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HP1の建築士、最強の『絶対安全圏』を創る~小石で即死する俺の為、魔王も勇者も過保護に領地防衛します~  作者: 月神世一


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EP 7

過保護すぎる防衛戦 ~大家さんを死なせるな!~

 高性能ヘッドフォン(ノイズキャンセリング機能付き)を装着した俺は、ソファの上で胎児のように丸まっていた。

 聞こえない。何も聞こえない。

 だが、床――衝撃吸収率99.9%の『プチプチ』入りコルク床――を通して、微かな振動だけが伝わってくる。

 ズズズッ……。ドォォン……。

 まるで遠くで花火大会が行われているような、あるいはゴジラが散歩しているような振動だ。

 俺のHPは現在【0.9】。

 ストレス性胃炎で0.1減った。

「オーナー様、すごいですわ……」

 隣でモニターを見ていたニャングルが、顔を引きつらせながら実況を始めた。

 俺はヘッドフォンを少しずらして、恐る恐る尋ねた。

「ど、どうなってる? もう終わったか?」

「いえ、一方的な『解体ショー』が始まったところでんがな」

 ◇

 モニターの中では、地獄絵図が展開されていた。

 結界を強引に突破し、雄叫びを上げて侵入した『毒サソリ団』の先頭集団。

 彼らが最初に足を踏み入れたのは、ルナが管理する『裏庭ジャングル』だった。

「ヒャッハー! なんだこのデカイ果物は! 宝の山だぜぇ!」

 盗賊の一人が、目の前にぶら下がっている巨大なスイカ(直径1メートル)に剣を突き立てようとした、その時だ。

「……私の可愛い子供たちに、触らないでくれる?」

 鈴を転がすような、美しい声が響いた。

 空中に浮遊するルナ・シンフォニアである。彼女は天使のような慈愛に満ちた笑顔で、世界樹の杖を振るった。

「土に還りなさい。【強制堆肥化コンポスト・バースト】」

 ゴゴゴゴゴ……ッ!

 地面から無数の『根』が噴出した。

 それはただの根ではない。ルナが世界樹の魔力で品種改良した、『超高速成長・食虫植物(マンドラゴラ亜種)』の根だ。

「ギャアアア!?」

「な、なんだコリャアアア!」

 根は盗賊たちの手足を絡め取り、あっと言う間に地面へと引きずり込んでいく。

 彼らは生きながらにして、極上メロンのための『養分』へと変換されていくのだ。

「ひぃぃぃ! 引けェ! ここはヤバい!」

 後続の部隊が慌てて回れ右をする。

 だが、その退路には既にDr.ギアが待ち構えていた。

「逃がすか若造ども! ワシの新兵器のテストはまだ終わっておらんぞ!」

 ギアが背負ったランドセル型の装置から、二本の『ノズル』が伸びた。

 それは、タロー国から仕入れた『高圧洗浄機』と『散水用ホース』を、ドワーフの技術で悪魔合体させた兵器だった。

「喰らえ! 超高圧水流カッター【ポセイドン・ストリーム】ッ!!」

 シュバァァァァァッ!!

 ノズルから放たれた水流は、音速を超えていた。

 ただの『水』が、鉄の鎧を紙のように切り裂き、魔導バイクのエンジンを真っ二つに切断していく。

「あ、ありえねぇ! ただの水鉄砲だろォ!?」

「水圧なめんなじゃあああ!」

 植物に食われる前衛。水圧で切断される後衛。

 『毒サソリ団』は、領地の庭に入るどころか、玄関先で半壊していた。

 ◇

「……えげつない」

 モニターを見ていた俺は、ドン引きしていた。

 あいつら、俺を守るためというより、単にストレス発散してないか?

「お、おい見ろ! まだ生き残りがいるぞ!」

 ニャングルが叫んだ。

 盗賊団のリーダーらしき巨漢が、部下を盾にして生き延びていたのだ。彼は血走った目で、俺たちのいるシェルター(本邸)を睨みつけていた。

「化け物どもがぁぁぁ! だったら、この家ごと吹き飛ばしてやる!」

 リーダーが取り出したのは、禁呪が封じ込められた『魔宝石』だった。

 自爆特攻。

 あれが起爆すれば、さすがの『ブルーシート結界』もタダでは済まないかもしれない。何より、その爆音と衝撃で俺の心臓が止まる。

「やめろぉぉぉ! 俺は平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁ!」

 俺が絶叫した、その瞬間だった。

 ドォォォォォォォンッ!!

 上空から『黄金の雷』が落ちた。

 いや、雷ではない。

 音速で飛来し、着地した『何か』が起こした衝撃波だ。

 その衝撃で、盗賊のリーダーは دمまりのように吹き飛び、魔宝石を手から落としてしまった。

「……うるさい」

 土煙の中から現れたのは、ねじり鉢巻に前掛け姿の『ラーメン屋の親父』――もとい、竜王デュークだった。

 彼は不機嫌そうに腕を組み、ピクピクとこめかみを震わせていた。

「我は今から、一番風呂に浸かろうとしていたのだ。……湯加減を確認し、コーヒー牛乳の蓋を開けるシミュレーションまでして来たのだぞ」

 デュークの瞳が、爬虫類の縦長の瞳孔へと変化する。

 その体から溢れ出る『竜威』だけで、周囲の大気が歪み、盗賊たちは泡を吹いて気絶した。

「それを……貴様らごとき雑魚が、騒音を撒き散らすとは何事だ。大家タクミが死んだら、誰が風呂の温度管理をするのだ? あ?」

「ひ、ひぃぃ……りゅ、竜王……!?」

 リーダーが腰を抜かした。

 伝説の竜王が、なぜこんな辺境の民家シェルターを守っているのか。理解できないまま、彼は絶望的な顔で空を見上げた。

「消えろ。……【黄金の息吹プチ・ブレス】」

 デュークが面倒くさそうに、口から『ふっ』と息を吐いた。

 それは深呼吸程度のものだった。

 だが、竜王の吐息は、それだけで戦略級魔法に匹敵する。

 カッッッ!!

 黄金の閃光が走り、盗賊団の残党は、彼らが乗っていたバイクごと、地平線の彼方へと『消去』された。

 地形が変わった。

 荒野に、一直線の綺麗な『クレーター』が出来上がっていた。

 ◇

 シーン……。

 静寂が戻った。

 モニター越しにその光景を見ていた俺は、ヘッドフォンを外した。

 そして、静かに呟いた。

「……やりすぎだろ」

 俺のHPは【0.8】。

 戦闘によるダメージはゼロだが、味方の火力への恐怖で寿命が縮んだ気がする。

 数分後。

 スッキリした顔のDr.ギア、ルナ、ネギオ、そして「肩の凝りが取れたわい」と笑うデュークが、リビングに戻ってきた。

「主よ! 無事か! 怪我はないか!」

「タクミ様、怖かったでしょう? もう『ゴミ』は全部片付けたから安心してね」

「オーナー様、これ戦利品の魔導バイクでっせ。高く売れますわ!」

 みんな、俺を心配してくれている。

 その気持ちは嬉しい。

 嬉しいのだが――。

「みんな……ありがとう。でも、次はもう少し『静かに』頼む……」

 俺はガクッと項垂れた。

 こうして、初の防衛戦は(敵が一方的に消滅する形で)幕を閉じた。

 だが、この騒動は、世界中に一つの事実を知らしめることになった。

 『あの荒野には、竜王すら番犬にするヤバイ領主がいる』と。

 俺の望むスローライフは、また一歩遠のいた気がした。

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