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判官殿と冒険者ギルドの段

 結果だけを言うと、宴は三日間続いた。

 すっかり疲れた義経だったが、今度こそはとギルドへの紹介状をアイザックに書かせることに成功した。まだまだと引き留められたが、子ども扱いされ続けるのにも飽きたので、丁寧な口調で断った。

「これが紹介状でございます」

 筒状に丸めた羊皮紙を机の上に置き、アイザックは言った。

 蜜蝋で封じられた紹介状を恭しく受け取ると、義経は頭を下げた。

「世話になった」

「いえいえ。我が家の門は何時でも開きますので。店でも何なりとお申し付けくださいませ」

 屋敷の門まで送られると、義経はアイザック邸をあとにした。


 高級住宅街である第一壁を出ると、街は朝の賑わいに満ちていた。

 荷車には様々な品が積まれ、屋台の売り子の声が飛び交う。見た目こそ日ノ本とは異なるが、本質はあまり変わらない。

「お嬢ちゃん、串焼きどうだい!」

「拙は男でござる!」

 などといった会話を繰り返し、義経は冒険者ギルドを目指した。

 人にもまれながら街を行くと、大きな広場に出た。そこにも屋台が軒を連ねていたが、一際大きな建物があった。

 緑の地色に楯と剣の紋章旗が飾られているこここそが、冒険者ギルドウェイラン支部である。

 様々な装束に身を包んだ人々が出入りしているのが遠目にも見えるが、強者(つわもの)やひよっこも混在している。

「いざ」

 紹介状を握る手に力が入る。

 これからは源氏など関係なく生きると決めた。思いがけず知己ができたが、それは僥倖でしかない。

大きく息を吐くと、義経はギルドの両開きのドアを開いた。

「おお……」

 中に入ると、雰囲気が一変した。

 街中とは違う熱気が漂い、殆どの者が何かしらの武器を装備している。中にはエスタリアが言った魔力とやらが漂う人物もいる。

 中は酒場のような場所とカウンターや掲示板のあるスペースに分かれており、総勢五十人はいるだろうか。表情は様々であり、嬉しそうな顔をしている他にも落ち込んでいたり険悪そうな連中がいた。

「たのもう!」

 アイザックに言われた通り、一番右端のカウンターの前に立つと、制服とやらを着た若い女性に声をかけた。

 栗色の髪を後ろで纏めていた彼女は、義経を見るなり優し気な笑みを浮かべた。

「どーしたの? お父さんからのおつかいかしら」

「またか! 拙は既に元服した身。成人とやらだ!」

 毎度のことに、義経は怒鳴った。

 視線が集まっているが、気にしている気分ではない。

「アイザック殿からの紹介状だ。確かめられよ」

 義経には高いカウンターに羊皮紙を叩きつけると、腕を組んだ。

「アイザック殿? まさか……」

 にわかには信じられなかったようだが、封にある盾と秤の紋章に顔色を変えた。

 ウェイランに住む者なら知らぬものの無い大商会。それがアイザック商会である。その印は軽々と使われる事など無い。

「ちょ、待っててね!」

 真っ青な顔になると、彼女はカウンターの奥に姿を消した。

 辺りが騒めくが、義経は機嫌が悪い。気にしている余裕などなかった。「あのお嬢ちゃん何者だ?」「さあ……」「この辺の格好じゃねえな。東方かな?」

 様々な声が聞こえるが、義経は身じろぎ一つしない。

 怒りが殺気まで昇華しかねない程となり、一部の者が異様さを感じ始めた頃、先程の女性が真っ白い顔をしながら戻ってきた。

「マスターが会うとのことです。奥へどうぞ!」

 そう言うと、カウンターとこちらを分けている板を上げた。

「承知した」

 組んでいた腕を解くと、義経は彼女に案内されるままに奥のドアへと向かった。

「何かの兆候かな?」

 騒めく人々の中、誰かがそう呟いた。


「初めまして。私がこのギルドの支部長を務めるハインツです」

 眼鏡を掛けた老人が執務机から立ち上がった。

 歳は六十は超えているだろうか、深い皺に白い短髪。それでいて背はシャンと伸び、足取りも不安を感じさせない。

(昔に兵法でも嗜んだな)

 剣術を学んだ身として、義経はそう感じた。

「判りますか」

「うむ」

「流石にアイザックが勧めるだけはありますね。ともあれ、お座りください」

 二人は座れそうなソファーを指され、義経は頷いた。

「先ずはお詫びを。受付が失礼いたしました」

「構わぬ。いい加減慣れてきた」

 ハインツの柔らかい所作に、義経の怒りは収まった。

「グレタ君、お茶を」

「は、はいっ!」

 受付の女性は大声を上げて部屋から出て行った。

「人を見かけで判断しないようには言ってはいるのですがね。彼女もまだ若い」

 義経の体面に座ると、ハインツは苦笑した。

「致し方ない。拙も最初は驚いた」

「大変にお強い。そしてお召し物もそこいらで手に入るような品ではございませんな」

「さる御方(おんかた)より拝領した。万金を積まれても売れぬ」

 ハインツの眼力に驚嘆しつつ、義経は頷いた。

「でしょうなあ。私でもそう言うでしょう」

 断言した義経に、ハインツは微笑んだ。

 そうしていると、ドアがノックされ、グレタと呼ばれた女性が入ってきた。

「ど、どうぞ!」

「かたじけない」

「では私はこれで!」

 つんのめりそうなぐらい頭を下げると、グレタは支部長室から出て行った。

「有能ではあるのですよ」

 バタバタと去ったグレタをハインツは評した。

「では、本題に入りましょうか」 

 

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