32、王太子の死
ここは天界、ケルビムの執務室。
「ケルビムさま、ルベールさまはっ、どこにいらっしゃるのですか?」
先ほどからリリエルが半狂乱になっている。
「落ち着け、リリエル。」
「アレクサンダーお兄様もシュベールお兄様も先ほど魂の間の控え室におられるのを見ました。バサラお父様もユーリアお母様も戻ってらしたのを見ました。ウィンザー城を守っていた方々は陛下を始め、王城自体が天界の結界に守られていると聞きました。ケルビム様はルベールさまの後を追って湖底に行かれたのですよね。みんな戻っているのに、ルベールさまだけ、、お会いしておりません。早く、早く、会わせてください。」
「リリエル、落ち着きなさい。先ほどの全軍撤退は、主のご意思なのだ。多くの命を救うための緊急措置だ。詳しいことは最上級天使殿から説明がある。少し落ち着きなさい。」
※ ※ ※
ここは天界の銀の間。ここにいるのは、ケルビム、アレクサンダー、シュベール、リリエル。
奥の扉が開き、目も開けていられないほどの眩い光が差し込む、目を細めるとそこに天使がいるのがわかる。
ケルビムが跪き、初めてみる天使を紹介する。
「皆、礼を尽くせ。天使界最上位の熾天使セラフィム殿だ。セラフィム殿は主に一番近い地位におられる。」
皆が跪き礼を尽くす。
「皆、気を使わなくてもよい、顔をあげよ。」
顔をあげたアレクサンダー、シュベール、リリエルは息をのんだ。神に匹敵するのではないかと思うほどの眩しさと畏怖、煌めく白髪に金色の目、凛とした厳しさを含んだ表情、そして何と黄金に輝く翼が三対、つまり六枚あった。
「私は熾天使セラフィムという。主の御心を具現化するために必要な采配をこの天界でするのが仕事だ。ケルビムは私の第一位の側近だ。で今の状況を説明するゆえ、質問は後でまとめて聞こう。良いな。」
三人が頷く。
「想定外でもあり想定内でもあったのだが、つい先ほど、地獄のぬしサダーンがルシファーに力を貸した。本来であればルシファーを管理監督するのがサダーンの役目、地獄には地獄の階級、秩序、規律もある。更に天界との約束であれ以上、地獄のゲートを広げてはならないのだ。地獄は天界の管理下にあり、天界の神に背いた堕天使の行き先、人間の邪悪な感情の行き場であり、天界と最も真逆に位置する場所。」
ケルビムがその後を引き継いで説明する。
「今回の戦いは、アジズがルシファーに人間界に女神がいること、つまり白百合の乙女の存在を明かしてしまったことが原因だ。当初はルシファーがリリエルを異常に欲しがっていたのだが、戦いを見張っていたサダーンの目に留まってしまったのだろう。」
「サダーンはリリエルが欲しくなった。サダーンの息子と言われるほど悪どいルシファーを生贄にしてゲートを開こうとするほどリリエルが欲しくなった、ということだ。だからあの地獄のゲートにルシファーを埋めた。」
アレクサンダー、シュベール、リリエルが不可解な顔をする。
「あの地獄のゲートを閉じたのはルベールではなくてサダーンだ。」
「「「ええっ?」」」
「ルシファーだけ埋めても意味がない、人間側の生贄つまりルベールも必要だったのだ。ルベールの膨大な魔力量は闇を封じ込める力がある。拮抗しているルベールとルシファーをゲートに埋めることで、地獄の全てをウィンザーに反転させ透過させることができる、ということだ。更にサダーンがリリエルを手に入れたら地獄は天界の力も跳ね返すこともできる。つまり天界の支配から逃れられる、ということだ。」
「なのでセラフィム殿が、ルベールが飲み込まれた瞬間、緊急措置で天界以外の時をお止めになった。行動出来るのは天使軍だけ、リリエルとウィンザーの王位継承権をもつアレクサンダーとシュベールを連れて天界に避難した。同時にウィンザー城全てを天界の結界に入れたので、城を守っているもの全ては保護されている。」
「ここまでで質問は?」
「セラフィムさま、ルベールさまは生贄とおっしゃいましたが。」
「ふむ、正しくは仮死状態でゲートの一部に取り込まれている。」
「助け出す方法は、どのようにしたら。」
「救出はできない。救出よりもゲートを無効化するためにルシファーとルベールを鉱物化するしかない。」
「いま、なんと?」
「現在ルベールとルシファーは仮死状態だが、地獄全体が人間界に透過するための魔力は生きている。このまま放置するとサダーンが人間界へ入り込む透過を開始する。その前にこの魔力を消し且つゲートを固めるために、無効化つまり無機質なものへ変えてしまう必要がある。」
「その前にルベール様を助けられるではありませんか。」
「彼は今、地獄のゲートの栓のような状態で、地獄に一部入り込み一体化している、ルベールだけ取り除けば、速攻で人間界は地獄に呑みこまれる。だから栓のまま無機質にするしかないのだ。。」
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