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恋愛をやり直しますか? 〜 YES or NO 〜  作者: 相賜 奏合


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[90]

段ボールに畳んだ服を詰めながら、私は一度、手を止めた。

部屋の中はすっかり片付いていて、いつもより少し広く感じる。

昨日、中学2年生の修了式を終えて、明日、私はここを出る。

歌山県――この能力を制御するために。


(・・・・静かにして)

そう思った瞬間も、頭の奥はざわついたままだ。


この能力――人の思っていることが聞こえる。

最初は偶然だった。気のせいだと思っていた。

でも、気のせいじゃないってはっきりした。

どの範囲まで拾ってるの?

学校で調べた結果、半径およそ三メートル四方。意識していなくても、その範囲にいる人の“思い”が、勝手に流れ込んできた。


今もそうだ。


一階にいる両親の気配と一緒に、感情が滲み出す。


(やっぱり、心配よね・・・・)

(学校を辞めてお寺で修行って・・普通じゃない・・・・)

(でも、あの子は昔から決めたら曲げないし・・・・)


――ねえ、お父さん、お母さん・・

実は私、あなたたちよりずっと年上なんだよ。


そう言えたら、どれだけ楽だろう。

でも言えない。

だから余計に、まどろっこしい。


ダンボールを閉じ、ガムテープで封をする。

その音だけが、やけに大きく響いた。


歌山県に行って、やることは二つ。


一つ目。

この能力を、オン・オフできるようになること。


二つ目。

自分が意図して覗いた相手の思いだけを、聞けるようになること。


簡単じゃないのは、わかっている。

むしろ、相当な訓練が必要だ。

どれくらい時間がかかるのかも、まったく分からない。


それでも。


(私は、必ず身につけて帰ってくる)


その気持ちだけは、揺らいでいなかった。


中学2年の途中で学校を離れる。

普通なら中学中退で卒業証書はもらえない。

でも、私は両親と一緒にお願いをして中学3年分のテストをすべて受けさせてもらった。


その結果、当たり前だけど基準値を超えた。特例として卒業証書はもらえることになっている。


中学生活の1年、空白ができる。

でも、それでいい。


(・・・・まことも基準値超えるだろうから、試験受けたらいいのに、そしたら1年間遊んで暮らせるのにね)


ふと、そんなことを思って、クスッと笑ってしまう。


真実。

あの子は、昔から真っ直ぐで、嘘が下手で。

能力がなくても、考えていることがなんとなく分かってしまうタイプだ。


そういえば、この前、真実の家に行ったとき。玄関に向かう途中、流れ込んできた。


(・・・・付き合いたい)


不意打ちみたいで、心臓が跳ねた。

同時に、懐かしい感じもした。


――ああ、やっぱり。


その時、ふと視線を感じて顔を上げた。

真実のお兄さんが、こちらを見ていた。


【・・・・かわいいな】


(・・・・そっちか)


私は思わず、ため息をつきそうになった。


兄さんに好意を持たれている。

真実は、きっと知らないだろう


(伝えた方がいい?)

(でも・・・・)


少し考えて、首を横に振る。


(知らない方が、いいか)


余計なことまで背負わせる必要はない。

それに私がここを離れる以上、なおさらだ。


外はもう暗くなっていた。

ダンボールを部屋の隅に寄せ、カーテンを閉める。


明日から、私は訓練の日々に足を踏み入れる。

能力に振り回されないために。

誰かの心を、勝手に覗かないために。


そして――

いつか、胸を張ってここに戻ってくるために。


(待っててね・・・・)


誰に向けた言葉なのか、自分でもわからないまま。

私は、静かに部屋の電気を消した。

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