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麻耶は自室の机に座り、昨日返ってきた模擬テストの結果表をじっと睨みつけていた。
蛍光灯の白い光が紙面をやけに冷たく照らしている。
総合評価――B+。
悪くない。
誰かに見せれば「十分じゃん」と言われるだろう。
それが、余計に胸を締めつけた。
答案用紙を広げ、間違えた箇所に視線を落とす。
そこには、今まで一度も落としたことのない単元がいくつも並んでいた。
(・・・・なんで、ここ落とすの?)
解き直してみても、考え方は間違っていないのに選んだ答えだけが噛み合っていない。
ペンを握る指に、じっとりと汗がにじむ。
(集中できてない・・・・)
(焦ってる?)
自覚はあった。だからこそ、どうにもならない感覚が怖かった。
その時、スマホが震えた。
画面に表示された名前に、麻耶は一瞬ためらったが指が意図せず通話ボタンを押す。
「・・・・もしもし」
『よう、まや。そういえばさ、模試ってどうだったの?』
真実の、いつもと変わらない声。
「・・・・B+だった」
『へえ、いいじゃん』
その一言で、堪えていたものが崩れた。
「よくないよ・・・・」
「前はAだったのに・・しかもさ、間違えたところ、全部いつもできてたところなのに・・・・」
言葉が止まらない。
「見直しても分かんないし、頭回ってない感じするし・・・・」
「このままじゃダメ・・私、絶対落ちるよ・・・・」
電話の向こうで、真実は返事をしなかった。相槌も、励ましもない。
ただ、黙って聞いている。
「・・・・頑張ってるのにさ」
「ちゃんとやってるつもりなのに・・・・」
声が震え、喉が詰まる。
『・・・・そっか』
短い一言。
でも、それだけで今にもちぎれそうな胸の奥が少し緩んだ。
『なあ、まや』
『もしさ、ダメだったらさ』
麻耶は息を止める。
『俺と同じ高校でいいじゃん』
「・・・・え?」
『いや、真面目な話』
『それくらいの気持ちでいけばいいんじゃないかって思ってさ』
電話越しの声は、驚くほど軽かった。
『全部背負ってたら、潰れるぞ』
『肩の力抜いてさ、「まあいっか」って思えたほうが案外うまくいくかもしれない』
麻耶は唇を噛みしめた。
(そんなの・・・・ずるい)
でも同時に、胸の奥で何かがほどけていくのを感じた。
「・・・・ずるいよ、まこと」
『なにが?』
「そんな言い方されたら・・・・」
言葉にならず、涙が頬を伝った。
『泣くほど頑張ってるなら、それでいいじゃん』
その声に、麻耶は堰を切ったように泣き出した。
机に伏せ、答案用紙を濡らした。
(・・・・もう、少しだけ)
(もう少しだけ、頑張ってみよう)
そう思えたのは、
大事な存在が「逃げ道があっていい」と教えてくれたからだった。
そして2人はしばらく繋がったまま・・・・。
真実との繋がりを終えたあと、麻耶はしばらくスマホを持ったまま動けずにいた。
まだ涙が止まらない。
机の上に置かれた答案用紙は涙を受け止めて滲んでいる。その部分を袖で拭い、何も言わずに次のページをめくった。




