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ここから少し視点を変え、
それぞれのキャラクターの想いを描いていきます。
夕飯の後、居間には妙な緊張感が漂っていた。
テレビはついているが、誰も画面を見ていない。
父はいつもの定位置で腕を組み、黙って俺を見ている。いや、観察されている気がする。
母は落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返していた。
話を切り出したのは母だった。
「で? 浩太。進路の話って何?」
その声は柔らかいが、もう答えは決まっている口ぶりで(今更なに?)って空気をヒシヒシと感じる。
「俺さ・・・・プログラミングの道に進みたいから高校はそれ専門の高校にいきたい」
一瞬、空気が止まった。
「はぁ?」
母は間髪入れずに声を上げた。
「何言ってるの!こうちゃん? あなた、先生になるんでしょ?」
「いや、それは・・・・」
「だって、お父さんも私も教師で、こうちゃん
小さい頃から私たちの姿をみて『僕も先生になるんだ』ってずっと言ってたじゃない」
母の言葉は早口になっていく。
「安定してるし、人の役に立つし、
あなたに向いてるのよ、絶対」
俺は拳を握りしめた。
(でたよ、母ちゃんお得意の一方通行)
(俺は今までも母の一方的に決め付けられる態度にうんざりしていた、しかし反抗はできず逃げ続けていた・・でも、今日は逃げない)
意を決する。
「でもさ、俺・・最近パソコン触るのが楽しくてさ。プログラミングが自分に合ってると思うん」
「そんなの趣味でいいでしょ!」
遮り、母の声が強くなる。
「そんなの教師になってからでもできるじゃない!」
俺は口を開きかけて、いったん閉じた。
それでも、もう抑えきれなかった。
「俺がやりたい事をそんなのって言うな!」
イラついた態度で反論すると母はしまったという顔をして黙った。
(しまった・・言い過ぎてしまった、イラついて思わず声を張り上げちまった、冷静にいこう)
俺は一息ついた
「母さん、俺は“楽しい”ってだけじゃないんだ。これ、ちゃんと仕事にしたいんだよ」
母は先程よりも少し落ち着いているが首を横に振る。
「現実見なさい。プログラマーなんて不安定でしょ?」
胸の奥がざわつき、俺のイライラ度数が再び上昇する。
「先生だって大変だろ!」
母の顔が一瞬だけ歪む。
その表情を見て俺は少し後悔した。
母は何か言い返そうとして、口を開きかけた。しかし言葉が見つからなかったのか、そのまま黙り込む。
居間には、テレビの音だけが流れていた。
その時だった。
「・・・・もういい」
低い声で、父が口を開いた。
俺と母は同時に父を見る。
「浩太。
自分で決めなさい」
父はそれだけ言って立ち上がる。
「ちょっと、あなた!」
母は慌てて後を追って居間を出て行った。
残された俺は、しばらくその場から動けなかった。




