頭隠して道隠さず
朝か…窓から入った光で目が覚める。
「知らない天井だ…。」
一度は言ってみたかっただけの冗談だ。今日は記念すべき初ダンジョン探索日なので寝坊はしていられないと、すぐさま起きてシートなどを整え部屋を出る。
受付の広場に来るともう既にそこそこの人がいた。
テーブルがあるので食事はできないだろうかと思い周りを見ると、モーニングと書かれた看板を立てたいい匂いのする受付がある。どうやら既に作られたメニューを決められた金額で配布しているようだ 。
そこに行き昨日いただいたお金を出す。
「はい1万Gですね!こちらお返しの9500Gです。」
(コレが1万G…5万Gもいただいていたのか。その上アイテムボックスまで…ありがたい。)
太っ腹な獣王の娘様に心の中で感謝してモーニングを食べる。パンを主食にしていて味はなかなか美味しいが、ダンジョン探索に早く向かいたいので早食気味に食べ終わる。しかしダンジョンの場所が分からないので受付で聞けるだろうかと思い向かおうとすると
「おう、兄ちゃん 新米講習はしっかり受講したみてぇだな。今日からダンジョンかい?」
以前も会った世紀末お兄さんが話しかけてくる。この人はいい人なので見た目の印象に怖がる必要は無い。
「おはようございます、その節はありがとうございました。今からダンジョンに向かおうと思っているのですが、場所が分からないので受付の方に伺おうかと。」
「なるほどな、しかし朝に受付に行くのはよした方がいいぜ。見ての通り混雑してるからな。」
そう、世紀末さんの言う通りモーニングを食べていたら受付は大変混み始めたのだ。
「よし、しょうがねぇコイツをやろう。コイツはこの城下町の地図でよ、ダンジョンの場所も書いてあるんだぜ…ココだ。安心しな地図は受付にいえば無料で配布されてるからな、俺様クラスになると予備を持ってんのよ!」
そう言って街の中心を指さす、地図を見る限り1つの大きな建物があり周りの建物からは距離があるようだ。ここのギルドからはすぐ近くにあるようなので直ぐに向かうことにする。
「ありがとうございます、大切に使います。」
「おう!兄ちゃん礼儀正しいな気に入ったぜ。兄ちゃんが今から行くはじまりのダンジョンは全部で地下20階まである中規模ダンジョンだ。10階層ごとにボスがいて、5階層ごとに入口に転移結晶がある。コイツは1度触れれば登録されて1階入口の転移結晶から飛ぶことが出来る。逆戻りもできるぜ上手く活用しな!」
「わかりました、貴重な情報感謝します!」
世紀末お兄さんの手厚いダンジョン解説を受けた後、渡された地図をありがたく受け取りダンジョンへと歩いていく。既に目視できる距離にある白い大きな長方形の建物に少しばかり歩けばたどり着いた。
-はじまりのダンジョン-
どうやらここで間違いないようだ。はやる心を抑えながら入口に立っている兵士に身分証見せ、中に入ると建物の半分くらいの大きさの地下へと続く階段がそこにあり、人々が多く出入りしていた。
ゴクリ…と唾を飲む。さぁ始めよう 攻略を。
覚悟を決め階段をおりて開きっぱなしになっている大きな門の中に入ると、ヒヤリとした空気が肌を刺す。ふと気がつくと、周りにいた人が誰もいなくなっている。驚いて入口を戻ると門をくぐった瞬間周りに人が現れる…。どういうことだと思い、もう一度ダンジョンに入るとまた人が誰もいなくなる。…世紀末先輩は何も言ってなかった。
もしや私だけサーバーが違う? プレイヤー毎にダンジョンのサーバーを分けるのは、人が多く集まるMMOなどではよくあるシステムだ。
(なるほど、これならダンジョン内での奪い合いなどのトラブルは無くなるだろう。しかしまさかソロ限定なのか? 何かパーティを組むための要素があるといいが…。)
不安は残るものの今は先に進むしかなく、仕方なくダンジョン探索を再開する。
「さて、お宝 レアモン 隠し部屋~♪…っと出たね。」
グルルッッ…。
不快な唸り声を鳴らしながらこちらへ近づいて来るのは、緑の肌に尖った耳そして不潔そうな見た目の小柄な体躯の生物、見た目的に名前をゴブリンとしよう。目の前の生物は私を殺そうとしているから全力で走ってきているが、幸いなのは素手であるということ。
(不思議だ…恐怖を感じない。それどころかワクワクしてさえいる 戦闘順応の効果だろうか?)
そんなことを考えたが、すぐに目の前の敵に対処する。ゴブリンは全力で殺しに来ているが講師に比べれば隙だらけだった。知能も低いのか近づいてきたところを右に避けて足をかけ、転ばせたところを首をはねた。その際にほとんど抵抗が無かったことに一瞬驚く。この剣はどれほどの性能なのかと思うと顔がニヤけるのが止められない。
(さて、この調子で進もうか!)
戦えることを確認できたので、アイテムボックスからMAPを取り出して見てみる。どうやら見た目はただの紙だが、その実まるで電子padのような仕組みで拡大や縮小、横にスライドすると別の階のMAPが見れるという不思議な紙なのようだ。とりあえず10階層までのMAPを見てみようかと思い確認していくと、
「ん?これは…。」
3階層のMAPを確認していた時ふと目に付いた、
3階層は途中に広間が1つあるだけの一本道なのだがその広間の横に不自然な凸があった 。まるで何かに続く道のように。
(目標が決まったね、3階層広間の凸確認と5階層到達
順調に進めたらボスまで行こう。)
勇み足と思わなくもないが今日の私は進むことを躊躇わない躊躇えない。そうして新米探索者は心の赴くまま進むことを決めた。
何故か一匹ずつ襲い来るゴブリンを倒しながらMAPに従い2階層の途中までやってきた所、新しいモンスターにエンカウントした。
(オオカミ…いや、ゲーム風に言うとウルフか。)
シベリアンハスキーのような顔の形と体躯だがその顔は明らかに殺意をこちらに向けていた、 数は2匹。ジリジリと距離を詰めてくるが、何故か負けるとは思えなかった。私はすぐに壁まで行きそれを背にして剣を構えると、逃げ道をなくしたと思ったウルフがすぐさま飛びかかってくる。しかし行動キャンセルができなくなったウルフは、私のはなった横なぎで顔に一本道でできて倒れた。残るウルフは地面から低く襲ってきたが、私は噛み付くのを止めなかった。
そしてそのまま足に噛み付いてきたところを胴体に横なぎで倒す。戦闘順応のおかげか痛みは少しで済んだのですぐにヒールをして先に進む。
(知力が上がっているからだろうか?いつもより冷静な気がする。)
そうして2層の魔物も危なげなく倒し、3層の目的の広間にたどり着く。3層では魔物は新しく増えず 一度に接敵する数が増えただけだった。ウルフは一匹増えただけだったが、ゴブリンが5匹まで増えた時は驚いた。
しかし素手のゴブリンはパワースラッシュで同時に何体も斬ることが出来るので負けようが無く、ウルフは相変わらず肉を切らせて骨を断つようにしている。
ヒールは全身を治療もできるのだがする治療の効果は薄まってしまう欠点がある、しかしウルフの噛みつき程度なら1度で治療できたのでよかった。
「ここかな。」
広間の不自然な窪みである、地図で見ると凸の部分に来た。見た目は周りの壁と違うところはない。しかしゲーマーの感が告げる 、ここに何かあると。
「よし、とりあえずパワースラッシュで攻撃してみよう。」
そうと決まればさっそく行動に移す。鉄の剣を構え祈りながら斬ると、スキルが当たった瞬間驚くほど呆気なく壁が崩れ落ち土煙が舞う、しかし暫くするとそれも収まる。そして、奥には部屋が続いていた。
ゴクリッ…。
息を飲みその部屋に入ると、そこには目を奪われるほどの白く美しい台座の上にその空間の視線を全て奪う程の圧倒的な存在感を持つ一冊の本がある。
恐る恐る近ずいてソレを確認するとそこにあったのは
<風の魔導-上->
そう書かれた魔導書、即ち超大当りだった。