1、四度の人生の結末
ここは天界、神様の御前で私は跪いて項垂れていた。
人の良さそうなおじいちゃまが、白い長い顎髭をさわりつつ思案顔で話している。
神様の横に控えている天使様は、銀髪に水色の瞳で銀縁のメガネをかけていて、ものすご〜く賢そうなお顔立ちだ。
「さて、そなたの魂をどうするのが良いかのう。なあケルビムよ。」
「主よ、このものは、地球での人生を既に四回終えており、この魂はもう地球に転生することはできませぬ。天の光の一粒として吸収するしかないでしょう。」
(ええっ、光に吸収されて私は人でなくなるの?いや、もうすでに私は魂だけになっていて、どうにか淡い白い光が人の形をしているだけだから、このまま消えていくのね。
ケルビム様と呼ばれてたこのイケメンの賢そうな天使様、この方は上位の智天使様だわ。さしずめ天界の大臣という感じかしら?)
私は、これまでの人生で、なぜか天使様が大好きで天使グッズを集めていた。守護天使がミカエル様だと気がついてからは、更に色々と調べていたから、名前ですぐに智天使様だと分かった。
「まぁまぁケルビムよ、そう急に答えを出すでない。私はな、この者の魂がリリーであった時も、小百合やリリーアン、最後の百合香であった時も、素直で周りの者に優しく、自己犠牲を厭わず、小さな命をも大切にしていたのを知っているのだ。それにこの者には、無自覚だが癒しの力があった。」
「主よ、その三度の人生を踏まえて、四度目は相思相愛の祝福された結婚で幸せになるはずの人生でしたが、このものが失敗をしたのですよ。ミカエルが付いていながら、そのメッセージを正しく受け取ることなく、悪魔に魅入られた心を持つものを信じたからではありませんか。」
智天使ケルビム様がパチンと指を鳴らすと、神様の横に巨大スクリーンが現れた。
私の記憶にある映像が流れていく。好きになって愛した人。共に生きる未来を夢見て頑張った人生。映像に合わせて、ケルビム様がナレーションのように説明を挟む。
「一度目は、旧ローマ帝国、トスマーマ侯爵の姫リリーとして生まれ、当時の帝国第二王子に嫁ぐはずが、横恋慕し悪魔に魅入られた男爵令嬢に騙され、十六歳の春、教会の塔から突き落とされ転落死。
ニ度目、日本の京の公家の姫に生まれたものの、悪魔に魅入られた継母に騙され花街に売り飛ばされ小百合と名乗り、努力し芸妓になったものの、お座敷で出会った新撰組の隊士と恋仲になり夫婦になるはずが、寺田屋事件のとばっちりでその隊士を庇って十八歳の若さで刺殺。
三度目、イギリスの伯爵家の姫リリーアンとして生まれたものの、婚約者の伯爵が戦争に従軍することになり。異母妹と共に看護隊へ。前線に近い病院で負傷兵の看護にあたっていたが、婚約者の伯爵に横恋慕し悪魔に魅入られた異母妹が、わざと空襲警報を教えてくれず、逃げ遅れ爆撃に巻き込まれ十九歳で爆死。
四度目は、わかっていますね。日本のIT界の中心である方と結婚して公私共に活躍し愛し愛され幸せになるはずだった。友人とは到底言えないような自己中女を信じるから、このようなことに。」
胸が詰まり涙が溢れる。それぞれの人生で大切な大切な婚約者たち。
(私が死んだ後、みんなは幸せになれたのかしら。)
私の思いが聞こえたかのように、神様がポツリと仰った。
「誰も幸せにはなっとらん。そなたを愛した者たちは愛するそなたを失って、そなたを死に追いやった原因を悉く潰したのだ。彼らもまた愛の源を見失ってしまった。」
「そんな、、、どうして、、、」
ケルビム様の声が聞こえる。
「帝国の第二王子は、男爵家を取り潰した後、望んで何度も戦に参加し戦死。新撰組隊士は戊辰戦争で戦死。イギリスの伯爵は、リリーアンの異母妹を修道院へ送り、その後戦争に従軍し戦死。全員、転生を拒み、光に吸収される前の段階で天界で漂っている。」
「は、は、隼人さんは?生きてますよね?」
「あなたを車ではねた衝撃で頭を強く打ち重体だ。」
ケルビム様が淡々と告げる。
私は崩れ落ちた。
私の魂は未熟すぎたんだ。大切な人たちを誰も幸せにできなかった。
光に吸収してもらって消えるしかないと思った時だった。
「白百合の乙女の魂よ。そなたが光に吸収されても、誰一人浮かばれぬ。地球には戻してやれぬが、別次元の異世界で一から生きてみぬか。」
「いっ、べつじげん?いせかい?異世界ですか?」
神様と智天使ケルビム様は、揃って頷いた。
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