プロローグ
クリスマスイブです。新しい小説をはじめます。異世界転生ものです。楽しく読んでいただけるようにがんばりますので、よろしくお願いします。
「百合香っ!この裏切り者っ!よくも私の男を取ったわねっ!」
突然、後ろから金切り声が聞こえて、咄嗟に振り向いた。
今、私は、仕事が終わって婚約者と一緒に食事にいこうと、歩道脇で彼が駐車場から車を回してくるのを待っていた。
声の主は、同僚かつ自称親友の女性。彼女は私を呼び止め、なじってきた。キョトンとする私に、彼女は更に言い放つ。
「あんたなんかに隼人を取られてたまるもんですか?」
「はゃぁ?」
私は意味がわからない。
彼女の口から出た『隼人さん』は、私と彼女の共通の上司であり、かつ、二日前に私と婚約した人。
彼と付き合うきっかけは『この彼女』だったが、私は横恋慕も奪いもしていない。彼は大学時代の私の先輩で以前から知り合いだった。
彼女が、隼人さんの周りで仕事をしている女子の先輩後輩スタッフを片っ端からいじめて辞めさせるので、社内でも問題視されていた。
この彼女は私の事を親友と言いふらしていたらしく、彼が私に相談してきたのが付き合うきっかけになったのだ。
「ちょっと待って、あなたは隼人さんと付き合ってなかったのだから、私が奪ったわけではないでしょう?」
「うるさいわっ。彼は私のものよっ。」
「お互いに合意の上で婚約しているの。そんな事を言われても。」
「彼を返しなさいよっ。」
「ちょっ、、、」
そして、私の婚約者を「自分の男」と言い張って逆上し、車道に私を突き飛ばした。
最後に見たのは、悪魔のような彼女の歪んだ表情。
既視感のある色と形の高級外車の前に私は倒れ込む。眩しいヘッドライト。
その車の運転席には、驚愕の表情をした私の婚約者がいた。急ブレーキの音が響く。
跳ね飛ばされた時、彼と目があった気がするが、私はアスファルトに叩きつけられる前に意識がなくなった。
彼女とは同期入社で十年来の同僚だった。何となく友人枠のような人だったけど、よく考えれば、私は何かにつけて彼女に都合よく利用されてたのかもしれない。本当は薄々気がついていたはずなのに、彼女の悪意より善意を信じたくて、なあなあになっていた。嫉妬に狂う自己中な悪魔のような女だと理解したのは、自分の死の瞬間だった。
そして、私は三十二歳という微妙な年齢で、幸せを目前にして人生を終えた。
※ ※ ※
目が覚めた。ここは?どこ?
「目覚めたか?」
目の前に、ギリシャ神話の軍神の像のような見目麗しいイケメンがいた。背中から等身大の翼が生えてる。わおっ、天使様だ。しかも、この人知ってる。
その瞬間、ぜんぶ思い出した。この天使様もこの場所も知っていて、そしてここでこの場で天使様に会うのは4回目だということ。
「ミ、ミ、ミカエル様っ。」
「神がお待ちだ。今回は直々にお話しされたいと。」
「っ、、、」
ここは神様が管轄する「魂の間」。
人は四回生まれ変わるらしい。一回の人生が終わると魂がこの場所に集められ、神様の部下である様々な天使様と次の人生を相談する。
一回目から三回目までの人生は色々と苦労もあるけれど、人間の魂は、人生を経るごとに成長し四回目に生まれ変わった人生で最も幸せになる、と天使様から聞いていたっけ。
大天使ミカエル様は、私の守護天使だった。普通は大天使の部下である一般天使様が守護天使になるらしいのだけど、あまりにも鈍臭い私の人生に智天使様が呆れて、一回目の人生の途中からミカエル様を守護天使にしてくださったらしい。
「ごめんなさい。また殺されてしまいました。」
私が俯き謝ると、ミカエル様の麗しいお顔の眉間に皺がよる。
「あれだけ、あの女には気をつけろと、メッセージを送っていたのに、気がつかなかったのか?」
ミカエル様のメッセージはいつだって気がついていた。
「だって、まさか、彼女が、あんな事、するなんて、、」
「あの女の腹黒さは、君が一番知っていたはずだ。お人好しも度を越すと馬鹿としか言いようがない。四度目の最後の人生を無駄にしたのだぞ。」
私は返す言葉もなく項垂れた。
「神が直接お話しなさるそうだ。御前で申し開きをするがよい。」
ミカエル様は私を小脇に抱え、翼を広げると魂の間を飛び立ち、高く高く飛んで、黄金の扉の前に私をおろした。
すると音もなく黄金の扉が開き、まばゆい光が溢れてくる。
これから、私の魂はどうなるのだろうか。
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿します。ブクマ、お気に入り、励みになりますので、よろしくお願いします。