[86]
智大はベッドに仰向けになり、天井をぼんやりと眺めていた。
頭の中では、真実の言葉が何度も反芻されている。
「――夢で見ただって・・?」
「それだけで、あそこまで具体的に進路の話が出てくるものなのか?
真実とは幼い頃からずっと仲がいいが、今まで適当な事は口に出さないのはわかってる・・・・だけど今回の話は正直、半信半疑だ」
静寂の部屋に智大の呟く言葉だけが歩き回っている。
「でもな・・、俺の夢、誰にも話したことないのに当てやがった。
そして東都に行けって具体的に言ってくるってことは無視していいものじゃない」
呟く声に引っ張られるように、思考だけが力強く加速していく。
(・・・・動くなら、早いほうがいい・・かっ)
そう思う一方で、別の問題が浮かぶ。
「裕子だな」
智大はベッドから起きて立ち上がる。
(ゆうこに、なんて言えばいい?)
「俺、俳優目指すために東都の高校にいく」
(反対されたらどうする?)
「反対されても俺は行く」
(別れてでもいくのか?)
「ゆうこと別れたくない」
(遠距離でいくしかないのか?)
「絶対嫌がるよな」
テーブルの周りをクルクル回りながら解決しない思考を巡らせる。
しばらく考えたあと、智大は考えが纏まらないまま椅子に腰掛けスマホを手に取った。
――コール音が鳴る、3コール目が鳴ったところだが、智大にはそれがとても長く感じていた。
『・・・・もしもし?』
少し間のある声。
いつもの出方との違いに智大は胸がチクリとした。
「なあ、ゆうこ、ちょっと進路の話なんだけどさ・・・・」
話し始めた瞬間、空気が変わったように感じる。その空気に抗うように説明をしていく。
智大が東都の名前を出した途端、電話の向こうが静まり返る。
『・・・・東都?』
低く、抑えた声。
「うん。まだ決定じゃない。でも、考えてて」
『行くの?』
被せるように言われ、智大は言葉に詰まる。
「・・・・行きたいとは、思ってる」
数秒の沈黙。
そのあと、裕子の声が強くなった。
『やだ』
『東都なんて行ったら、どうせ他の女に取られるでしょ?ましてや俳優になるなんて・・目にみえてるじゃない』
裕子の思いに対して反射的に答える。
「そんなわけ――」
『あるでしょ!』
裕子の声が震えているのが分かった。
智大は目を閉じる。
(怒ってるよな・・やっぱり、こうなるか)
「ゆうこ。俺は――」
『嘘つき』
智大は説得しようとした途端遮られたことと、裕子の『嘘つき』という言葉の意味がわからなくて少しイラつき口調が強くなる。
「えっ?嘘つき?何がだよ?」
『嘘つきじゃん、ともくん私に告白した時、悲しませないって言ったじゃん』
裕子の言葉に智大は何も言えなくなり、只々沈黙の時間だけが過ぎていく。
『ともくんのバカっ』
裕子は短く不満を投げつけて電話を切ってしまう。
智大は頭が真っ白なままベッドに倒れ込み、
何度も裕子の声を思い出しながら、ただ天井を睨んでいた。




