17、驚愕の事実 ロマイエ国編 過去を遡って
十九年前。
臣籍降下したヘンリーはホワイティエ公爵となり、政治の派閥に全く関わっていない古代魔法研究学の権威と言われるチャロアイド侯爵家の長女フリージアを娶った。王立魔法師団で魔法研究に携わる中、チャロアイド教授の補佐をしていた娘フリージアと意気投合したのだった。
※ ※ ※
ウィンザー王国が泰平の治世に入って行くかと思っていた矢先に、それは起きた。
王太子妃マーガレットは公務で、ユーリア・ブラックウェル侯爵夫人、フリージア・ホワイティエ公爵夫人と共に慈善活動にも力を注いでいた。
マーガレットが妊娠安定期に入ったその日は、王都はずれの女子修道院で運営されている孤児院に併設して、王太子妃主導で国内初の平民や孤児の女性のための女子職業訓練校が完成し、開校式に王太子妃マーガレット、ユーリア、フリージアが訪問していた。この時フリージアも懐妊していた。
大きな講堂で、修道女を始め五十名ほどの生徒たちにマーガレットが挨拶をしている時だった。急に講堂いっぱいの魔法陣が開き、女性全員が飲み込まれ一瞬で消えた。
講堂の入り口で護衛をしていた近衛騎士たちは、戦う暇も護る隙さえ与えられず護衛対象を見失った。
一報は、アルフレッド王太子に魔法通信で即座に報告。王太子の執務室で会議をしていたヘンリー・ホワイティエ公爵、バサラ・ブラックウェル魔法副師団長は、即座に現場に転移魔法で飛んだ。
現場保護をしていた護衛騎士達から詳細を聞きながら、魔法陣の軌跡を調査する。
「バサラ。気がついたか?」
「ヘンリーもわかったのか?さすがにチャロアイド教授のご息女だな。」
魔法陣の中心に細い細い蜘蛛の糸のような魔法が残っていた。
「これはフリージアが残した追跡魔法の糸だ。」
「その追跡魔法にユーリアが光魔法を付与して消えないように保護強化魔法を欠けている。よく二人とも一瞬でこれだけの術式を。」
「女性だけが攫われるとは、マーガレット王太子妃殿下を狙ったのだな。王太子殿下に報告して、救出に向かうぞ。」
その時だった、エドワード王太子が王城から転移魔法で現場に到着。
「兄上、バサラ、見てくれっ、脅迫状が。」
魔法陣での拉致誘拐の犯人はロマイエ国だった。王太子妃を返して欲しければ、属国になれ、と。
「属国にしてくれと言ってきたのはロマイエだろう。」
「、、もしかして、ロマイエからの輿入れも謀だったのでは?」
「私も当時それを疑っていた。そうでなければ逃げた二人を即刻斬首するか?いくらウィンザーへの詫びと言っても、申し開きなしで追手の軍が自国の王女を斬首とは、何かの口封じだったのではないかと、あれから調査は続けていたのだが。」
「確かに。兄上を謀って、こちらの王族の命を狙うか何かする気だったのを、アリシラ王女を護衛が逃がしたいと思っていたのなら。」
「実はそれに近い事実があった。極秘に調べて判明したのだが、あの護衛騎士の身元は、ロマイエ国の筆頭侯爵家の嫡男だった。侯爵家の嫡男が王女の護衛騎士にはならない、というよりも元々その侯爵家にアリシラ王女は降嫁予定だった。婚約者がいたのにその婚約者を護衛騎士にして、無理矢理我が国へ輿入れさせるなどおかしい。あの二人がこちらの手に渡れば、ロマイエの陰謀が発覚するから消したのではないかと。それにロマイエでは昔から人身売買が国主導の闇市で行われている。」
「もし、今回の拉致が、マーガレットだけではなく、ユーリアやフリージア、ウィンザーの女性全てが狙いなら。」
「我が国は完全にバカにされている。」
そこからの行動は早かった。アルフレッド王太子が指揮をとりウィンザー王国一の魔力保有のヘンリー・ホワイティエとバサラ・ブラックウェルを中心に救出隊が組まれ、フリージアとユーリアが残した追跡魔法を追いかけて転移した。
転移先はロマイエ王国の王宮地下牢だった。
兵士たちがよってたかって孤児達と貴族女性三人と侍女達を引き離そうとしているが貴族女性三人が張っている結界が強すぎて近づけない。その結界の中から攻撃魔法が放たれている。
彼女達と兵士達のあいだにバサラが飛び込み兵士達に雷魔法を一撃する。兵士達は争う間もなく一瞬で倒れた。
ヘンリーが、女性全員を包む新しい魔法陣を起動している。
「妃殿下、ユーリア夫人、フリージア、全員を王城内へ転移します。あとは王城の指示に従ってください。向こうにはアルフレッド王太子殿下、ブラックウェル魔法師団長、騎士団が待っています。」
消えゆく魔法陣の中からフリージアが叫んだ。
「ヘンリー、ご武運を。」
「フリージア、すぐ戻る。」そして誘拐された全員、魔法陣と共に地下牢から一瞬で消えた。
そこからは怒涛の勢いだった。
王宮の中枢部まであらゆる攻撃魔法を放ちながら乗り込んでいく。王宮はウィンザー城の五分の一にも満たないため、王族がいるエリアにはすぐに辿り着いた。
ヘンリーが王宮全体に闇魔法の結界を張ったため、蟻の子一匹外には出られない。隠し通路があろうがなかろうが敵は逃げ出せない。
ロマイエの王族は宴会の最中だった。
「ウィンザーの王太子め、今頃、頭を抱えているだろうな。王太子妃、王兄の公爵夫人、魔法副師団長の侯爵夫人は我が手にある。属国にする前にウィンザーの女達を味わっておかねば。ヒッ、ヒッヒッ。」
「アリシラも馬鹿な妹だった、親父殿の命に背いて、元婚約者と逃げるなど。さっさと王太子に毒を盛っていれば、こんな面倒なことをせずに済んだものを。まああいつのおかげでウィンザー王国に多くの配下を入れることは楽勝だったが。親父殿、ー人くらいはウィンザーの女を私にも賜りたいものです。」
「わしが味わった後でな。残りの修道女や侍女、孤児は奴隷市場で売るがいい。」
「半死の女ではなくてイキがいいままでお願いします。親父殿が手を出すとすぐに死んでしまいますからね。」
「余が可愛がると女はすぐに死ぬのう、ハッハッハッハッ、、」
そこにヘンリーとブラックウェルが飛び込んだ。
「ずいぶんと不愉快な会話だな。」
「お、お前達はなんだ!」
「大切な妻を返してもらいにきた、と言うかもう返してもらったがな。」
「衛兵、出会えっ、出会えっ!」
「誰も来ないぞ。全部消えた。おっと言い間違えた、消したぞ。」
「不届きもの、お前らは、お前らはっ。」
「最後に教えよう。私は前王太子、今はヘンリー・ホワイティエだ。よくも我が国を引っ掻き混ぜてくれたな。」
「ウィンザー王立魔法副師団長バサラ・ブラックウェルだ。」
「ひいっ、どうやって、ここに入った。」
「ロマイエ国王、ロマイエ国王太子、国とは名ばかりの悪党集団。悪党が作り上げた人攫いの国。もう何も言うな。黙って消えてくれ。それが、ウィンザー、いや周辺諸国の願いだ。」
ドドーーーーーーーーン、バリバリバリバリ、シャーーーーーーーン。
ものすごい音と共に辺りが真っ暗闇になり、音が止むと青空が見えた。
そして王宮も人も跡形もなく消えた。
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿予定です。