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FailureNamber424

作者: 箱丸祐介


「本人は元気そうに振る舞ってるけど 、実際の所立ち直れて無いんじゃないか?」


 たまたま、立ち聞きする形で聞いた知り合い同士の会話だった。


「いくら義務教育でしょうがなくとはいえ、小中の9年間もあの扱いじゃな。常人なら立ち直れないだろうし、潰れてもおかしくないだろうに」

「おまけに母親にも、寝てるときに首締められて殺されかけてるらしいしな」

「ふざけてるよな、失敗作なら殺しても犯罪にならないなんて」

「まあ、神も仏も無いからなこの世界は」

「遺伝子操作が出来る時点で、神が居たら止まるだろ」


 木星王国の遺伝子操作による親の望む子供が産まれるようにシステムが作られてから30年。

 最初は失敗作ばかり産まれていたこのシステムも、開始から10年を過ぎた辺りから失敗作の産まれる確率はどんどんと下がっていった。

 そしていま10年に1人、産まれるか産まれないかの確率になっているそのシステム。


 だが、その低い確率の中に彼は当たってしまった、フロップ・エンデバーという名の失敗作として。


 ※


「これよりオペレーションメテオを開始する、目標は開発情報の入った新型BFバトルフレームの破壊及び要人の暗殺」


 惑星へ降下する降下挺の中12人の軍人たちが降下目標の最終確認を受けていた。


「君達は降下の開始と同時に我が軍で戦死した扱いになる、これは万が一生還したとしても扱いは変わらない。木星の未来のため君達の犠牲が役に立つと、私は思わないが。作戦の成功を期待している。失敗も生存も許されないがな」


「クソみたいな演説だな」

「演説にもなってねぇよ、ハナから成功するとは思っちゃいねぇんだろうしな」

「降下軌道に乗ったぞ、5分後には地表に着く」

「かの有名なエンデバーがいるって事は俺らは本当に捨て駒なのかもな」

「捨て駒っていう役が与えられてるだけいいと思うんだな」

「んだとてめぇ、作戦開始前に死ねや」

「辞めとけ、銃程度じゃ死なないぞそいつは」

「クソっ」


 エンデバーと呼ばれていた彼は揉める仲間達を横目に、胸から下げられたペンダントを見つめていた。


「なんだ、大事そうに見つめやがって女からのプレゼントか?」


 ペンダントを見つめていたエンデバーからそれを取ろうとした隊員の1人、ダグラスのその手をまた別の隊員ベントが止めた。


「あぁん?」

「そのペンダントはエンデバーが大事な人に貰ったもんだ、作戦前に怪我したくなかったら止めておけ」

「けっ、お前が隊長じゃなきゃ従ってねぇからなこの野郎」

「俺が止めてなきゃお前は大気圏突破中のこの降下挺から放り投げられてるからな」


 険悪なムードが漏れ出る降下挺が、地上に着陸し各々大量の装備を持って地表へと足を下ろす。


「自爆装置のセットは終わった、まずは敵基地へ向かい情報のあった新型を破壊に向かう。

 最初で最後のグローブ隊の仕事だ、きっちりこなして、最後は何とかなることを祈ろう」

「全員死んだことになってんのに何とかなるわけねぇだろ」


 木星所属の特命部隊00グローブ隊。

 敵国からも自国からも存在を認知されない彼らの作戦が、今始まろうとしていた。


 ※


「目標はあれだな」


 降下地点から1日徒歩で移動し、新型BFが開発されている施設へと到着していた。


「あれって惑星間の物流を管理してる施設ですよね、協定によって中立地帯に設定されてる」

「もちろん軍事兵器の開発も禁止だがな」

「協定違反の中立地帯で開発されてる新型BFかありがちだが、厄介だな」

「だからこその人選だろう、警備は少ないが爆弾を設置してUターンしてくるだけでも、リスクは高いな」

「情報がない代わりに作戦期間にも縛りがないからな、ゆっくりと計画を練るとしよう」

「同時並行で暗殺の方も作戦を練らないといけないが、そっちの方は新兵器の視察に来るという情報は入ってる」


 警備は少ないが人の目が多い、地球でいう空港のような場所で多くの輸送機が停泊している。


「エンデバーなにかいい案はあるか?」

「俺に聞く必要があるのか?」

「そう自分を卑下するな、お前のおかげで生きて帰れたことは何度もある」

「BFを操縦出来るやつはどれくらいいる?」

「恐らくお前以外は」

「なら話は早い、視察が来るタイミングで内部に侵入して新型BFを奪取する、それを使って暗殺。警備用のBFは居ないだろうから、そのまま離脱して逃げた先で新型機を自爆させれば」


「そんなこと出来るわけねぇだろ! 大体起動キーはどうするんだよ!」

「まあ、不可能を可能に出来るのがフロップ・エンデバーって男だ、そのうち見直すさ。編成はどうする?」

「この位置に1人、狙撃と監視に人員を。俺とベント、もう2人で先行して中に入る最悪の可能性を考えて1人は爆発物を扱える奴がいい。

 残すのは自己判断が出来るやつか、ベントの代わりに指揮を出来るやつがいいな」

「交友を深めるために俺が外、お前が3人連れてきゃいいんじゃないか?」

「中で揉めてもいいなら考えておこう」

「大丈夫だ、エンデバー、ダグラス、レイ、カミツキで潜入、ポップは狙撃、残りは俺と突入のタイミングまで待機だ」

「どうなっても知らないからな」


 ※


「へぇ、ダクトから中に入れるなんてな事前に調べてたのか?」

「いや、一種のエコーロケーションだそういう《《機能》》が入ってる」


 地下に張り巡らせれているダクトをほふく移動する4人は、施設内部へと侵入を開始していた。


「本当なんですね、身体中改造されまくってるって」

「俺はお前たちみたいに生まれ持った身体能力もなければ、BFの操縦もできない。落ちこぼれに生まれて落ちこぼれのまま育った。その過程で人体実験のモルモットにもされた、ただそれだけだ」

「なるほど、な」

「止まれ、警備用のレーザーが張られてる」

「そんなのまで見れんのかよ、俺らの目には何も見えてないぞ」

「ベルギットくるぶしにあるショートEMPを取ってくれ、時計回りに回せば取れる」

「ええ、そんな所まで外れるの」

「使ったら3分は止まる、その間に抜けろ」

「了解」


「ここから上に出るぞ、ここからは警備の目をかいくぐって格納庫まで向かう」

「本当にスムーズに行っちまいやがった、不可能を可能にするってのもあながちほら話じゃないのか?」

「あいつの話を真に受けるな、あいつは俺を過大評価しすぎてる」


 ※


 エンデバーの身体機能と長年の経験によってスムーズに施設内の格納庫へと到着した。


「おいおい、新型ってのは1機だけじゃないのかよ」

「見た感じは従来のBFを改修して高機能化したという感じか、わざわざ破壊する価値があるとは思えんが、どういうことだ」

「そこまでの戦術的価値が無いってことですか?」

「これを警備用に配置してる兵器だと言われれば俺は納得してしまうレベルだな」

「うさんくせぇな」

「データ上の性能を確認してみないとわからないが」


 目の前に横たわる5機のBFを不審に思う一行のというよりエンデバーの耳にカチカチという機械音が聞こえた。


「外からの通信だ、『目標、到着、次の合図で、行動、開始』要人が視察の為に来たみたいだな、何から何まで都合が良い」

「格納庫上部で待機しましょう、ここの位置じゃ見通しが悪すぎます。目標を発見したら機会をうかがって打てるようにしないと」

「そうだな、格納庫の屋根上を取ろうぜ、一部ガラス張りの作りで助かったな」


(格納庫の一部がガラス張り、普通に考えれば秘密兵器の開発場所には向かないな。衛星で発見できる可能性もあるし、そもそもここは中立地帯。俺達木星じゃなくて他の星に見つかっても問題になる可能性は)


「作戦変更だ、俺は一時的に別行動を取る」

「おいおい、目標はこれからこっちに来るんだろなんでわざわざ動く必要がある?」

「説明してる時間はない、取り越し苦労で済めばそれに越したことは無いしな。これを渡しておく」


 ズボンの右腿部分のボタンを外しエンデバーは自身の身体から3つのUSBメモリのような機械を取り出し、靴を脱いで足裏から小さなボタンのような機械を取り出す。


「うわっ、なんだそれ」


 預けられたダグラスは汚物を持つようにそれを手に持つとエンデバーにそう問いかけた。


「3本渡した方はBF起動キーのダミーだ、刺せばあとは勝手に起動する。鍵を見つけられなかったときに使え、もう一つは別行動の部隊が作戦を開始したら合図を出せる機械だ、それなら俺がいなくてもタイミングを合わせて動き出せる」

「なるほど、本当に機械仕掛けの体してんだな」

「お前たちの生存確率を上げるのが、俺がこの場に居る存在意義だろうからな」


 そう言い残し、エンデバーはその場を離れる。

 取り越し苦労になって欲しいと思う一抹の不安を抱えながら。


「俺たちは俺たちの仕事をするぞ。俺たちが死なない為にな」

「はい」


 ※


 ベント率いるグローブ隊本隊は双眼鏡を手に目を凝らしながら監視を続けていた。


「あっちはもう中に入りましたかね」

「多分な、エンデバーの手際の良さなら今頃格納庫についてるんじゃないか?」

「一体何者なんですか、フロップ・エンデバーって」

「何者かと聞かれれば、生まれながらにして何者にもなれず、虐げられ実験台にされ続けたモルモットってとこかな。あいつは今年で25なんだが、下に弟が居てなそっちは第86機動部隊の隊長をやってるよ」

「機動部隊の隊長ってエリート中のエリートじゃないですか」

「よくできた弟でな、兄貴の事を良く慕ってて本国では一緒に王女様と団欒してるのをよく見たぜ。エンデバー自体は同情されてるみたいで気に入らないみたいだけどな」

「へーって王女様と仲がいいんですか!?」

「俺とエンデバーの所属してたのは第2地上部隊の本土防衛隊だからな、エンデバーは王女様に気に入られてて、隠れてよく話してたよ。ほら、作戦開始前にエンデバーのやつが見てたペンダントあるだろ、あれも王女様からの誕生日プレゼントでよ。公式からは抹消されてるあいつの誕生日を祝って渡してくれたやつなんだよ」


「フェイリァって自分の誕生日すら記録に残らないんですか・・・」

「そう、それに幼少期からの扱いもあって普通の奴らはそんなに長生き出来ないんだ、あいつは今の所最後に生まれた424番目のフェイリァだからいままでの奴らの無念を背負って死に物狂いで生きるんだって言ってたんだよ、恨み交じりではあったが」

「隊長は、どうして彼と?」

「俺はあいつの生きてきた道でどんなことがあったかなんて知らないし、知りたくもないが。あいつは作戦行動中自分の命なんてどうだっていいと思って行動してるんだよ、そのおかげで命拾いしたことは何度かある。敵の攻撃から俺を庇って右足を失ったり、何か月も拷問に耐えて目を失ったりとかな」

「内部紛争で、ですか?」

「あぁ、居住コロニーの暴動鎮圧、テロリストの排除。惑星間じゃなくても争いなんていくらでもある、その度にあいつは敵からも味方からもひどい仕打ちを受けてた」

「それで隊長は」

「同情だって言われればそれまでなんだけどな、命を救われれば同じ人間同士フェイリァだとかそんなのを取っ払って、恩を感じることもあるんだよ。不可能な話だけど俺はあいつの下で行動したいと思ってるしな」


「あ、あれじゃないですか。要人を乗せた車両って」

「写真の人間か?」

「はい、間違いないと思います。警備車両が前後に付いてますし」

「エンデバーに連絡するとするか」

「無線なんか使ったら存在をばらすようなものですよ!?」

「昔ながらのモールス信号ってやつだ、あいつにしか拾えない音を響かせる」

「っ、そんなこともできるんですね」

「まぁ、あいつはいわばワンマンアーミーだしな。俺達も移動を開始するぞ、ポップ援護は任せる」

「了解しました隊長」


 ※


「奴らは餌に引っかかるかね」

「わかりませんが、そのために情報を送って何の価値もないBFを展示してるわけですから」

「はっはっは、あとは予定通り我々が殺されれば」

「ええ、木星と火星の戦争になるでしょう」


「いつでも撃てます」

「よし、撃て!」


 格納庫の中で話していた将校とスーツ姿の男、その2人が話していた場所へダグラスの合図で銃弾が降り注ぐ。

 降り注いだ銃弾によって2人は撃ち抜かれ周囲に居た軍人たちは武器を手に臨戦態勢へと移行する。


「無線封鎖解除、暴れろお前ら!」

「了解!」


 銃声を聞いたベントからの無線、そして放たれた爆発物によって中立施設だったはずのその場所は戦場へと変わる。


「居たぞ! 屋根の上だ!」


 格納庫の屋上にいた3人へ向けて銃弾が飛び交う。


「ポップ!」

「すみません火星の気候に手間取ってました」


 遠くから響く重低音、そこから放たれた弾丸が1人また1人と敵を吹き飛ばす。


「良い腕だ」

「ダグラス、お前たちは予定通り格納庫に侵入し敵BFを奪取しろ!」

「了解」

「エンデバーはどうした!?」

「そっちの方はわからないです! 急に別行動を取ると言って!」

「仕方ない、あいつが戻るまで場を荒らすぞ!」


 ※


 ダグラス達が銃声を鳴らす少し前、エンデバーは管制塔の内部へと侵入を始めていた。


(予想が正しければこれは罠の可能性がある、敵の目的は一体)


「なぁ本国で開発されてるっていう新型機の話聞いたか?」

「あぁあれな、知ってる知ってる」

「その反応は知らない奴の言い方じゃねぇか」

「知ってるよ、どっかから地球の技術を仕入れて開発されてるって奴だろ? 全く完成の目途が立ってないって噂の」

「本当に知ってんのかよ。なんでもその兵器一部ではここで開発されてるってデマ情報が出てるらしい」

「あほくさ、いくら上が馬鹿でも中立施設で兵器開発なんてするわけないだろうに」

「確かにな、でも格納庫にあるやつあれの出どころってどこなんだろうな?」

「さぁ、話によるとどっかのコロニーの防衛用に輸送されるらしいけどな」


 暇そうに雑談している兵士たちの話を盗み聞きしていたエンデバーの中で、疑念が確信に変わった―――、俺たちはここへ誘き出されたのだと。


 素早くナイフを取り出し話していた兵士たちに接近したエンデバーは片方の首を切り裂き、抵抗される前にもう1人の兵士を壁に叩きつけ喉元へナイフを突きつける。


「な、何者だお前!」

「質問するのはこっちだ、お前じゃない。今話してた事どこまでが真実だ?」

「し、知らねぇよ! 全部噂だ! 俺らみたいにこんなところで警備してるだけの奴らに対した情報なんて入ってこねぇって!」

「ちっ、そうか」


 口を押え喉を切る、それと同時に外からの銃声と爆発音がエンデバーの耳に聞こえる。


「始まったか」


「外で戦闘が起きた! 向かうぞ!」


(戦術的に、ここで1人でも多く倒しておいた方がいいな)


 エンデバーはナイフをしまい、装備していたアサルトライフルを握り直す。

 ライフルとナイフ、そしてハンドガンしか持ち合わせていないエンデバーにとって、数の不利は死に直結するように思われるが、そうではない。


 首を切った兵士の死体を持ち上げ、声のする方へと投げる。


「もうこんなところにまで侵入されていたのか!」


 死体の飛び出した方向へと銃を構え慎重に距離を詰める兵士達、もう1人の死体の足が目に入った時、勢いよくその場へと突撃するがもう既にその場にエンデバーは居なかった。


「居ない? どこへ行った!」


 その場で周囲を見渡す兵士たちの死角、天井から投げられた1つのスピーカーから奇妙な音が大音量で流れ、その音によって一瞬兵士たちが怯み。

 その音が鳴りやんだ時には、兵士たちはエンデバーの手によって命を刈り取られていた。


(死んでも報告しないといけないことが出来たな)


「エンデバー! そっちの状況は!」


 一息ついていたエンデバーへベントからの無線が入る。


「これは罠だ、本当に破壊しないといけない新兵器は敵の本国にある可能性が高い。輸送機を奪取してここから脱出するぞ!」

「通りでことがうまく行き過ぎてると思ったらそういうことかよ! 俺達には死神でもついてるのかもしれねぇな! 隊長さんよ!!」

「作戦変更だ、別の格納庫に向かっていまから輸送機を―――」


 ベントからの無線に爆発音のようなノイズが走る、それと同時外を見たエンデバーの目にはミサイルが打ち込まれ破壊される格納庫が目に飛び込む。


「ベント! ダグラス! レイ! カミツキ! そっちの状況はどうなってる!」

「エンデバーいま外からそっちを見てるが、格納庫が吹き飛んだ! 隊長達が――」

「ポップ! 何が起きてる! 応答しろ!」


 次々に無線が途絶え、遠方から敵の増援が来ているのも見えた。

 なにからなにまで誰かの手のひらで踊らされているような。

 そんな感覚がエンデバーを襲う。


「エンデバー、俺は無事だ。かろうじてだが、他の奴らは爆破に巻き込まれて」

「隊長、俺も無事ですよ、何とかBFに乗れましたから」

「ベント、ダグラス。唯一の脱出経路がなくなった、北東から敵の増援も来てる、あと数分で到着するだろう」

「なら俺もBFに乗って応戦するとしますか」

「要人の暗殺にBFの破壊、やることはやったんだ。あとは死人らしく華々しくいくとするか」

「そうだな」


 自分たちの死期を察し、最後の力を振り絞るように2機のBFが格納庫から立ち上がり、武器を手に取る。


「やめろ、俺たちの負けだ。今ならまだ捕虜になる可能性だって」

「何言ってんだ、俺達に人質としての価値はない。交渉材料にだってなりゃしねぇぜ」

「命を燃やそうぜ、お前に救われた命ここで使うのも悪くはない」

「行くぜ」


 BFが敵の増援部隊に向かい走り出す、スラスターを吹かし敵の兵器と歩兵を薙ぎ払う、数の不利はあっても遺伝子工学によって強化されている彼らは、最後の時まで奮闘した。

 華々しくはないが、捨て駒にされながらも最後まで木星の軍人としての誇りを持って。


「やめてくれ、くそっどうして俺はBFの操縦が出来ないんだ。あいつらと一緒に肩を並べて戦うことも俺には許されないのか・・・」


「おらおら! そんなもんじゃ俺らは死なねぇぞ!」

「ダグラス! 後ろだ!」


 ベントが声を掛けたと同時にダグラスのBFへサーベルが突き刺さる。

 コックピットを一刺しされたBFは倒れこみ、少し時間をおいてから爆発した。


「くそ! よくもダグラスを!この野郎!」


 高機動で翻弄する敵のエース機と思われるBFによって、機体の性能差もありベントも成す術なく撃墜されてしまう。

 無線に爆発音だけが響きグローブ隊はエンデバー1人を残し、壊滅してしまった。


「居たぞ! ここだ!」

「大人しく投降すれば危害は加えない! 手を上げてこっちへ来い!」


 エンデバーが外を見ていた場所もいつの間にか敵によって完全に外まで包囲されていた。


「死人らしく、最後は華々しくか」

「手を挙げろ! これ以上無駄な犠牲を出す必要は―――」


 投降を呼びかけていた兵士の眉間にナイフが突き刺さる。


「死ぬときは、お前らも道連れだ」


 銃声が響く、死んでいった者たちへの花向けを。

 エンデバーは最後の1人になった今、成し遂げようとしていた。


 ※


「HQ! HQ! 敵によって中隊が全滅しました! 至急応援を!」


 倒れながらも応援を呼ぼうとしていた兵士へと弾丸が打ち込まれる。


「やっぱりな、俺は死にきれないか。ここまで生に執着してたが故に生き残ったことは何度もあったが。こんな時ですら生き残ってしまうとはな」


 血まみれになりながら空を見上げるエンデバーの腹部を、1発の弾丸が突き抜ける。


「っ、あっけない、最後だったな」


 その場に倒れたエンデバーから大量の血があふれ出る。

 倒れこんだ目線の先に見えたペンダントに手を伸ばそうとするが、長時間の戦闘で疲弊し、とどめの一撃を打ち込まれたエンデバーは指一本動かせる状態ではなかった。


「思った以上の損害ですが、中立地帯への破壊行為に戦闘行為。宣戦布告のない侵略行為。世論も月の治安維持組織も我々火星を支持するでしょうね、ご苦労様でした君たちはいい道化でしたよ」


 倒れたエンデバーの元へ1人の男が現れ、吐き捨てるようにそう言い放つ。


「おや、これは」


 その男がペンダントに手を伸ばし、刻印された紋章を見る。


「これは思わぬ収穫ですね。木星王国の国章が刻印されたペンダントなんて、こんなに都合よく事が進むとは、はっはっはひゃーっひゃっひゃ!」


 男の高笑いがその場に響く。

 なにもかもを嘲笑う、黒幕の歓喜の声が。


 ※


「ですから! そんな者は我が木星軍には所属しておりません! 火星に存在するテロリストの行為ではないのですかな!?」

「言い逃れは出来ませんよ、遺伝子組み換えされた人間は火星には存在しません。そんな非人道的行為を出来るのは木星だけでしょうからな!」

「言いがかりはよしてほしいものですな!」

「これを見てもそう言えますかな?」

「こ、これは」

「木星の紋章が入っているペンダントです、これを我が施設を攻撃した者の1人が所持してたのですよ。これでもまだ言い訳をするおつもりですか?」


 木星の将校と火星の将校が責任の所在を求めて言い合っている、犠牲になった多くの者たちの命など他所に。


 結果的にグローブ隊の行動によって戦争は始まり、その後木星と火星の戦争は激化しどちらかが滅ぶまで続いた。

 その裏で糸を引くものの存在は、戦争の終結しても公にはならなった。


「パパ、やっぱり始まっちゃったね」

「お前の予知をあてにしてないわけじゃないさ、だが裏で糸を引いてる奴の事を調べるのが先だな。取り返しのつかないことになる前に」

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