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森の主は「リモコン」操作。必殺技(空振り)を直撃させろ!

粉雪って時々歌いたくなりますよね、ご高覧いただきありがとうございます

異世界の森――。

 そこは本来、立ち込める瘴気と獰猛な魔獣が支配する、人族立ち入り禁止の極限地帯である。

 だが、今のこの森は、神界管理庁が誇る「史上最大級の接待会場」へと作り変えられていた。

「ふふーん、なんだか今日は風が気持ちいいなぁ」

 カイトは、腰に差した『聖剣(という設定の、俺が切れ味を無限に固定した鉄屑)』をカチャカチャと鳴らしながら、遠足気分で歩いている。

 

 管理ルームのアラタは、血走った目でモニターを睨み、マウスを狂ったようにクリックしていた。

 

「……笑ってられるのも今のうちだぞ。お前の歩くルート上の魔物を、俺が全部『強制退散プログラム』で追い払うのに、どれだけのサーバーリソースを食ってると思ってるんだ」

 アラタの指は止まらない。

 カイトの足元に広がる泥濘を瞬時に乾燥させ、行く手を阻む棘の蔓を「背景オブジェクト」として透過処理し、快適なハイキングコースをリアルタイムで捏造し続けていた。

「アラタさーん、ターゲットの『森のキング・ベア』、配置完了っす。……あ、でもこれ、かなり機嫌悪いですよ」

 スタッフの声とともに、モニターに巨大な熊が映し出された。

 身長5メートル。一振りで巨岩を粉砕する、この森の生態系の頂点だ。

 

「当たり前だ、昼寝中に無理やり強制転送スポーンさせたんだからな。……よし、ベアの神経系に『外部操作プラグイン』をパイル・バンカー! 脊髄反射の制御権をこっちのコンソールに寄越せ」

 アラタがキーを叩くと、モニター上のベアの全身に、青白いグリッド線が走った。

「ベアの筋肉にリミッター解除のバフをかけろ。……ただし、カイトの攻撃が『当たる直前』にだけ、全身の筋肉を硬直させて回避不能にする。それと、痛覚設定はオフ。死ぬ瞬間に『神の威光に平伏す』ようなモーションを予約しておけ」

 その時、カイトが森の開けた場所――「決戦の舞台」に足を踏み入れた。

「……出たな、森の主! 今の僕なら、君を倒せる気がするんだ!」

 カイトが聖剣を抜く。

 だが、その構えは素人そのものだ。重心は高く、剣の重さに振り回されている。

 対するキング・ベアは、アラタの操作を撥ね退けんばかりの野生の咆哮を上げた。

「……っ、こいつ、ハックに抵抗レジストしてやがる! 野生の生存本能がシステムの介入を拒んでるのか!? おい、演算班! ベアの自由意志を強制シャットダウンしろ!!」

 管理ルームにアラートが鳴り響く。

 カイトが大きく踏み込み、聖剣を力任せに振り下ろした。

 

 当然、当たらない。

 カイトの剣先は、ベアの胴体から1メートル以上も離れた虚空を切った。

「……今だ!! 物理演算、座標爆発ポイント・バースト実行!!」

 アラタがエンターキーを叩きつける。

 ――その瞬間。

 カイトが剣を振り抜いた軌道上に、不可視の「真空の刃」が生成された。

 

 アラタがベアの内部に仕込んだ『高圧縮魔力爆弾』が、剣筋と完全に同期して炸裂する。

 ズドォォォォォン!!!

 爆音とともに、キング・ベアの胴体が内側から弾け飛び、その背後にあった樹齢数百年の大樹が、ドミノ倒しのように十数本まとめてへし折れた。

「……な、なんだって……!? 今、僕は、かすめただけなのに……!」

 驚愕するカイト。

 

「……ふぅ、ふぅ。……タイミング、完璧……。……おい、記憶操作班。カイトの脳内に『今の衝撃波は自分の魔力が溢れ出したものだ』という偽の成功体験を流せ。……あいつに、自分の力を疑わせるな!」

 アラタは椅子に深く沈み込み、激しく上下する肩で息をした。

 画面の中のカイトは、返り血一つ浴びていない綺麗な姿で、自分の手の平を見つめていた。

「はは、すごいや。……でも、ちょっと倒しすぎちゃったかな」

 

 カイトは、へし折れた森の惨状を見て、少しだけ申し訳なさそうに頭をかく。

 

「……えへへ。僕、また何かやっちゃいました?」

「……お前じゃねええ! 俺の、俺の精密操作の結果だ、この給料泥棒がああ!!」

 管理ルームにアラタの咆哮が虚しく響く。

 

 その時、ルームのドアが開き、いつものアロハシャツ姿のゼウス課長が、今度は高級そうなわたあめを片手に現れた。

「ブラボー! アラタ君、今の『森の破壊シーン』、上位次元の視聴者に大ウケだよ! おかげで、もっと『強い敵』が見たいってリクエストが殺到しちゃってさ」

「……何、言ってるんですか、課長。まさか、これ以上の魔物を……」

「うん、だから『四天王』、今から現場に投入するね! よろしく!」

「……は?」

 アラタの絶望をよそに、画面の端から、世界の理を壊すほどの魔力反応が接近してくる。

 

 こうして、当初の予定を無視した「地獄の接待」は、さらなる泥沼へと突入していくのであった。


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