[62]
いよいよ夏祭り当日、真実は浴衣を着て智大の家に向かって歩いていた。陽は半分ほど埋まってしまっているが夕陽の赤が空色を染めている。そんな中を歩いていると、すれ違う人から浴衣を着て歩いている姿に視線をモロに浴びて少し恥ずかしい気持ちで歩を進めていた。
智大の家に着くとインターホンを鳴らす。暫くすると智大と浩太が浴衣姿で飛び出してきた。真実は智大と浩太の浴衣姿を見てホッと胸をなで下ろした。打ち合わせで男連中も浴衣にしようという話しになったが、いざ2人の浴衣姿を見るまでは裏切られるのではないかと真実は不安で仕方なかったのである。
智大の家の玄関前で3人が向かい合い今日の作戦の最終確認を行う。真実は浩太と智大に声を掛けた。
「こうた、おまえの動きが大事なポイントになる、流れは大丈夫か?」
「ああ、バッチリ! 大丈夫だ!」
浩太は親指をグッと立てて真実に向けた。
「とも、裕子ちゃんを座らせる為のハンカチは持って来てるか?」
「あっ、そうだ、忘れてた、あぶねーっ、持ってくる」
智大がそう言って慌てて家の中に戻って行く姿を見て浩太はホッとして真実に礼を言った。
「まこと、サンキュー、俺もすっかり忘れてて確認してなかったよ」
真実は浩太の言葉を聞いて無言で頷いた。
(智大、しっかりしてくれよ、あぶないじゃないか・・・・聞いてよかったよ、他に確認しておく事はないか・・・・)
真実が考えといると智大が家から出てきて足早に戻ってきた。
「いやー、まことー、サンキューなー、マジで忘れてたよ、助かったー」
「とも・・・・たのむよ、ほんと」
真実はヤレヤレといった表情で智大を見ていた。
「さて、それじゃあ、行きますかー」
浩太の号令に真実と智大は頷き、暁月神社に向かって歩き出したのだった。
ジリジリと下降していた陽も落ちきり、空には陽の光を失くし暗い空に移り変わっていた。月の輝きと星々が小さな光となって散りばめられていて暗い夜空に幾ばくかの光を照らしている。そんな薄暗い町の一角で煌々と灯が照らされている場所があり、そこには多くの人が灯に吸い寄せられるように集まってきていた。その灯は暁月神社の入口と大きな駐車場に挟まれた大通りに色とりどりの屋台テントが建ち並ぶ灯で、全長80mもの距離を煌々と照らして賑わっている。そして神社と向かい合っている駐車場の中心には高さ3.5mほどにもなる櫓が立ち誇り、その周りを無数の光を帯びた提灯が連なっていた。そしてテンポの良い太鼓の音色に合わせて篠笛が高らかに響き渡っていて、なんとも今時としては珍しく古風な祭りが開かれていた。集まってくるのはほとんど町民ではあるが、この夏祭りは伝統を受け継ぐ町内での大きなイベントとして盛大に執り行われているのであった。
真実、浩太、智大の3人は篠笛の陽気な音色に心驚かせながら今年の屋台は何が出ているのかを巡りながら物色しているのだった。しかし3人は催しや食べ物が並ぶ屋台に集中してはいけなかった。早めに麻耶、真子、裕子の3人を見つけて偶然にも鉢合わせる手筈を整えなければいけなかった。真実と智大は周りを見渡して女性3人組を探していた。
「とも、見つけたか?」
「いや、見つからねー」
そんなやり取りをしている横で浩太が力ない声で2人に話し掛ける。
「なあ、オレ昼からなんも食って来てないんだよ・・・・腹減ってるからまず何か食わないか?」
真実はヤレヤレといった表情で浩太を見た。
「オレも腹減ってるけどまずはアイツらを見つけて合流しないといけないだろ?」
「でもよー、合流したら何も食えなくなっちまわねーか?」
浩太の説得に真実と智大は「たしかに・・・・」と納得した。浩太は更に説得に掛かる。
「まだ早い時間だからさ、来てないかもしれないじゃん、今の内に何か腹に入れておこうぜ」
3人は女性陣捜索を中断して腹拵えを選択するのだった。




