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智大は家から学校まで見えない大きな荷物を背負って、足取り重く歩いて行く。学校に着き、ずりずりと廊下を歩く。
自分の教室とは逆方向なのに、気づけば足は1組の前に立っていた。
真実に会う理由を自分に言い聞かせながら、智大は教室に足を踏み入れる。
裕子の席を見た瞬間、胸の奥が更に重くのしかかる。
裕子はすでに席に座っていて、友達と小さく笑い合っている。視線が合いそうになり、思わず逸らされた。その一瞬で、昨夜の電話がまだ終わっていないことを痛感する。
授業はまったく頭に入らなかった。黒板の文字を追っているふりをしているだけ。
「悲しませないって言ったじゃん」
「嘘つき」
この言葉が頭から離れない。
話さなきゃいけない。
でも、今じゃない?
そんなことばかりが胸の中で渦を巻いていた。
昼休み。
裕子は友達に囲まれて弁当を広げている。
智大はためらいながら裕子のもとへ向かい声をかけた。
「ゆうこ」
裕子は一度だけこちらを見て、すぐに視線を逸らされた。
「・・・・今は無理」
それだけだった。拒絶ではない。でも、確かな距離があった。智大は胸に釘を打ち込まれた感覚になり何も言えず、その場を離れるしかなかった。
放課後。
生徒会室へ向かう廊下で、智大は裕子の背中を探し見つける。そして、人の少ないタイミングを見計らい、声をかけた。
「ゆうこ」
裕子は立ち止まったが、振り返らない。
「東都の話、ちゃんとしたい」
しばらく沈黙が流れ、裕子は静かに口を開いた。
「・・・・ともくんは夢があっていいよね」
その声を智大は妬みとしか受け取れないでいた。
「ゆうこだってやりたいことあるだろ?」
智大の言葉に裕子は何も反応せず背中を向け続けている。
「私だけ、ここに取り残される感じがする」
智大は言葉を失う。
「悲しませないって言ったじゃん」
裕子はようやく振り返り、まっすぐに見た。
「それ、嘘だったの?」
「違う」
智大は首を振る。
「悲しませるつもりなんかない。でも俺は俳優を目指すために一刻でも早く東都に行って勉強したいんだ」
「でも、ゆうこと離れてしまうのも嫌だけど・・・・逃げたくもないんだ」
裕子は少しだけ視線を落とした。
「・・・・いいよ。好きにしなよ」
その言葉は突き放されたように聞こえた。
裕子はそれ以上何も言わず、振り返って歩いていき、その先の階段を降りて姿が見えなくなっていく。
残された智大は、その場に立ち尽くしたまま思う。
選ばなきゃいけない未来が、確実に近づいていることを。
執筆活動が順調に進んでいて、
だいぶんとストックが増えてきました。
再開してから火曜と金曜の週2回投稿していましたが、
2月からは日曜、火曜、金曜の週3回投稿で進めていきます。
続きを楽しみにされてる方もいらっしゃるのでガンバります。




