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HP1の建築士、最強の『絶対安全圏』を創る~小石で即死する俺の為、魔王も勇者も過保護に領地防衛します~  作者: 月神世一


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EP 13

迷惑な妖精と地下帝国 ~キュルリンのダンジョンクリエイト~

 神と魔王が地下のカラオケボックスに封印(隔離)されてから、数日が経過した。

 二人の熱唱による振動エネルギーは、Dr.ギアの変換装置を通じて『聖域』の全ての電力を賄っていた。

「素晴らしい……。魔王のデスボイス一曲で、一般家庭の3年分の電力が溜まったぞ」

「エコだなあ。……いや、音源がヤバすぎるからエコとは言えないか」

 タクミはリビングで、タロー国から取り寄せた『最新ゲーム機』の電源を入れながら呟いた。

 HPは安定の【1.1】。

 地上は平和だ。地下では世界の終わりみたいな絶叫が響いているが、防音壁のおかげで振動もマッサージ機程度にしか感じない。

 だが、その平和な午後は、突如として足元から崩れ去った。

 ズズズズズズズズ……ッ!!

「うおっ!? じ、地震か!?」

 タクミが飛び上がった。

 縦揺れだ。しかも、カラオケの振動とは質が違う。地面の奥底から、何かが突き上げてくるような感覚。

「オーナー様! モニターを見ておくんなはれ! 地下2階のエリアに、正体不明の『空間反応』がありまっせ!」

 ニャングルの叫び声と共に、モニターに警告表示が出る。

 地下のカラオケルームのさらに下。

 本来なら硬い岩盤しかないはずの場所に、巨大な『空洞』が急速に広がっていたのだ。

「なんだあれ……? アリの巣か? いや、迷路みたいに広がっていくぞ!?」

 まるで生き物のように、岩盤が侵食され、通路や部屋が形成されていく。

 その進行方向は、あろうことか地上の『聖域(この部屋)』に向かっていた。

「まずい! このままだと床が抜ける! 俺が落下して死ぬ!」

 タクミが悲鳴を上げた、その時だった。

 リビングの床(プチプチ入り)を突き破り、小さな『影』が飛び出してきた。

 ドォォォォォンッ!!

「ケケケッ! 見ぃつけたぁ!」

 土煙の中から現れたのは、手のひらサイズの小さな妖精だった。

 虹色の羽を羽ばたかせ、可愛らしい顔に邪悪な笑みを浮かべている。

 カオス・ピクシーのキュルリンである。

「ゲホッ……! ほ、埃が……! HPが……!」

「主よ! 空気清浄機フル稼働じゃ!」

 タクミが咳き込む中、キュルリンは部屋の中を飛び回り、目を輝かせた。

「すごいすごい! ここ、すっごく面白い匂いがする! 神様の匂い、魔王の匂い、それに……とびっきり『変な人間』の匂い!」

 彼女はタクミの鼻先に急降下し、ジロジロと顔を覗き込んだ。

「ねえねえ、キミがここのボス? ボク、キュルリン! 地下からずーっと変な歌声が聞こえるから、面白そうだなーって掘ってきたの!」

「ほ、掘ってきた……?」

「うん! ボクのスキル【ダンジョンクリエイト(魔宮創造)】でね! ここ、地脈がいい感じだから、ボクの最高傑作『天魔窟てんまくつ』を作ることにしたよ!」

 天魔窟。

 その物騒な響きに、タクミの危険感知センサーが警鐘を鳴らす。

「て、天魔窟って何だ……?」

「えっとねー、地下100階まである超・即死トラップ満載の迷宮だよ! 毒の沼地とか、串刺し天井とか、マグマ遊泳プールとか! 世界中の勇者が悲鳴を上げて死ぬのを見るのがボクの趣味なの! ケケケ!」

 最悪だ。

 快楽殺人鬼ならぬ、快楽建築鬼だ。

 そんなものが自宅の地下にできたら、枕を高くして寝るどころか、寝返りを打ったら串刺しになって死ぬ。

「や、やめろ! そんな危ないもん作るな!」

「えー? やだもんね! もう作り始めちゃったし! ほら、見て見て!」

 キュルリンが指を鳴らすと、床の大穴からドロドロとした紫色の液体が溢れ出してきた。

「あれは……溶解液!?」

「そう! 触れると骨まで溶けるよ! すごいでしょ!」

「ギャアアアア! 俺のシェルターが溶けるぅぅぅ!」

 タクミは絶叫して逃げ惑った。

 Dr.ギアが慌てて中和剤を散布するが、キュルリンの創造速度の方が速い。

 このままでは、『聖域』が『処刑場』になってしまう。

(どうする……!? 力ずくで止めるか? いや、あいつは妖精族の最上位個体だ。魔法で消されるのがオチだ。……交渉だ! リベラさんは!?)

 リベラは今、タロー国へ買い出しに行っていて不在だ。

 自分でなんとかするしかない。

「ま、待てキュルリン! 取引だ!」

 タクミは溶解液ギリギリの場所で叫んだ。

「お前、面白い場所を作りたいんだろ? だったら、もっと『面白い』図面プランがあるぞ!」

「面白い図面? 毒沼より?」

「ああ! 毒沼なんて時代遅れだ! これからは『アミューズメント』だ!」

 タクミは震える手で、スケッチブックを取り出した。

 そして、前世の記憶にある『巨大レジャー施設』のラフ画を猛スピードで描き上げた。

「これを見ろ! ただ殺すだけの迷宮なんて、一度クリアされたら終わりだ。だが、これは違う!」

 タクミが提示したのは、カジノ、ゲームセンター、温泉テーマパーク、巨大シアターなどが詰まった『娯楽の殿堂』の図面だった。

「客を楽しませ、金を落とさせ、骨抜きにして帰らせる。そして『また来たい』と思わせる。これこそが、真に恐ろしい『永続的な支配』だと思わないか!?」

 キュルリンがポカンと口を開けた。

 そして、スケッチブックを奪い取り、食い入るように見つめた。

「……何これ。スロット? ジャグジー? マッサージチェア? ……あはっ」

 彼女の瞳に、狂気とは違う、純粋な好奇心の火が灯った。

「面白い……! これ、すごく面白いよ! 人間を痛めつけるより、人間を『堕落』させる方が、ずっと悪魔的だね!」

 方向性が若干ズレているが、食いついた。

「だろ!? 俺の設計アイデアと、お前の【ダンジョンクリエイト】があれば、世界一の娯楽施設が作れる! どうだ、手を組まないか!?」

「乗った! ボク、それ作りたい!」

 キュルリンが満面の笑みでタクミの手を握った。

 その瞬間、床に広がっていた溶解液が、キラキラ光る『ソーダ水』に変わった。

「契約成立だね! キミが設計士アーキテクトで、ボクが施工主ビルダー! さあ、早速作ろうよ! 地下100階まで全部!」

「全部!? 過労死するわ!」

 こうして、最弱の建築士と、最凶の妖精がタッグを組んだ。

 目的は『人間(主にタクミ)が死なないための、安全で楽しいダンジョン』の建設。

 だがそれは結果として、世界中の強者たちがこぞって金を落としに来る、恐るべき『地下帝国』の始まりとなるのだった。

「……とりあえず、地下1階は『スーパー銭湯』にするぞ。俺が入りたいからな」

「了解! サウナの温度は1000度でいい?」

「死ぬわ! 90度だ馬鹿者!」

 ツッコミを入れながらも、タクミは少しワクワクしていた。

 自分の設計図が、魔法のように具現化していく。建築士として、これ以上の興奮はないかもしれない。

 HPは【1.1】。

 どうやら、ワクワクすると少しだけ体が丈夫になるらしい。

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