表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HP1の建築士、最強の『絶対安全圏』を創る~小石で即死する俺の為、魔王も勇者も過保護に領地防衛します~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

EP 3

隣国は軍事国家!? ~100円ショップの王様、タロー~

 Dr.ギアが住人として加わってから数日。

 タクミの『絶対安全圏シェルター』は、驚くべき進化を遂げようとしていた――設計図の上では。

ぬしよ! これを見るのじゃ!」

 ギアが血走った目で広げたのは、彼が徹夜で書き上げた青写真だった。

 そこには、シェルターの周囲に展開する『自律型迎撃砲台』や、『侵入者自動排除アーム』といった、物騒極まりない兵器群が描かれていた。

「すごいな爺さん。これならドラゴンが来ても撃ち落とせそうだ」

「うむ! 理論上はな! だが……問題が一つある」

 ギアは悔しげに髭を噛んだ。

「資材が足りんのじゃ。主のスキル『建材庫』にある木材や石材だけでは、精密な駆動系や、高出力の魔導回路が作れん。特殊なゴムや、精錬された金属、それに断熱用の素材が必要じゃ」

 タクミの【絶対建築】は万能に近いが、無から有を生み出すわけではない。

 初期ボーナスで持っていた資材も、シェルター建設で底をつきかけている。

「資材か……。この荒野で調達するのは自殺行為だしな」

「そこでじゃ! ここから東へ30キロほど行った場所に、最近急成長しておる国があるという噂を聞いた。『サトウ連邦王国』……通称『タロー国』じゃ」

 タロー国。

 その名は、荒野に漂着する前のギアも耳にしていた。

 なんでも、独自の高度な文明を持ち、周辺諸国が恐れる軍事大国だという。

「軍事国家か……。俺みたいなHP1人間が行ったら、入国審査の威圧感だけで死ぬんじゃないか?」

「安心せい。ワシが開発した移動用ビークル『シェル・ウォーカー』がある! これに乗れば、外気も振動もシャットアウトじゃ!」

 ◇

 数時間後。

 荒野を爆走する奇妙な物体の姿があった。

 見た目は、巨大な鉄の卵に四本の多脚が生えたもの。

 ドワーフの超技術と、タクミの建築スキルによる内装(極上のクッション性)が融合した、完全防備の移動要塞である。

『快適じゃのう! これならどこまででも行けるわい!』

「爺さん、スピード出しすぎだ。G(重力加速度)で俺の内臓が破裂しそうだ」

 コックピットの中で、タクミはシートベルトに雁字搦めになりながら呻いた。

 やがて、荒野の先に巨大な城壁が見えてきた。

 タロー国である。

 検問所の兵士たちは、突如現れた鉄の多脚戦車に槍を構え、ざわめいた。

 だが、その騒ぎはすぐに収まった。

 城壁の上から、一人の男が声をかけたからだ。

「おーい、そこの面白そうなメカ! ちょっと止まってくれ!」

 その男は、王冠を斜めに被り、片手には湯気の立つカップ麺を持っていた。

 この国の王、サトウ・タローである。

 ◇

 王城の応接室(といっても、畳が敷かれた和室だった)に通されたタクミとギアは、目の前の光景に唖然としていた。

 出されたのは、陶器のカップに入った黒い液体と、袋に入ったカリカリの菓子。

「コーラとポテチだ。毒じゃないから食ってくれ」

 タローはあぐらをかいて言った。

 タクミの目が点になる。

「……コーラ? ポテチ?」

「ん? その反応……もしかして君、日本人?」

 タローの目が輝いた。

 タクミもおずおずと頷く。

「あ、はい。元建築士の古城タクミです。……あの、ここ異世界ですよね?」

「だよねー! いやー、久しぶりだわ日本人! 俺は佐藤太郎。一応ここの王様やってるよ。スキル『100円ショップ』でのんびり暮らしてるんだ」

 100円ショップ。

 その単語を聞いた瞬間、タクミの中で全ての謎が解けた。この国に漂う、奇妙な『生活感』の正体はこれだったのか。

「で、タクミ君はどういうスキル持ち? その爺さんのメカもすごいけど」

「俺は『絶対建築』です。ただ……その代償なのか、HPが1しかなくて」

「えっ」

 タローがポテチを持つ手を止めた。

「1? 100じゃなくて?」

「1です。さっきも検問で兵士さんに睨まれて、ダメージ受けかけました」

「……うわぁ、ハードモードだねぇ。俺なんてラーメン食ってるだけなのに」

 タローは心底同情したような目でタクミを見た。

 そして、ポンと手を叩いた。

「分かった。同郷のよしみだ、協力するよ。資材を探しに来たんだろ? うちの倉庫にあるもん、好きなだけ持ってっていいよ」

 タローが案内したのは、城の地下にある巨大倉庫だった。

 そこには、100円ショップの商品が山のように積まれていた。

「これが……この国の宝物庫か……!」

 Dr.ギアが震える手で拾い上げたのは、園芸用の『防草シート』だった。

「なんという強度……! ミスリル繊維か!? いや、それよりも軽くてしなやかじゃ!」

 次に手に取ったのは、『プチプチ(気泡緩衝材)』。

「空気そのものを閉じ込めた鎧だと!? これがあれば、あらゆる衝撃を無効化できるぞ!」

 さらに、『プラスチック製の衣装ケース』。

「透明な金属……! 中身が見えるのに、水を通さないとは!」

 ギアにとっては、100均グッズはオーパーツ(超古代文明の遺産)そのものだった。

 一方、タクミの目にも、それらは輝いて見えた。

(……いける。この防草シートをスキルで積層強化すれば、ドラゴンの爪も通さない『絶対障壁』になる。プチプチを壁材に埋め込めば、俺が壁に激突しても死なない『完全衝撃吸収ルーム』が作れる!)

「タローさん、これ売ってください! 特にこの『ブルーシート』と『突っ張り棒』!」

「いいよいいよ、銅貨数枚で。あ、在庫処分品の『カラーボックス』も持ってく?」

 こうして、史上最強の貿易協定が結ばれた。

 タロー国から供給される『神の素材(100均グッズ)』と、Dr.ギアの『魔導科学』、そしてタクミの『絶対建築』。

 三つの力が合わさった時、荒野のシェルターは、難攻不落の要塞へと進化を遂げることになる。

 帰り際、タローは大量のカップ麺を土産に持たせてくれた。

 

「また遊びにおいでよ。……あ、でもタクミ君、移動中に死なないでね?」

 その言葉がフラグにならないことを祈りつつ、タクミたちはホクホク顔で帰路についたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ