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[84]

自室に戻り、パソコンの電源を入れる。

画面にコードが並ぶ。


先程の母との言い合いの余韻か浩太は胸の奥がモヤモヤした状態で画面を見つめている。

(・・・・好きで楽しいことを仕事にしてなにが悪い)

(いいんだ、俺は自分のやりたい事をやるって決めたんだ)

自分に言い聞かせながら、基礎の復習を始める。


暫くするとコンコンとノックの音が聞こえる。

浩太は画面から目を離さずに返事をする。

「浩太、ちょっといいか」

父の声であった。

「いいよ・・・・」

作業をしながら返事をするとカチャリと扉が開いて父が様子を伺うように入ってくる。


そんな父を気にせず、浩太は黙々と画面を睨みつけながらキーボードを叩く。

父は何も言わずにゆっくりと浩太の後ろに陣取ってパソコン画面を覗きこむ。


「それが、プログラミングか」


「うん・・・・」

キーボードのカタカタ音だけが部屋に響き渡る。

「・・・・さっぱり分からんな」

苦笑いしながら言う。


浩太は父を見る事なく説明を始める。

「今コーディングしてるんだけど、コッチがフローチャートでこの流れでモジュールをくっつけて・・・・」


浩太の説明は教師の父にとっても異世界語のように感じていた。

「コーディング?」

「フローチャート?」


浩太は作業の手を止めて後ろでパソコン画面を覗き込んでいる父の顔を見た。

父は全く意味はわかっていないがなんとか理解しようと必死の顔をしていた。

そんな顔を、見て浩太は少し気が緩む。

「コーディングっていうのはプログラムを書く作業のことで、フローチャートはプログラムをする上での流れを図にしたもの、いわば設計図みたいなものかな」


「ほおー・・・・なるほど・・・・」


少し沈黙が流れたあと浩太は再び作業を再開してキーボードを叩く。


その姿を見て父は納得したように語りかける。

「浩太・・本気なんだな・・・・」


作業の手を止めることなく浩太は口を開く


「当たり前だろ・・じゃなきゃ母ちゃんにあんなに言わないよ」

そして、キーボードを叩く手を止めて父の方に体をむける。


「俺は自分のやりたい事をやるために逃げないって決めたんだ」


浩太の決意の顔を父は見て同じく決意を固める。


「わかった、母さんは父さんがなんとかするから、浩太はやりたいことをやりなさい」


父の柔らかい言葉に浩太は熱い感情が体の下から上に込み上がってきた。


「うん! ありがとう、父さん」


浩太の跳ね上がった返答を聞いて父は少し困った顔に変化する


「だが、母さんは当分怒りモードになるだろうから、当分は晩御飯のオカズが1品少なくなるかもしれない・・・・」


浩太はあーっ、と納得する表情をした。

「あっ、ああ、まぁ、仕方ないよ・・・・」


「・・・・だな」


それだけ言って父は部屋を出て行った。


俺はしばらく、画面を見つめていた。

そして、深く息を吸って、

もう一度キーボードを叩いて作業を再開する。

その音はいつもと違って軽快であった。


その先に何が待っているのかは分からない。

それでも、今は前に進んでいる気がしていた。

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