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第1話:その「奇跡」の裏側で、俺の有給が死んだ

【第2章:ギルド登録は「手動」で無双。新人受付嬢をバズらせろ!】

勇者として王宮でチヤホヤされるカイト。しかし、彼は「自分の実力を試したい」とギルドへ向かうと言い出した。

だが、今のカイトは「設定上の数値」がデカいだけのモヤシっ子。

アラタは現場へ急行し、モンスター役に「カイトに倒される演技」のスパルタ指導を始めるが……!?



「嘘だろ……。鑑定水晶が、粉々になった……?」

 静まり返った王城の謁見の間。

 その沈黙を切り裂いたのは、王国近衛騎士団長の、震える掠れ声だった。

 広間の中心には、ついさっき「勇者召喚」の魔方陣から現れたばかりの少年――カイトが、どこか頼りない様子でポカンと口を開けて立っている。

 彼の頭上では、粉砕された水晶から溢れ出した膨大な魔力が、バチバチと火花を散らしながら収束し。

 黄金に輝く【職業:全知全能】という四文字を、空中に固定していた。

「えっ。あの、僕……また何かやっちゃいました?」

 頬を赤らめ、頭をかく少年。

 なろうテンプレートの教科書があれば、満点(100点)をつけたくなるほどの完璧な「無自覚俺強え」のムーヴだ。

 王女は頬を染め、騎士たちは戦慄し、老賢者は「救世主の再臨じゃ……!」と涙を流して膝をつく。

 だが。

 その感動的な光景を、次元の隙間にある『管理ルーム』のモニター越しに眺めていた俺――神界管理庁・異世界プロデュース二課の佐藤アラタは。

 飲みかけのブラックコーヒーがなみなみと注がれたマグカップをデスクに叩きつけ、絶叫した。

「……やってくれたなクソガキがあああああ!! 設定値ミスっただろうが!!」

 俺の目の前のホログラム・コンソールには、視界を埋め尽くすほどの真っ赤な警告ログが滝のように流れている。

[WARNING: 物理演算ユニット『鑑定水晶』が許容負荷を超過]

[WARNING: 当該エリアの現実強度が著しく低下。時空崩壊の危険性あり]

[CRITICAL: 現象の整合性を保つため、強制的に『奇跡』エフェクトを上書きします]

「おい、エフェクト班! 爆発の煙を今すぐ黄金の光に置換! 粒子の散布密度は300%だ!」

「水晶の破片が騎士の目に刺さらないよう、軌道を全数手動で書き換えろ! 早くしろ、物理エンジンが止まるぞ!」

 俺の指は、まるでピアノの超絶技巧を奏でるピアニストのように、キーボードの上を猛烈な勢いで滑っていく。

 カチカチカチ、とキーを叩く音が、静かな管理室に銃声のように鳴り響く。

「……ふぅ、ふぅ。なんとか……視覚的な整合性は取れたか……」

 モニターの中では、黄金の光に包まれたカイトが、まるで神の使いか何かのように神々しく演出されている。

 実際には、俺が急造パッチを当てて「爆発という失敗」を「奇跡という演出」に無理やり上書きしただけなのだが。

 世間では「異世界転生には裏で操るプロデューサーがいる」なんて都市伝説が囁かれているらしい。

 残念ながら、それは実話だ。

 そしてその実態は、夢やロマンとは程遠い。

 血と汗とコーヒーの匂いが漂う、超弩級のブラック労働現場である。

「お疲れ様。アラタ君、相変わらずいい仕事をするねぇ」

 背後から、緊張感の欠片もない声がした。

 振り返ると、アロハシャツに短パンという、およそ神には見えない格好をした男が、高級な神酒シンシュをストローで啜りながら立っていた。

 俺の上司、ゼウス課長だ。

「課長……。笑い事じゃないですよ。今回の『鑑定水晶破壊イベント』、本来の予算の3倍はリソース食いましたからね」

「物理演算をあんなに強引にねじ伏せたら、後でどんなバグが出るか……」

「いいじゃないか。見てよ、この数字。上位次元の『視聴率』が爆上がりだ。やっぱり読者はこういう『スカッとする展開』を求めてるんだよ。君の『盛りすぎ設定』、大成功だね」

「盛りすぎたのは俺じゃありません。課長が『もっと派手に、もっと無自覚に!』って仕様書に書いたんでしょうが!」

 俺はデスクの上の仕様書を叩いた。

 そこには、殴り書きのような雑な指示が記されていた。

【主人公:カイト(高校生)】

【性格:お人好しだが、自分の異常な力に無自覚】

【目標:とりあえず無双してバズること】

「これのせいで、俺は三日三晩一睡もせずに、カイトの周囲10メートルだけ物理定数を書き換えてるんです」

「あいつが転ばないのは、俺が床の摩擦係数をリアルタイムで調整してるから。あいつが適当に投げた石が魔物の急所に当たるのは、俺が重力加速度をミリ単位でハックしてるからなんですよ!」

「それがプロデューサーの腕の見せ所じゃないか。あ、これ次回の台本ね」

 ゼウスはヒラヒラと、一通のデータファイルを投げて寄越した。

「次は、カイト君が『王女に一目惚れされて、婚約破棄イベントに乱入しちゃう』の回。演出プランとしては、一歩歩くごとに足元から花が咲くくらいの派手さが欲しいな」

「……課長。これ終わったら、俺、有給取っていいんですよね? 先月の残業代、まだ振り込まれてませんし」

 ゼウスはニヤリと笑い、自分のスマホを弄りながら、そそくさと出口へ向かう。

「あー、ごめん。今、別のプロジェクト……『悪役令嬢・エリザベス』の世界で大炎上が起きててさ。ヒロインが闇堕ちして、シナリオが崩壊しかけてるんだ」

「次はそこ、並行マルチタスクでプロデュースお願いできるかな?」

「………………は?」

「君ならできるよ! 何せ二課のエースなんだから。じゃ、よろしく!」

 バタン、と景気のいい音を立ててドアが閉まる。

 嵐が去った後のような静寂の中、モニターの中ではカイトが王女の手を握り、「僕、ただの一般人なんですけど……」と、これ以上ないほど鼻につく謙遜(ドヤ顔)をかましていた。

 ……ああ、分かったよ。

 やってやろうじゃねえか。

「……いいか、カイト。お前はただ、バカ面下げて『また僕何かやっちゃいました?』と言ってればいい」

 俺は真っ白になったスケジュール帳をゴミ箱に叩き込み、新しい世界のコントロール・パネルを叩いた。

「その裏で、俺が物理法則を捻じ曲げ、国を動かし、全人類に『さすがです!』と言わせてやる。――それが、世界一過酷な、プロデューサーの仕事だ」

 俺の指が、再び激しく動き出す。

 次はどのテンプレートをバズらせれば、俺の有給は承認されるのか。

 答えの見えないデスマーチが、今、幕を開けた。



今回のプロデュース・ログ

ターゲット: 召喚勇者カイト(17歳)

主な演出: 鑑定水晶の物理破壊、黄金のエフェクト、記憶操作

消費リソース: 予算の300%(赤字)

プロデューサーのHP: 残り15%

次回はギルド登録(接待プレイ)

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