第一話
っはーーー
そうやって私は一息つく。
そうやって周りの空気を目一杯吸い込むと、なんだか考えていることもまとまっていくようで。
自然の空気を吸いながら悩んでたこととか色々考えごとをする。
そうすると自然と答えが見つかってくるみたいに思考が澄んでいく。
だから、今日も色んなことを考えにお気に入りの森へ向かう。
周りの音を聞いてるだけでも十分なのだが、私は自分の好きをいっぱい詰め込んだリストを聞きながら、考え事をするのが好きなのだ。
そうしてお気に入りの道を歩いていた。
だからきっと、今目の前に広がっている光景は、現実ではない。
夢だ。
そう、きっと夢なのだ。
だってそこに広がっていたのは、いつもは月明かりもささないようなそんな薄暗さが好きで通ってた森の中。
こんなところに湖なんてあったっけ…でもあるんだろう。
男の人が座っている木の幹の傍には湖があったのだから。
無いと認識してたものですら、あるとしっくりさせてしまうそんな雰囲気があったのだ。
それに綺麗に彼が座っているところだけ月明かりが差しているのだから。
彼がいる周りの光だけなんだか異様に光っていて、幻想的に見えてしまった。
それに加えて漆黒、そう表現するのが正しいと思わせるような黒い生地の着物に、それを際立たせるように刺繍されている真っ白な狐の模様。
漆黒の着物を着ているのに、それが霞むほどの真っ白な髪に金色の透き通った瞳。
だが、その狐の模様はところどころ濁った朱色に染まっていた。
そんな光景を前に、何故だがそれは夢、そう表現してしまう程の光景だった。
だから私は惹きつけられるように、
「あの何してるんですか?」
木の幹に座り込んでいる、やたら綺麗なその人に声をかける。
声をかけた彼はこっちをゆっくり振り向き、様子をうかがうようだった、その目は警戒しているように見えたので、こちらから近づいてみることにした。
近づいて見てみると、大怪我をしているのが分かった。
私は、慌てて持っていたハンカチを差し出す。
「あの、今これくらいしか持ってなくて…
せめて止血だけでもしてください。」
そう声をかける。
彼はそれを受け取り、一言。
「ありがとう」
そう一言こぼす。
その言葉を聞きとりあえず止血が終わるまで待っていようと、傍に座る。
止血が終わるころには、渡したハンカチは血だらけになっていた。
止血が終わったのを見て私は、立ち去ろうとするといきなり男に腕をひかれる。
「もう少し傍にいてほしい。
君のそばはなんだかあったかくて落ち着くんだ。」
そう言われ、私はもう一度腰を落とす。
「私は傍にいるだけで、いいんですか?」
私は気まずい雰囲気に耐え兼ね、そう質問する。
「大丈夫、ただ傍にいいてほしいだけだからな。
…一つ変なことを聞くが、君は昔から変なモノなど見えて周りから恐れられた経験などないかな?」
そう聞かれて、幼少の記憶を思い出してみる。
確かによく変なことを言っては大人を困らせ、周りの友達には気味悪がられていた気がする。
「はい、よく避けられて、怖がられていた気がします。」
そういうと男はしばらく考えこんでいた。
考え込んだすえ顔を上げて、
「やはりか…
君は所謂、物怪に好かれやすい体質なんだ。」
と言われる。
でも驚くとかではなく、なんとなく納得してしまった。
すとんと自分の中に、落ちてきた感覚がした。
もしかしたら、この男も妖怪なのかもしれない。
それと同時に隣にいた男の怪我が、急激に治ってきている気がした。
「あ、あれ?そんなに傷口少なかったですっけ?」
そう質問をすると、
「いいや?
俺はもっと傷だらけだったよ。ただ君の隣にいただけで傷の治りが早くなったんだ」
それを言われても納得がいかず、男がさらに口を開く。
「君は他の人よりも妖力が強い人間なんだ。
だからこうやって妖である僕の傷の治りも早くなった。
昔、君が見ていた変な者たちの正体もきっと妖だろうね。」
「そうなんですね。
でも、確かにあれが妖怪だって言われたら、なんとなく納得する部分はありますね。」
そんなことを話していたら、怪我のことで頭がいっぱいで、肝心なことをしていないことに気づく。
「そういえば名乗るの忘れていましたね。
私は栗原 梓って言います。」
と名乗る。
妖の男もそれに気づいたのか、名乗る。
「俺は睡という。」
そうお互い名前を聞いたところで、睡が
「梓、取引をしないか。
俺は、君の妖力が欲しい。
俺は力が戻るまで、君のそばにいて君の妖力で力を回復させてもらう。
その代わり力が戻るまでの間、君を妖たちから守る。
力が戻ったら君を妖の視えない体にしてあげよう。
しばらくの間主従関係の契約を結んでほしい。」
そう持ちかけれると、一瞬ビックリして体が硬直してしまう。
だが、妖の視えない体…と少し悩む。
軽く30分は悩んでだろうか?
悩んだ末に、
「わかりました。
でも私、昼間は学校があるし、夜もそんな遅くまではいられないと思うんですよね」
というと、睡は少し悩んで、
「わかった。じゃあ俺は変化でおとなしくしている。」
「変化なんてできるんですね。
何に変化できるとかあります?」
「極端な物じゃなければ基本はなんにでもなれるぞ。」
「じゃあ」
と、私はおもむろに携帯を取り出し、操作し始める。
目的の物を見つけ、睡に見せる。
私が普段から、鞄につけているキーホルダーの写真。
「ほう?これに変化すればいいのだな?」
私は思いっきり首を縦に振る。
それを確認して、睡は画像をじっと見つめる。
ただ、それだけだとうまくイメージできないのか、少し困った顔をしていた。
数分悩んでいたら、
「申し訳ないのだが、掌を貸してもらえるか?
梓自身から直接物のイメージをもらえると、上手く変化できるようになるんだ。」
と言われ気でも貰うとかそんな感じなのかなと思い、素直に掌を差し出す。
差し出した掌をおでこに当て、何かを読み取るように目を瞑り始める。
と思ったら、いきなり何かをつぶやき始める。
きっと呪文的な何かなのだろう。
少し待っていると、煙が立ち込め、睡がいた場所に私の好きなマスコットがあった。
「え、?これが睡さん?」
そう言葉を漏らすと
「あぁ、
梓の写真を参考に変化したものだ。」
とさっき聞いた声より高めの声で返事が返ってくる。
「わぁ!声も少し変わるんですね!」
「そうだな。変化したものに引っ張られる傾向にある。」
なるほどなぁ…と納得しつつ、よくよく眺める。
どこからどう見ても、私の持っているマスコットにしか見えなくて、本当に睡なのか疑ってしまうほどだった。
変化するにも、疲れたのかいつの間にか、元の姿に戻っていた。
「それじゃあ明日から学校にも一緒に行くんですけど、学校にはたくさんの人間がいます。
でも絶対に騒いだり、変な行動はしないでください。
マスコットなので動いたりしても怪しまれるので気を付けてください。」
と明日からのことを軽く伝えておく。
それを生真面目に、相槌を打ちながら聞いてくれる睡。
その態度に一安心しながら、説明を一通り終わらせる。
「そうしたら今日は私もう帰らなきゃなんですけど、怪しまれないためにも、早く怪我を治すためにも、今晩からうちにいた方がいいと思うんですけど、そのままの姿でいられると、両親にあらぬ疑いをかけられそうなので動物とか、なんか連れてても変じゃないのに変化してもらえますか?」
というと睡は少し悩む様子から、はっと何か思いついたような顔をして、変化を始める。
煙が晴れるのを待って、睡の姿を見るとその姿はもっふもふな黒いきつねの姿になっていた。
「か、かわいぃぃぃぃぃ!!!」
「俺の真姿なんだ。
元々神の使いだったからな」
と、説明を聞きながら、私はひたすら睡をもふもふしていた。
「その姿だったらきっと平気なので一緒に帰りましょう。」
と、変化した睡を抱きかかえて家路につく。
もちろん帰宅中も、もふもふする。
もふもふと動物は大好きなのだ。
家路の間、睡が少し不満そうな顔をしていたのは、ここだけの秘密なのである。
そんなことを考えながら、睡と他愛ない会話をしながら帰っていたらすぐに家に着く。
家に着いたらまず、睡がいるので部屋に行き睡をおろす。
「ここが私の部屋。
一応お母さんとかが入ってくるかもだから、その真姿…だっけ?その姿でいてくれると助かるかな。」
「わかった。
人間に化けている方が疲れるからこっちの方が助かる。」
「じゃあ私お風呂行ってくるけど、睡も入る?
もちろん一緒に入るのは私が恥ずかしいから一緒には入らないけど、家族がいない間とかは入って大丈夫で、睡一人でも入れるけど、どうしたい?」
と私はお風呂へ行くための準備をしながら、睡に聞いてみる。
そうすると少しうなって悩むような声が聞こえてくる。
お風呂に入りたいけどすごく悩んでいるのだろう。
「そうだなぁ。
せっかく入れるなら入りたいな。
ただ時間の調節など色々面倒ではないか?」
と、私から提案したのに気を遣ってくれる。
そんなことに、少し微笑ましさを感じながら私は、
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ。
大体いない時間は把握してるし、
そもそも私から提案したことだからね。
睡は気にしなくてもいいよ。」
と返事をする。
そうすると、睡は後ろを向いてるはずなのに、ぱぁぁと顔を輝かせているのが、手に取るようにわかる反応をしていた。
「わ、分かった。
それじゃあ梓に甘えさせてもらおう。」
そう冷静に返してくるとこも、なんだか可愛く感じてしまって、また少し笑みがこぼれるのだった。
「それじゃあ、私お風呂先に入ってきてもいいかな」
そうするともう家に馴染み始めたのか睡は、こくと頷きごろごろし始める。
私は、もう適応し始めた睡を見て適応が早いなぁ、なんて感心しながらもお風呂へ向かうのであった。
お風呂を上がって帰ってきて睡の様子を見てみると、ここまで来るのに疲れたのかそれとも怪我の痛みで今までうまく寝付けなかったのか、安心したようにぐっすり寝ていた。
それを見て、少しホッとしながら私も寝る準備をしようと布団を出す。
布団を敷こうとしたらその物音で起きてしまったのか、睡がモゾモゾ動き出す。
私は睡用に持ってきた毛布などを、あげようと声をかけようとする。
その気配に気づいたのか、
「んぁ…どうしたんだ…」
とこちらを眠そうに見てくる。
起こしてしまったかと、少し申し訳なくなったが、やはり寝る場所は大事だろうと思い声をかける。
「睡って寝る時は真姿でいるよね?
そのままじゃ体痛めちゃったりするだろうから、毛布とか持ってきたから、他に欲しいものとかある?」
そう聞くと少し目をキラキラさせて興味津々にこちらを見てくる。
聞きながら毛布が好きなのかなと思って、睡の近くにおいてあげる。
おいてあげると、一目散に両足で子猫のように毛布をフミフミする。
可愛いなぁなんて思って微笑ましく見ていたら、睡が一満足したのかこちらを見てくる。
どうしたのかなって思いながら、睡の反応を待つ。
「なぁ、梓
なにかこうふかふかなクッションなどもあるととても嬉しいのだが」
とちょっと申し訳無さそうな、でもちょっとそわそわした感じで私に頼んでくる。
ふかふかなクッションかと思い家の中を探していると、ちょうどいいことに誰も使っていなそうなふかふかなクッションを見つける。
それを見て、そういえばこの間このふかふかさに釣られて買ったはいいけど、なんだかんだ使ってないなぁということを思い出した。
ちょうどいいかと思いながら、睡は喜んでくれるのかなとか思いながら睡のいる私の部屋に持っていく。
睡は相変わらず毛布がお気に入りなのか、ずっと毛布に包まりながらうとうとしていた。
可愛いなぁなんて、思いながら持ってきたクッションを置いてあげる。
そうすると新しいふかふかに気がついたのか、睡が一目散に飛びつく。
そのふかふか加減が睡にはぴったりだったのか、嬉しそうな顔をして、
「これも俺のにしていいのか!?」
と、目を輝かせて聞いてくる。
私はそんな睡を見て少し笑みをこぼしながら、頷く。
その返事を聞いて自分のものだと認識したのか、マーキングで匂いをつけるように毛布とクッションに擦り付いていた。
私も寝ようと、布団に入る。
明日、親友の蓮華には睡のこと話そうかなとか考えながら眠りにつくのであった。
翌日。
私はカーテンから差し込む光で目が覚める。
毛布とクッションに包まれすよすよ寝てる睡を見て、起こすのは朝ごはんを作ってからにしようと思い、そっと部屋から出る。
いつも通り、両親はもう仕事に出ているみたいだった。
冷蔵庫の中を見て、今日の献立を考える。
今日は和食の気分だったので、鮭、わかめと豆腐のお味噌汁、それと卵焼きなんてベタな献立にしてみる。
鮭をグリルにセットする。
鮭を焼いてる間に、味噌汁の準備をする。
味噌汁のわかめを戻している間に、卵焼きを作る。
今日の卵焼きはしょっぱいのにしてみた。
睡が甘いほうが好きだったらどうしようとか考えながら、朝ごはんの準備を進める。
一通り準備が終わると、睡を起こしに部屋へ向かう。
部屋に入ると、今丁度起きたのかまだ眠そうな顔をしてる睡がいた。
「睡ー、おはよう
朝ごはん作ったから一緒に食べよ?」
そう声をかけると、睡が眠そうな顔をしながら毛布の合間から顔を出す。
「んん…梓おはよう
朝ごはん…献立は何だ?」
そう、うとうとしながら聞いてくる。
「今日はね私が和風の気分だったから、
焼き鮭、卵焼き、わかめとお豆腐のお味噌汁、ご飯だよ。」
そう私が伝えると、睡が一気に起き上がってきて、早く!と目を輝かせていた。
その様子を見ていた私は、思わず
「睡はそんなに和食が好きなの?」
そう聞くと睡は、今まではしゃいでいたことに今気づいたような反応をする。
そんなちょっと照れたような顔で、俯きながら頷く姿は不覚にも少しキュンと来てしまった。
そんなことをしていたら、居間につく。
呼びに行く前に作った朝食を、お皿に取り分ける
さて食べようと睡の方を見ると、いつの間にか人間の姿になっていたことに少し驚く。
昨日来ていた和服みたいで、血の汚れなどが消えてきれいなものになっていた。
綺麗になってるなんて感心してみていると、
「そんなにまじまじ見られると、少し気恥ずかしくなってしまうのだが…」
と少し困ったような顔をしている。
そんなにじっと見つめたのかなって少し申し訳なくなりながら、
「ごめんごめん。
なんか昨日はその着物すごく汚れてたって思ったんだけど、今見てるとすごく綺麗だなぁって思って」
そう言うと、睡は少し納得したような顔をして、
「なるほど
それは昨日梓に妖力を貰って、自分の回復ができたからかな。
この服も元の仕えてた神様に貰ったもので、妖力によって出現させたりできるんだ。
ただ破れたり、汚れたりすると元に戻すのにも妖力が必要で、俺にはそれをする妖力もなかったんだ。」
妖力が戻るとそんなことまでできるんだと聞きながら感心しつつ、それだけ回復できたんだなぁと安心できた。
そんなこんな話ながらご飯を食べていると時間はあっという間で、時計を見るとちょっと急がなくてはいけない時間になっていた。
「睡ー
そろそろ急いで準備しないと私、学校遅れるから早く食べてくれる?」
そういうと睡はちょっと焦って食べ始める。
私はそれを見ると、急いで洗面台へ向かう。
鏡を見ながら髪の毛をセットしたり、身支度が終わると部屋へ戻り家を出る準備をする。
準備が終わると、下へ戻り睡の様子を見に行く。
居間に入ってみると食器を片付けている最中だった。
片付け終わったのを見計らって声をかける。
「睡。
変化は昨日みたいにしないとできないかな?」
昨日は私からイメージを貰わないといけないと言っていたので、不安になり聞いてみる。
そう聞くと、睡は少し悩む顔をしたが、すぐ大丈夫だと言ってるような顔をして呪文を唱える。
なんだイメージを貰わなくても変化ってできるんだなんて思って見守っていると、ぽんと音を立てて睡の姿が見え始める。
そこにいたのはキーホルダーサイズになった真姿の睡だった。
それを見た私は
「っっっっっっっ~~~~~~」
と声にならない叫びを上げてしまった。
それを聞いた睡が、なにか異常だったのかと心配そうにこちらの様子を伺う。
大丈夫だよって言うように私は睡の頭を撫でる。
その意図が伝わったのか、不安そうな顔はしなくなった。
でも、ここで問題が出てきた。
どうやって睡を鞄に付けるかということだ。
ただ家を出る時間が迫っていたため、いい案が思い浮かばず私は、
「睡、ちっちゃくなってくれたのはいいんだけどキーホルダーとしてはつけてあげられないから、もう一回つけられるように変化とかってしてもらえる?」
と聞くと、私の方を見て
「そしたら、梓のイメージからキーホルダーみたいになってみる。
掌を貸してもらえるか?」
というので私は、掌を差し出す。
差し出された掌を見て、額に当てる。
また呪文を唱え始めると、煙が立ち込める。
そして煙が晴れると、キーホルダーのようなものが付いた小さい睡が現れ始めた。
これだったら鞄にもつけられるなと睡を、鞄に付け駅へ向かう。
少し時間に余裕がないため、急ぎ足で駅へ向かう。
駅では、昔から親友の宮原 蓮華と合流する。
毎日眠そうな顔をしてる蓮華に、
「おはよう。
いつも通り眠そうだね。」
と声をかけると、蓮華は眠たそうな気だるげな声で
「おはよぉ。
梓はいつも通りだねぇ
あっその鞄についてるキーホルダー新しいやつぅ?」
私はキーホルダーになっている睡を見せながら、
「そうなの!
たまたまこのキーホルダーに、一目惚れしちゃって買っちゃったんだー」
そう、睡を自慢する。
そんな朝の何気ない会話を済ませ、改札口に向かう。
そこからはいつも通り、電車に乗り学校へ向かう。
しっかり睡をもふもふすることも忘れない。
学校の最寄り駅一歩手前になったら蓮華を起こす。
蓮華は目を離すとすぐ寝ているので、目が離せない。
蓮華を起こして、学校へ向かう。
その道中ですれ違うクラスメイトにおはようと、声をかけながらクラスへ向かう。
クラスに付いたら、授業の準備をする。
その準備しながら、
「蓮華ー
ちゃんと授業の準備するんだよ」
そう声をかける。
んーと間の抜けた声と準備を始める音がする。
そんなことをしていたら、先生が入ってきて始業のベルが鳴る。
そうしてまた、いつもの日常が始まる。
そうしていたら、半日の授業が終わり昼休みになる。
蓮華を起こし、屋上に移動し昼食にする。
「ねぇ蓮華?
お昼ご飯食べたら少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」
そう話を切り出してみる。
そうしたら、何かを察したのか蓮華は
「そのキーホルダーの話でしょ?
だってそのキーホルダー今日梓に見せてもらってから、ずっと気配がしてるもん」
と話したかったことを言われる。
昔から蓮華は、霊感が強いなと思うことがあったが、こんなはっきりわかることを初めて知った。
私は驚きながら、
「そ、そうなの
なんでわかったの?
蓮華って霊感あったっけ?」
そうお昼ご飯のおにぎりを食べながら聞いてみる。
「そうそう。
梓には言ってなかったけど私の家はね昔から霊能者の家系で、梓は変なモノ達を惹きつけやすいからちょっと目を配ってたの。」
事もなげにそう言いう親友を見て、今まで性格が全然違うのに一緒にいた理由がわかった気がした。
「そっかぁぁ。
私をずっと守っててくれたんだぁ。
それで本題だけど、見せたキーホルダーね?
睡っていう妖狐?の子なんだけど、すんごい怪我をしていて、私の妖力で回復できるっていうから回復が終わるまで仮契約をしたの。」
と事の経緯をわかりやすく説明する。
一通り説明が終わると、親友の呆れたようなそんな声で、
「梓らしいって言ったららしいけど、契約結んじゃったら解除は難しいし
とりあえず、その妖狐さんに会わせてくれる?」
というので、教室から持ってきたキーホルダーを出す。
「睡、変化といて
蓮華に説明終わったよ。」
声をかけると、煙がもくもくと立ち込める。
少しして、煙が晴れると着物姿の睡が現れる。
それを見た途端、蓮華は警戒心を強める。
ある程度品定めをして、納得がいったのか警戒を解いて話を聞く体制になる。
それを察した私は、睡に目配せで合図をする。
睡はその目配せに気づいて、こくっと頷く。
「はじめまして。
俺は睡と申す。
生きた年は100超をえてからは数えるのをやめた。
仕えてた神がいなくなってからは、そこの神として生きてきた。
多分1000歳は超えている。
よろしく頼む。」
私も聞いたことのない、自己紹介をする。
自己紹介が終わると、蓮華は少し考え込んで、
「多分だけど睡くんは、天狐になっている可能性があるね。
1000を超えていて元神の使いをしてたなら、霊力を得ていても不思議はないと思う。」
なるほどなぁと感心しながら聞いている。
睡自身にも自覚がなかったようで、睡も少し感心したように聞いている。
「それを踏まえた上で、睡はなんでそんなに大きな力を持っていたのに、そこまで衰弱していたのかってこと。
何があったのか聞かせてもらえないと、私は睡を祓わなくちゃいけなくなる。」
そうかと顔をしかめた睡から、話し始めるのを待つ。
これはもう何年前の話だかわからない。
まだ俺が神様に仕えていた子狐だった時の話。
俺は一つの小さな村を守る神の使いだった。
その村は小さいけど穏やかでのどかなそんないい村だった。
だけどその年は雨が滅多に降らない年だった。
村人は飢饉に苦しみ一層神に頼るようになった。
がしかしそこにいた神は豊穣の神じゃなかった。
俺が狐でそこがずっとなんの神がいたのかうまく伝承されてなかったのが原因で、稲荷神社と勘違いされてしまって、村人は一層お参りに来るようになっていたんだ。
それでも飢饉は悪化する一方。
村人はやがて神を恨むようになっていたんだ。
恨みつらみが募った結果、暴挙に出た村人たちが祠を壊すようになったんだ
祠を壊されても神はそこに存在はできる…だが、今まで守ってきた村人たちに裏切られたと感じてしまった神は、いつの間にか消えてしまっていたんだ。
その時点で、少しの霊力があった俺は、そのままそこに居座ることにしたんだ。
そのうち俺の存在も神がいたことさえも忘れられていたんだ。
だから、そのまま穏やかに過ごしていけると思っていた。
だが、俺たちみたいな物の怪は、噂を呼ぶらしく俺はいつの日か殺される対象になっていた。
俺が殺される時は遠くなかったみたいで、その日はすぐ来た。
俺は必死に抵抗した。
でも多勢に無勢、俺は劣勢を強いられその土地を追われる結果になった。
そこで逃げ込んだ先が、滅多に人も入らず、回復するのにもちょうど良さそうなのが、あの森だったって訳だ。
あの日は、やっと逃げ込んで色々落ち着き始めて湖の近くで休んで居た時に梓が来たんだ。
話を聞き終わると、蓮華が口を開く。
「まぁ逃げんこんできた妖怪にありがちだね。
それで、梓の妖力に頼ろうって思ったわけか。」
そういう蓮華に、ちょっと複雑そうな顔で頷く睡。
「梓、ごめん。
少し睡さんとお話させてもらってもいいかな?
蓮華がそう真剣に言うもんで、私は頷く以外の選択はなかったので、頷き屋上をあとにする。
「さて睡さん本題なんだけど、睡さんは梓のことどう思ってるの?」
そう聞かれ、俺はなんて答えようか迷う。
俺は、確かに梓を利用していることになる
その感情だけではない、それは嘘ではない。
だが、それは恩情なのであって決してやましいものではない。
「確かに、お友達の君から見れば俺は、梓を利用しているように見えるのだろう。
だが、梓には助けてもらった恩もそのために一緒に過ごしてくれていて、感謝もしている。
それ以上でも以下でも無い。」
そう言うと、少し安心したような複雑そうな顔で頷く。
一言、傷つけたら許さないとつぶやき、梓を連れ戻しに向かう蓮華。
去り際に顔を確認した睡は、ちゃんと約束は守ろうそう心に誓うのであった。
蓮華に呼ばれ、戻ってくるとちょうどよく予冷が鳴る。
後片付けを簡単に済ませ、睡には変化を頼む。
忘れ物がないか最終チェックをし、急ぎ足で教室へ戻る。
戻りながら次は移動教室じゃなくてよかったな、とか考えながら。
昼食後の、抗えない眠気になんとか抗いながら、午後の授業を受ける。
ふと、親友を見る。
窓際の席で、ちょうど日差しが気持ちいいのかいい顔をしながら寝ている。
だが、今受けているのは私語や居眠りなどには厳しい先生。
居眠りがばれた連華は授業後しっかり呼び出しを受けていた。
これは長くなるかなぁ…なんて思っていたら、放課後の呼び出しになったらしく、すごい渋い顔をして先に帰っててと告げられる。
内心自業自得だなぁ…と思いつつ、苦笑いをして了承する。
それ以外には特に何事もなく、部活に入っているわけでもない私は、蓮華に言われた通り家路につく。
家路の途中、そういえば睡が来る前までは、何があっても絶対一緒に帰ってたなぁと思っていたら、
「ここら辺は、悪霊…というか悪いモノたちが多いのだな。」
「そんなにこの辺は多いの?」
と純粋な疑問を口にする。
そうすると睡は、少し不思議そうな疑問そうな顔をしながら
「そう…だな。
一つ聞きたいのだが、梓はあまり知覚できるタイプではないのか?」
「小さいときは、視えてたけど…
高校入ってから視えたり視えなかったりかなぁ…」
というと、少し難しそうな顔をしながらぶつぶつと何かをつぶやく睡。
何か結論が出たのか、納得したようにうなずく。
少し気になる気持ちを抑えながら、言うべきことなら言ってくれるだろうと聞かずにおく。
それでも少し様子が気になって、横を見ると何か悩んでるような表情をする。
そして何かを決心したような表情をすると口を開く
「梓…君は年齢と共に視えなくなってきている… だが、それと反比例するように、力が強くなっているようだ。 …少し言いづらいことなんだが、このまま行くと無意識に引き寄せ、厄を呼び寄せ、いずれ…孤独になってしまう…」
と少し俯きながら言う睡。
言われれば、高校に入って両親は…死んだわけじゃないけど忙しさが増したし、友達とは軒並み離れることになったし、まぁあんまり友達っていなかったけど…
でも確かに言われれば、人が離れていくことが増えたのはここ最近の話だなぁ…なんて思う。
だから、孤独になるって言われてもあんまり実感はなかったけど、心当たりが全くないってないってわけでもない。
でもやはり孤独になると言われても、実感がわかないと言うのが実際のところだ。
「やはり孤独は怖いか…」
そんな風に不安そうな表情をする睡に、よく考える。
でもいくら考えても実感がわかない、そんなに自分自身恐怖を感じていないということに気づかされる。
「んー…怖いか怖くないかで言うなら実感がわかないかなぁ…
でも多分だけど私自身はそんなに恐怖って言うのは、感じてないかなぁ」
そんな風に思ったことをそのまま伝えたら、睡は少しぼっくりしたような難しそうなそんな顔をしていた。
「まぁ…そんな先のことを考えていても人間はあまり意味がないのだったな。
それに契約にある通り、梓のことは何があっても俺が守る。
だから、安心しても大丈夫だ。」
そうか。
私は睡と契約していたし、のちにこの力はなくしてもらえるんだったと、じゃあ頭の片隅に置くくらいにしておこう。
そんな会話をしている一方森の中で、
「あぁ…そんな風に梓に触れてしまってはけ穢れてしまうではないか…」
そう、つぶやく声がこだましてるのだった。