こえてきた。

「……よう、アラタ。景気はどうだ? お前のところの『カイト君』だっけ? 視聴率はいいみたいだけど、ちょっとやりすぎじゃないか?」

 電話の主は、三課のエースプロデューサーであり、俺の同期でもある伊集院いじゅういんだ。

 あいつは俺と違って、徹底的な「効率主義」で魔王軍を動かしている。

「伊集院か。……やりすぎとは心外だな。こっちは正規のパッチを当てて、健全にコンテンツを提供してるだけだ」

「健全ねぇ。四天王ゼノを『シャボン玉』に変えるのが健全か? おかげで、うちの部署は今、魔王様からのパワハラで大荒れだよ。……お前のところの勇者に、うちのエースが赤っ恥をかかされたんだからな」

 伊集院の声が、低く冷たいものに変わった。

「これは『警告』だ。お前のところの独走を止めるために、こっちも少しばかり『デバッグ用コマンド』を解放させてもらうぞ」

「……おい、待て! 伊集院!」

 ツーツー、という無機質な切断音。

 直後、俺のモニターが真っ赤な警告音を奏で始めた。

[CRITICAL: フィールド『王都近郊・平原』に、外部からの未承認コマンドが挿入されました]

[COMMAND: /delete_terrain --area_size 5000]

「……地形消去デリートだと!? あいつ、何を考えてやがる!」

 モニターの中では、カイトがリアナと共に平和な草原を歩いていた。

 そこへ突如として、大地に「奈落」が口を開く。

 物理演算の結果として崩れるのではない。そこにあるはずの地面のデータが、根こそぎ消えていくのだ。

「……あ、あれ? カイト様、足元が……!」

 異変に気づいたのは、現地協力者(共犯者)となった王女リアナだった。

 彼女の目には、大地が黒いデジタルノイズに変わり、消滅していく異常事態が見えている。

「えっ? 嘘、地面が消えてる……!? うわあああ!」

 カイトが真っ逆さまに落下し始める。

 ここは本来、勇者が「初心者の館」へ向かうための安全な道のはずだった。

「……クソっ! 伊集院の野郎、世界の整合性を無視して直接サーバーに干渉してきやがった!」

 俺はキーボードを叩き、落下するカイトの座標に緊急アクセスする。

「物理エンジン強制固定! カイトの重力加速度を0.1倍に下げろ! ……いや、それじゃ間に合わん。地形データが消えたなら、強引に『見えない足場』を生成クリエイトしてやる!」

 アラタの指が、光の速度でコマンドを入力していく。

 

 空中でバタつくカイト。

 その足元に、俺は透明なコリジョンを即座に敷き詰めた。

 カイトは空中を歩くような格好で、かろうじて静止する。

「……は、吐きそう。同時並行で欠落した地形の修復リペアプログラムを走らせろ! 王都の住民にバグだと気づかれるな!」

 管理ルームには火花が飛び、予備サーバーが唸りを上げる。

 そんな中、リアナが誰もいない空を見上げ、震える声で叫んだ。

「……プロデューサー様! これは、貴方様がなさったことなのですか!?」

「……違う! これは『敵』のハッキングだ!」

 俺は彼女の網膜に直接、緊急指示を表示させた。

『リアナ、今のうちにカイトを連れて安全圏へ退避しろ。地形の消滅は俺が止める。お前は魔法で“光の道”を作ったように演出カモフラージュしろ!』

「……承知いたしました!」

 リアナは咄嗟に杖を掲げ、黄金の光を放った。

 実際には何の効果もない視覚演出エフェクトだが、これによってカイトが空中を歩いている不自然さが「王女の奇跡の魔法」という解釈に書き換えられる。

「すごいやリアナ! 光の道ができてる! 君の魔法のおかげで助かったよ!」

 のんきに喜ぶカイト。

 だが、俺のコンソールには伊集院からの第2波が届いていた。

[WARNING: エネミー召喚コマンド実行]

[SPAWN: Lv.999『次元を喰らう大蛇サーバー・イーター』]

「……っ!! あいつ、ゲームバランスを壊す気か!? それは物語の終盤で出す隠しボスだろうが!」

 草原の中央に、空間を食い破りながら超巨大な大蛇が現れる。

 その体はノイズに塗れ、存在そのものが世界の「バグ」の塊のようだった。

「アラタさーん! 対応しきれません! 相手のコマンド、権限ランクが俺たちと同じレベルです!」

 スタッフが絶望の声を上げる。

 

 俺は、額の汗を拭い、眼鏡を指で押し上げた。

 伊集院がチートコマンドを使うなら、俺には俺の「プロデューサーとしての汚いやり方」がある。

「……いいだろう。伊集院、お前がその蛇を『正規のモンスター』として登録したのが運の尽きだ」

 俺は管理画面の奥深く、通常は触れてはいけない『キャラクター設定マニュアル』の禁忌に手を伸ばした。

「全知全能(パッチ済み)スキル、最終段階発動。……ターゲット『次元を喰らう大蛇』。属性定義を……**『カイトのファン(親衛隊)』**に変更しろ」

「……えっ?」

 

 スタッフが唖然とする中、俺はエンターキーを叩きつけた。

 次の瞬間。

 カイトを一呑みにしようと口を開けた大蛇が、ピタリと動きを止めた。

 そして。

「……キュゥ?」

 大蛇は赤面し(テクスチャの強制変更)、尻尾を子犬のように振り始めると、カイトの足元に擦り寄って「なでて」と甘え始めたのだ。

「……え。何これ、すごく可愛い……。僕、また何かやっちゃいました?」

 カイトが大蛇の頭をなでる。

 世界を滅ぼす災厄が、ただの巨大なペットに成り下がった瞬間だった。

「……伊集院、聞こえてるか? お前の魔王軍、今うちの勇者の『ペット』になったぞ。宣伝素材として使わせてもらうからな」

 俺は電話をスピーカーに切り替え、向こう側の絶叫を楽しんだ。

 だが、笑っていられたのはそこまでだった。

 コンソールに、新しい通知が届く。

 それは伊集院からではなく、「神界監査委員会」からの緊急招集だった。

[NOTICE: 異世界プロデュース二課。度重なる不自然なハック、及びキャラクターの不正操作の疑いで、明日、緊急監査(ガサ入れ)を行います]

 俺の心臓が、ドクンと跳ねた。

 

 地形崩壊、四天王のシャボン玉化、そして魔王軍のペット化。

 あまりに派手にやりすぎて、とうとう「会社(神界)」の目をごまかせなくなったのだ。

「……有給どころか、懲戒免職が見えてきたな」

 俺は、大蛇をなで回して喜ぶカイトと、それを複雑な表情で見守るリアナの姿をモニター越しに眺め、深く、重い溜息をついた。

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