〜 from another perspective 〜 [古屋裕子の視点]其の②
そして中学2年の春、私はついに念願が叶って野元くんと同じクラスになれたのであった。ああ、神さま、あなた様は私をお見捨てにならなかったのですね、私は何度感謝の祈りを捧げたことか、やはり信じる者は救われるとはこういうことだよね。教室に入ると野元くんが席に座って机に頬杖をついてボーっと窓の外に目を向けていた。私はカバンを自分の机に置いて野元くんに挨拶をするために近づいて、緊張した面持ちで声を張りながら自己紹介をした。
「の、のもとくん!初めて同じクラスになったね!わたし、古屋裕子、これからよろしくね」
野元くんは頬杖をつきながら私の顔を見上げて見つめていた。
「ああ、古屋さん、名前言わなくても知ってるよ、よろしくね」
私は野元くんに覚えてもらっていた事が嬉しくて天にも登る気持ちになった。喜びの感情が爆発しそうで耐えられなくなってしまい「それじゃあ・・また・・」と言って踵を返して足早に教室を出て廊下を走り2組になった麻耶ちゃんの元へと向かった。
2組の教室に入り麻耶ちゃんを見つけるやいなや満面の笑みを浮かべながら麻耶ちゃんの元へと詰め寄る。
「まやちゃん!挨拶したの、私挨拶したのよ!」
満面の笑みで落ち着きなくグイグイと身を寄せると麻耶ちゃんは引き気味で私を制した。
「わかった、わかった、野元くんに挨拶したんだね、よかったね」
麻耶ちゃんは少し面倒くさそうな顔をしていたが、私は気にせず?気づかず畳み掛けた。
「野元くんねー、私のこと知ってるよって言ってくれたんだよー、あーっ、わたし、幸せだよーーっ」
麻耶ちゃんはハーっと溜め息をついた。
「そう、よかったわね、1年間しっかり幸せを噛み締めなさい」
「あーーーっ、ずっと中学2年でいいよー、わたしはー」
本当にパタパタと天に昇ってきそうな気持ちで両手を握り締めて胸に置き上を見上げた。
麻耶ちゃんはそんな私の姿を見て、声を掛けるのを止めてヤレヤレといった顔で私を見守っていた。
毎日野元くんの顔を見れるのは本当に幸せだ、距離も以前より格段に近くなってるし、話しをする事もできる。ああ、こんな日がずっと続けばいいのに・・・・ と幸せを感じていたのだが、4月の終わり頃から不穏な空気が流れてきた。
野元くんは休み時間になると西園寺くん、川崎くん、豊川くんの4人でスマホゲームをしていつも盛り上がっていた、しかし4月の終わり頃から5人になっていて、増えたのはこの春転校してきた島原佳代さんだった。なぜ男衆の中に紅一点混ざっちゃってるのよ、しかもめちゃくちゃ盛り上がってるし・・・・悔しい、羨ましい、私もあそこに入っていきたいのに・・・・ 。しかしスマホゲームを一切やらない裕子にはそこに入る勇気と隙間がなかった。野元くんと島原さん、あんなに近くで、くっついてない?くっついてるよね?野元くんと島原さん、付き合い始めたらどうしよう・・・・私は5人が楽しんでいるのを横目で見ながら落ち込んでいたのであった。そうだ、麻耶ちゃんに相談だ。その日の放課後私は麻耶ちゃんに相談をした。
その日はほろ苦のカフェモカが人気の『喫茶サンマリノ』で麻耶ちゃんとお茶をしながら相談していた。麻耶ちゃんは真剣な表情で話しを聞いてくれていた。
「なるほどね・・・・裕子ちゃん、早く告白した方がいいんじゃない? 島原さんに野元くん取られちゃうかもしれないわよ」
「えっ? わたしから告白? わたしのストーリーは、今年の生徒会に入って、野元くんも生徒会を延長して、一緒に生徒会活動して、愛を育み告白を受けるという・・・・ 」
「あなた、なに悠長な妄想を繰り広げてるのよ、そんな恋愛小説みたいなストーリー言ってたらいつまで経っても付き合えないわよ」
麻耶ちゃんの現実主義な言葉の攻撃をモロに喰らい、私の心のHPは残り僅かになっていたのであった。
「う、う、う、」何も言い返せず、唸る事しかできないでいた。
麻耶ちゃんは少しニコやかな表情に変えて足を組みカフェモカを啜りながら話しを続けた。
「まぁ、島原さんが必ずしも野元くんといい感じになるかなんてわからないけどね、もしかしたら他の3人といい感じになるかもしれないし。野元くんよりも西園寺くんとか、川崎くんの方がカッコいいし・・・・ 」
麻耶ちゃんの話しを聞いて、そうかと思う部分もあれば、なんか野元くんのことを貶しているようにも感じて裕子はムッとした。
「野元くんだって、カッコいいもん! 」と言いながら頬を膨らませる。
「裕子、ゴメン、ゴメン、別に野元くんのこと貶してる訳じゃなくて、そっちに行ってくれたほうがいいよねって事を言いたかったの」麻耶ちゃんは安定の落ち着きを見せながら諭してきた。
麻耶ちゃんの言うことには確かに一理ある。なにも必ず野元くんと付き合い始めるわけではない、仲良くしている所を見るとヤキモチを妬いてしまうのだが、ここはグッと堪えるしかない。もう少し野元くんと距離を縮めたいな・・・・その為にもなんとしても今回の生徒会選挙で当選をしなければ。そう力強く決心をして握り拳を作るのであった。
麻耶ちゃんはそんな私の姿を微笑ましく見ていたけど、どこか寂しさを秘めているように私は感じていた。




