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タイムリープ前の回想シーンに入ります。
3話に分けて投稿予定です。
まずは其の①
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中学2年生、桜の樹々が満開の装いを魅せる春、真実のクラスに転校生が2人やってくるのであった。どちらも女の子で名前は石本真子と島原佳代であった。真子はポニーテールが特徴の可愛らしい顔つきで恥ずかしがり屋な素振りを見せていた。一方、佳代はショートカットでボーイッシュな出で立ちで明るく無邪気な笑顔を見せていた。真実は2人の自己紹介を聞いて(なんか、まったく真逆な2人だな・・・・ )と思いながら2人を見ていた。クラスの殆どは真実が思っている事と同じ事を思っていて、すぐにクラスに馴染んだのはボーイッシュな佳代であった。
佳代は誰とでも遊んでいたが、いつの間にか真実、浩太、智大、憲一の4人組に入って来ることが多くなり、休み時間は5人で過ごす事が大半を占めていくのであった。なぜ佳代が入って来たかというと、それはスマホゲームである。男4人衆はGTOというオンラインで繋がりながら獣退治をしていくスマホゲームにハマっていて休み時間は常に繋がって獣狩りに勤しんでいたのだった。このゲームはかなりマイナーなゲームで真実のクラスでやっている者は智大だけ。浩太と憲一は別のクラスだが、そちらのクラスにもGTOユーザーがおらず休み時間になると必ず浩太と憲一が真実のクラスに合流して来るのだった。
そんな中、なんと佳代もGTOのヘビーユーザーだったという理由でいつのまにか5人衆になっていたのである。オンラインゲームは便利なもので家に帰っても会わずして繋がることができ、ストーリーやイベントミッションを協力して進めていくことができる。またチャット機能を使ってたわいもない話をする事もあって佳代との仲がどんどん深まって行った。
仲がどんどん深まるにつれて真実は佳代が好きになっていくのであった。佳代と話しているととても楽しくて、気を遣わなくていい。また同じ趣味を持っているというのも惹かれる要因である。前回の麻耶の時は仲良くなっていない状態で告白したので上手くいかなかったが、今回はかなり仲がいい状態なのでイケるのではないかと自信を持っていた。
春も過ぎて雨が降る日が多くなり、そろそろ梅雨入りになろうかというある日、真実は授業が終わり下校しようとカバンに荷物を入れている時に声を掛けられた。声の方に顔を向けるとそこには石本真子がカバンを持って立っていた。
「野元くん、今日途中まで一緒に帰らない?」
真実はなんでだ?と一瞬疑問に感じたが、別にいいか、と深く考えずに真子と一緒に学校を後にしたのであった。
真子とは転校してきてからあまり話す機会がなかった。女性だと佳代と一緒にいる事が多く、佳代のことが好きなのであまり他の女性に目を向ける余裕はなかったということもあった。歩いている時もそれほど会話が続かずギクシャクしている状態だった。そんな時に思い浮かぶのは佳代のことだった。佳代と一緒だったらなんでも話せる、話す事がなくなればGTOの話をしていれば会話は続く。改めて佳代のいる時間が真実の中で楽しくて存在感を大きくしていたのであった。そんな中、真子は真実に思いを伝える。「野元くん、私、あなたのことが好きです。付き合ってくれませんか?」佳代のことで頭がいっぱいになっている真実は真子の言葉を理解出来なかった。「えっ?」2人は立ち止まり顔を見合わせている。真実は真子の放った言葉を少しずつ頭で消化してはいたものの、真実の心に真子の想いが入り込む隙間はなかったのである。
「石本さん、オレ、島原のことが好きなんだ、あいつとGTOやってるうちに好きになっちゃって、あっ、よかったら石本さんもGTOやらない? 面白いよ」
真子は真実の言葉を聞いて悔しそうな顔をして下を向いて返答した。「私、スマホゲームやったことないから・・・・私、ここから違う道になるから帰るね、じゃあ・・・・ 」真子はそう言って走り去って行った。真実は何が起きたのかまったく理解できおらずその場に立ち尽くして走り去る真子の背中を見ていることしか出来なかった。真子の姿が見えなくなって(石本さん、なにがしたかったんだろう? )真実は首を傾げて歩き出し、家路を急ぐのであった。
恋は盲目とはよく言ったものである。真子が告げた言葉は佳代とGTOのことで頭がいっぱいの真実に届くことなく、佳代が好きだと言われ、挙句ゲームを紹介されるというなんとも耐え難い返答が返ってきたのだ。真子は深く傷ついたに違いない。だが、真実は真子を傷つけたなんてことは1ミリも思っていないのである。