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第4章 文明の境界

君生我未生,我生君已老 —— これは中国の古い詩句で、「あなたが生まれたとき、私はまだいなかった。私が生まれたとき、あなたはすでに老いていた」という意味です。運命のすれ違いや人生の無常を表現するものです。まだ適切な翻訳方法が見つかっていないため、原文のまま残しました。

 公開講義はまだ正式に始まっていなかったが、大教室はすでにほとんど満席だった。

 すべての座席は早々にオンライン予約で埋まり、これは前例のないことだった。

 テレビ局のスタッフは二台の固定カメラと収音機材を設置し終え、入口の係員は入場情報の確認に追われていた。場内は一時的に騒がしくなったが、全員が腰を下ろすと秩序は戻った。会場には孫を連れてきた祖父母、さまざまな社会人、そして本学の学生までいた。通常なら本学の学生がこうした場に興味を持つはずはない。彼らを引き寄せたのは――レイ・ウカンという人物そのものだった。

 教務の担当者が近づき、人はそろったと告げた。レイ・ウカンは温度のない視線を返した。

「ウカン!」

 聞き覚えのある、しかし好かれない声。入口には劉輝リウ・フイが立っていた。彼はたった今、一人でやって来たところだった。

 レイ・ウカンはやむなく入口へ歩み寄った。「リウ校長、何かご用ですか。」

 劉輝は身を寄せ、ほとんど囁くように言った。

「天下置業の投資を統括している責任者も来ている。あとで何とか、計算機と生命科学の話を少し入れてくれ。」彼はそう言いながら目配せをした。

「今日のテーマは宇宙論と理論物理です。脱線するのは適切ではありませんし、他分野に触れて不正確だと厄介です。」レイ・ウカンはそう言って、カメラの方へ視線を送った。

「はぁ……」劉輝はため息をついた。「わかった。なら、しっかり話してくれ。あの花柄のシャツでパーマをかけているのが投資責任者だ。もし質問されたら、言い回しに気をつけろ。」

「ええ。」レイ・ウカンは口元をわずかに上げ、うなずいて壇上に戻った。

 劉輝はその場にしばらく立ち尽くした。顔色はどこか不自然で、両手の置き所も定まらない。胸の前で組んだかと思えばズボンのポケットに突っ込み、ふさわしくないと感じて背後に回す。やがて彼はその場を離れた。

 レイ・ウカンはまず自己紹介と分野の紹介を行った。形式通りで、PPTにあらかじめ用意した内容を読み上げる――すべて実証済みの結果に基づく話だった。科学ファンにとっては前菜にしかならない。彼は意図的にこの定型部分を手早く済ませ、後半の自由質疑に十分な時間を残した。

 会場の秩序を司る女性司会者は驚いた表情を見せた。「もう質問コーナーに入るのですか?」

「もちろん。子供から始めましょう。宇宙学や理論物理に関することなら何でも。純粋数学でも構いませんが、あまりお勧めはしません。できるだけ多くの人に分かってほしいので。」

 司会の女性は、手を高く挙げている子供を指名した。後列に座る、頬の赤いぽっちゃりした少年だった。

「おじさん、宇宙人っているの?」

 レイ・ウカンは得意げに微笑み、逆に問い返した。「じゃあ君はどう思う?」

「いると思う。でもパパは、いないって言う。」

 会場は明るい笑いに包まれた。

 レイ・ウカンは講壇の上を数歩行ったり来たりし、突然この雰囲気を楽しみ始めたかのように見えた。手持ちカメラを構えたスタッフは彼にぴたりと付き従い、講壇の下の通路を一往復した。

「この問題を分析するには、まず論理を整理しましょう。私たちの宇宙はとても広大です。私たちが観測できる部分だけでも、銀河は二兆個あり、平均して各銀河には千億の恒星があります。太陽も恒星で、光を放ち熱を出しています。恒星の周囲を回る惑星のうち、距離がちょうどよく寒すぎず暑すぎず、水と大気と磁場があれば、その惑星の上で生物は生存し繁殖できます。多くの科学者が計算していますが、水と空気と磁場を持つ惑星は10¹⁸ から 10²³個と見積もられます。これは幅があり、計算基準の違いによるものです。10¹⁸は分かりにくいかもしれませんが、この数字は人類の総数の1億2500万倍にあたります。」

 レイ・ウカンは話しながら、チョークで黒板に数字を書いた。略さず、「1」の後に18個のゼロを丁寧に書き連ねた。

「つまり、宇宙にある“人が住めるかもしれない”惑星をみんなで平等に分けると、一人あたり1億2500万個を分け持てることになります。もちろん、これはかなり保守的な推定です。私たちが見ている宇宙は全体のごく一部で、見えていない領域がどれほど大きいか、現時点で統一された見解はありません。ですが、観測可能な宇宙だけをとっても、これほど多くの居住可能惑星があるのです。異星生命が存在するかどうかについて、皆さんはそれぞれ判断できるでしょう。」

「教授!」

 中年の男性の張りのある声が響いた。

 その呼び方に、レイ・ウカンの心にわずかな波紋が立った。眉根がわずかに寄ったが、すぐに平静に戻った。

「私はこの子の父親です!」

 また会場は朗らかな笑いに包まれた。

「教授にお尋ねします。これほど多くの居住可能惑星があるのに、なぜ我々は今日まで何の信号も受け取れないのでしょう?すべての宇宙人が外部に信号を発したがらない、とでも?」

 男は直立し、厳粛な表情だった。とりわけ自分の息子の前では、この問題が彼にとって本当に大切なのだと分かった。

 レイ・ウカンは微笑み、黒板に数式を一行書きつけた。

 Pr(R) = Pt · Gt · Gr · ( λ / (4 π R) )²

 Rmax = ( λ / (4 π) ) · ( ( Pt · Gt · Gr ) / Pmin )½

「これはフリース伝送方程式で、遠方場かつ顕著な吸収がない理想条件で成り立ちます。もちろん、ここにアレシボのいくつかのパラメータを代入する必要がある。アレシボは非常に代表的な電波望遠鏡で、いまは崩壊してしまいましたが、人類の通信能力の一つの基準として参照できます。」

 会場はたちまち水を打ったように静まり返った。

「ご安心ください。できるだけ平易に話します。さて、この紳士にうかがいましょう。向かいの高い校舎を遠い惑星、こちらを地球だと仮定したとき、どうすれば互いの存在を知れるでしょう。」

 レイ・ウカンが向かいの校舎を指さすと、聴衆はみなその方向を振り向き、テレビ局のカメラマンでさえも例外ではなかった。

「彼が大声で私に呼びかけることができます。」

「天文学的に極端な遠距離では、あなたの言う“呼ぶ”は各種の無線雑音に等しい。あるいはどこかの核実験場で核爆発が起きるようなものです。そうした信号はたいてい広帯域・瞬時・無指向性で、減衰も速く、“意図された通信”だと判定するのは難しい。だからこそ電波とレーザーこそが超遠距離通信の要なのです。向かいの校舎が別の惑星なら、電波での連絡は懐中電灯を向けるようなもの、レーザーはレーザーポインタで照らすようなものだと言える。ただし、非常に正確に狙いを定める必要があり、そうしてようやく発見され得るのです。」

「では、相手の方向に向けて照らせば良いのでは?」と中年の男。

「現実には、宇宙でどの方向に照らすべきか、私たちは知らないのです、紳士。」

 会場はどっと笑い、すぐに静まった。

「では、手当たり次第に照らせば?いつかは当たるでしょう。」

「良い発想です。しかも、それはまさに現在の人類がやっていることでもあります。」

 レイ・ウカンはそう言った。

 彼はスタッフにプロジェクターを片付けてもらった。プロジェクターが黒板の端を遮っていたからだ。

 この大教室の黒板は四枚が連結され、上下にスライドして入れ替えられるようになっている。

 それから彼は黒板に向き直り、チョークを手に書き始めた。書きながら語る。

「この問題を解析するには、まず基本のプロセスを整え、それらを一つずつ解いていき、最後に何が起きるかを見ます。途中、いくつか計算を行いますが、皆さんは詳細を理解する必要はありません。何を計算しているかとその結果を私が説明します。数学が苦手でも大丈夫です。」

 会場はさらに静かになった。いたずら好きの子供でさえ真剣で、年配者の目には久しく見られなかった光が宿っていた。

 ――パチパチ、カリカリ。

 チョークが黒板に当たり擦れる音だけが響き、びっしりとした数式とデータが手品のように生えていった。

「まず、人類が通信を完了できる最大距離を計算します。ここでは多くの仮定を置きますが、厳密さは要りません。距離はおよそ500光年です。500光年とは、光が500年走り続けて到達する距離。この500光年を半径とする球体が、私たちが実際に連絡を取り得る範囲です。これを超えると、互いの存在を感知するのは極めて困難になります。」

 レイ・ウカンはほほ笑み、水をひと口含んだ。額にはうっすら汗が浮かんでいた。

「宇宙全体から見れば、500光年はあまりに小さい。天の川銀河の円盤半径は約10万光年です。つまり、銀河を太平洋とすれば、人類の通信可能範囲は太平洋の小島に相当します。さらに遠方から届く弱く雑多な信号は、自然現象なのか高度文明なのか判別が難しい。いわば分解能が足りないのです。」

 そう言って彼はまた黒板に向かい、新たな推演を始めた。黒板一面はすぐ埋まり、彼はその板を上に送り、次の面に書き続ける。通常なら待たされると人は退屈するものだが、この場の誰一人として不満を見せない。まるで講壇に立つのは人間ではなく神、少なくともその使者であるかのようだった。

「お待たせしました。一気に全部書き出しました。これで説明が中断されません。」

 レイ・ウカンは大きく息を吐いた。四枚の黒板はほとんど数式で埋まり、そのあいだにチョークは何本も消費された。

「先ほど、私たちが感知できる範囲を計算しました。次に、体積分布と恒星密度から、この範囲内で生命が生存に適する惑星の数を見積もります。保守的すぎるものと広すぎるものを除き、中庸の値を取ると、およそ2万個です。もっとも、“生存に適する”ことと“実際に生命が誕生する”ことは別です。そこでさらにドレイク式の見積もりを用いて、生命さらには文明が誕生する惑星数を推算すると、およそ20個になります。主観的な仮定は多いのですが、論理の流れは変わりません。

「次に、あの紳士の発想に従い、各文明が全力で連続的に外部へ信号を発しつつ、同時に受信も行っていると仮定します。すると、幾何学的な立体角とポアソン的な命中モデルを用いて、二つの文明が“ぶつかる”確率を計算できます。一年での確率は――2.16 × 10⁻²²。」

 レイ・ウカンは話しながら、黒板の最後に残った僅かな空白に長い数列を書いた。略記を使わず、すべてのゼロを一つ一つ記す。ただし――それらのゼロはすべて分母側に並んでいる。

「そんなに低いのですか?」さきほどの中年の父親が言った。

「現実はおそらく、これよりもさらに低い。たとえば人類は全力で外部に信号を送り続けてはいません。膨大なエネルギーを消費するからですし、永遠に成果がないかもしれないからです。――あ、ここで一つ条件を言い忘れました。仮に惑星AとBの双方に文明があるとしても、同時期に存在するとは限らない、という点です。Aに文明がある時期、Bはまだ文明を持っていないかもしれない。Bに文明が生まれる頃には、Aはすでに滅んでいるかもしれない。こうした可能性も計算に入れる必要があります。もっとも、フェルミが私たちの見積もりに多くの助けを与えてくれています。」

 彼は再び黒板に向かった。黒板は白いチョークの字で隙間なく覆われていたが、黒板消しで大きな範囲を拭い去る。

 教室はまた静まり返った。誰かが大きなオナラをしたが、誰も笑わなかった。視線も意識も、すべてがレイ・ウカンの細い背に集中していた。女性司会者は手にしていた数枚の紙――入場者名簿とイベントの進行概要――をぎゅっと丸め、紙球にしていた。

「文明の出現時期が重ならないことを考慮に入れると、先ほどの確率はさらに縮小し、10⁻³²になります。」

 レイ・ウカンはやはり略さず、分母に32個のゼロをもつ巨大な分数を書いた。

「これは一年を単位にした値です。もし二つの文明が十年間、全力の探索を続けたなら、十年でゼロを一つ消せます。」

 そう言って彼は、指で分母のゼロを一つ拭い取った。

「これが十年という時間でできること、というわけです。ここで言っておきますが、宇宙の年齢はおよそ1.38 × 10¹⁰。この確率と比べると、宇宙の年齢は20桁小さいのです。」

 レイ・ウカンは長く息を吐いた。計算そのものは難しくないが、速度を全力で上げる必要があった。ここは公開講義であって、独り遊びではないのだから。

 彼は手の甲で額の汗を拭った。数本の髪がついに整髪の形を保てず、額へ垂れた。

 十数秒間、教室は静まり返った。教務の手から落ちた紙の球が床に当たる音だけが聞こえたが、彼女は拾おうとしなかった。先ほどの中年の父親は後方に立ったまま、子のふくよかな頬を片手で支え、子はおとなしく寄り添っていた。

「君生我未生,我生君已老。」

 どこからともなく、嘆息がこぼれた。

「そうです。宇宙はあまりに広大で、文明と文明が互いを見いだすことは、極めて難しい。これはゲームやチャットで、自分がオンラインの時に相手はオフライン、相手がオンラインの時に自分がオフライン――そういうものに似ています。いまの理論水準では、重力波やニュートリノのような伝送方式を使いこなすには至っていません。たとえば重力波なら、ブラックホール級の激しい擾乱が必要で、すでに非現実的です。仮にどこかの文明が重力波やニュートリノを掌握できたとしても、信号の伝搬速度は依然として光速に縛られています。地球から銀河の端まで、光が届くには数万年を要します。

「けれど、私たちは孤独ではない。私たちの存在は互いが証明している。今日、この教室で、私たちは互いに互いの証人です。私たちは孤独ではない。私たちは互いの“宇宙人”――宇宙でいちばん近い宇宙人なのです。バスで、地下鉄で、空港で、プールで、陸上競技場で、コンサートで、見知らぬ顔と出会うたび、私たちは互いの存在を目撃している。そして家に帰り、人生で最も親しい証人と向き合う時、私たちはさらに不思議なもの――それは家族の愛――を感じるのです。」

 レイ・ウカンは微笑んだ。

 拍手が鳴り響き、長く、長く続いた。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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