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「本当の事をいうとね」
明美はクリームソーダに浮かんだアイスクリームをスプーンでつついた。
「あたし、すごく腹が立ったの」
「ん?」
学校帰り。久しぶりに、こっそりと喫茶店に寄ったのである。
聡は珈琲を嗜んでいた。香ばしい香りが辺りに漂っている。
「だって、あの二人とも、植草くんのこと」
そこまで言って、明美は口をつぐんだ。
「ごめん、なんでもない」
流石に言えなかった。それでも、明美は苛立っていたのだ。
聡の両親は、それで幸せだったのかもしれない。でも、その息子の聡が一人残されたことには違いないのだ。
聡は微笑んだ。
「ううん。分かるよ。ぼくも、そう思ってた」
「ごめん」
「いいんだ」
聡は、目を細める。
「ありがとう」
「……え?」
「笹原さんが、僕のために怒っている。それだけでぼくは嬉しいんだ」
そう言って、聡はほうと息を吐いた。
「葉子さんにも、お礼を言いたかったんだけどね」
葉子はアパートを退居した。退居した、と、両親から聞かされた。親戚に不幸があって、すぐに郷里に帰らなければならない、とのことであった。
「葉子さんって、何者なんだろう」
「さあ。……でも」
聡は珈琲カップをかたりとおいた。
「すごく、素敵な人だったね」
明美もうなずいた。
何となく、明美には分かっていた。空っぽの202号室を見て、明美は思ったものだ。
もう二度と、葉子には会えない。あの不思議な麗人は、二度と自分たちの前に姿を現すことはないのだろう。
「ねえ、笹原さん、お願いがあるんだ」
改まった表情の聡に、明美はぱちりと目を瞬かせる。
「お願い?」
「ぼくにマフラー編んでくれない?」
「へっ!?」
「実は憧れてたんだ。彼女の手編みマフラー」
「え、え、え!?」
「だめ?」
明美は盛大に困惑する。今、彼は、何と言った?
明美の顔が一気に朱に染まる。
「あの、あのね、確認なんだけどね」
聞かなければと思っていたのだ。ずるずるとここまで来てしまったが、今が最後のチャンスである。
明美は深呼吸した。
「……あたしたちって、付き合ってる……の?」
聡は、瞠目した。
「え」
「え」
「あ、そうか、言ってなかったのか」
「聞いて、ない」
「あ……」
「うん」
「……あの、さ」
聡は顔を机に臥せた
その耳が赤く染まっているのを、明美は見逃さなかった。
「笹原さん、ぼくは」
冬だ。
雪が、桜の花のように舞う。
手を繋ぐ。首に巻かれた白いマフラーが、木枯らしに揺れている。
曇天から舞う雪を見て、明美は微笑んだ。
この手を、絶対に離さない。
もう一人にはしない。そう決めた。
幻想的な風景であった。
歩く。
歩く。
視界が白で埋め尽くされる
「ねえ明美ちゃん」
「うん」
交わされた約束。
それが、十年後に叶うことになるのを、まだ二人は知らなかった。
雪が、降っていた。
白い、白い、雪が。




