22、お兄様へ説明を求む
エルラールお兄様の腕の中は清々しい香りがする。
でもミカエル様じゃなくて、アレクサンダーお兄様でもなく、昨日ちょっと慣れたオウタイシデンカでもない。腕の中にいるにはあまりにも、安堵と緊張が入り混じってギクシャクしてしまう。
「お、お、おおお、お兄様、ですよね?
どういうことですか。
せ、説明を要求します」
もう何がなんだかわからない。
お父様とお母様を思って絶叫号泣していたのに、一瞬で涙がひっ込んだ。
「わかっている」
まいった。昨日から驚きすぎて、もうなんでもどうでもよくなってきた。公爵令嬢というより百合香だ。
「お兄様ですよね?」
「私がエルラールだ。それは納得しているのだろう?」
「おかしいとは思うのです、思うのですが、心がお兄様だと言っています」
「間違いなくリルの兄だ」
「。。。。。信じます」
「ありがとう、で、何から話そうか」
向こうもタメ口気味?お兄様だからいいか。
「何から知ってるのですか」
「地球の時から」
「なんで?」
「なんで、と言われても、ブーレ湖でリルが生まれて、その後すぐ父上と母上を失った。あの湖で妖精王が全て見せてくれた、というか納得したのだ」
「信じたのですか?」
「私は生まれた時から、人間離れしていて、魔力量もおかしかった」
「でしょうね」
「リルが天界に呼ばれる前に、つまりブーレ湖でお前に会う前、私は六歳で神に呼ばれた」
「お兄様が、過去生で何かやらかしたのですか?」
「違う、断じて私はミスなどしない。やらかしたのは百合香だ」
おっと、百合香の名前を引っ張り出してくるとは、いい根性してる。
「原因はわたし?」
「当たり前だ。
人間が四度の人生で魂の旅が終えられないなどありえないのだ。
本来、問題のある魂は、天界ではなく黄泉界へ送られる。
それぞれの魂に合わせ、数百年から数千年の修行をして、再度四度の人生をやり直す。
だがお前はお人好しすぎて黄泉の国《俗に言われる地獄》に送るわけにはいかなかった。
親切心から人助けをして人生を失敗してしまう、そういう意味では出来が悪いとしか言いようがなかった。
ミカエルだけの問題ではなく、主、つまり天界の神は『私の指導が悪い』と」
私は笑えてきた。
「ひっ、ふぁっ、はっ、ふぇっ、あはははははははっ」
おかしすぎて、涙が出てきた。
「笑うな!」
エルラールお兄様は、とっても素敵な方だった。怒ると逆に怖くなかった。
キラキラの銀髪で水色の瞳。今日は銀縁のメガネをかけてないだけで。シビアでストイックな雰囲気は変わってない。
「ふふふふっ、もしかして異世界に飛ばされたのですか。ひっ、ふっ、ははっ」
どうしても笑ってしまう。笑いが止まらない。
「飛ばされていない。兼任だ。天界の仕事はしている。言っただろう。こちらの百年は天界の一日」
「じゃあ、ダブルワークですね」
「何度も言わせるな。こちらの一日は天界の数秒、用のある時だけ降りてくれば済む。
六歳まではずっとこちらの世界にいたが、それでも天界時間で一時間ほどで最長だった。
あとは必要な時だけ数秒降りてきている」
「やっぱりダブルワークですよ」
「ため息の合間の片手間、と言ってくれ」
「最初からそう言ってくだされば」
「最初からではない。六十七回目のリセットスタートの少し前からだ」
「こっちに飛ばされたのが、私が六十六回目に死んだ後、なんですね。なーるほど、静電気の時から、そういうことだったんだ」
「だから飛ばされてはいない、兼務だ」
「はい、兼務でしたね。で、ずっとエルラールお兄様でいてくださるのでしょうか」
「お前が天寿を全うするまでだが」
「お手数をおかけして申し訳ありません。努力します」
「お人好しで人々を救いたいのであれば、王太子妃として、その先は王妃として、国のために尽くすのもよかろう。
国の要職にあるものが、些細なことでうっかり死ぬわけにはいかぬからな」
エルラールお兄様がちらっと懐中時計をみる。
「そろそろ上↑に戻るが、まだ説明が必要か」
「いえ、大丈夫です」
「用があれば呼べ」
「ありがとうございます。あと、一つ」
「何だ」
「バサラお父様とユーリアお母様は、天界におられるのでしょうか」
「非常に優秀な魂だったので、今は大天使となって使命に燃えている。お前のような、、、いや言っても詮無い」
「安心しました。私も頑張ります」
「それから、馬鹿なことをしそうになったら、静電気は落とすから忘れるな」
デコピンされた。
「ヒャイ!」
あっという間にエルラールお兄様は上↑へ戻られたようだ。
そう、銀髪に水色の瞳、エルラールお兄様は、なんと智天使ケルビム様の人間世界での仮の姿だった。
笑っちゃいけないけど、笑えてくる。
天界の智天使様は、神の優秀な側近であり天界の宰相の立場。
下界で数秒の兼任と言えど、ウィンザー王国で私のお兄様役なんて、びっくり、どうにも笑えてくる。
「ふふっ、ひっ、あはははははははっ、ひっ、ひゃっ、ふふっ」
《リリエル、笑うな!》
ドドドドーンビジャガジャホイ€$※@¥×φ
頭から静電気、いや、雷が落ちた。
「お兄様っ、ごめんなひゃい」
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿予定です。




