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放課後いよいよ16時になったので真実は屋上へと向かった。屋上に続く薄暗い階段を上がりきり扉を開けると光が一気に差し込む。真実は差し込んだ光が眩しくて薄目をしながら屋上に足を踏み入れた。徐々に目が慣れてきて視界が広がっていく。真実は屋上のフロアを見渡して裕子を探すがその姿はなかった。フロアには女性が1人フェンスの近くに立って遠くを眺めていた。その姿に真実は見覚えがあった。長い髪が風でサラサラと舞っていてスタイルもスラッとして上品な立ち姿、横顔は中学1年の時によく見ていた顔で真実が一時期惚れていた顔である。そこには墨田麻耶が立っていたのであった。
真実は状況が掴めずにいた。(えっ? 墨田さん? なんで居るの? これから裕子が来るのに気まずい・・・・)そう考えていると麻耶は真実の存在に気付き歩み寄ってきた。真実はゆっくり優雅に歩いてくる麻耶に言葉を発することもできず、ただ立ち尽くして見ていることしか出来なかった。ゆっくり歩いてきた麻耶は真実の前で立ち止まった。
「野元くん、呼び出してしまってゴメンなさい」
その言葉を聞いて真実は真子が言っていた女性が麻耶であることが理解できた。
理解はできたがパニック状態である。一生懸命に頭で状況整理をしながら言葉を振り絞る。
「あっ、いや、その、墨田さん、どうしたの?」
真実は真子と自分の家で話しをしていた風景を思い出していた。
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「うーん・・・・そうだねー・・付き合いだしてからまことのこと、ちょっと好きになってきてたんだよねー」
「ちょっとってなんだよ・・・・」
「でもねー・・最近分かったことなんだけど、まことのこと、わたしより断然好きな子がいてねー・・その子との方がお似合いだと思うのよねー」
「オレのことが好きな子? 誰よ?」
「えーっ! それは内緒! 言ったら面白くないじゃーん」
「まこと、今回はわたしがあなたのこと気に入らなくなったから振ったという事でみんなに話しておくわ。あなたは少し落ち込んだ素振りをしてしていれば、その子が釣れるかもしれないわよ」
「まあ、その子とわたし、仲良いから、わたしからプッシュしといてあげるから安心しなさい」
完全に憑き物が落ちた真子は飄々とした態度で話しながらテーブルに置いてあったクッキーを食べるのであった。
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(えっ?あれって墨田のこと? なぜ? オレがラブレター渡した時、読まずに捨てたじゃん・・・・。なんで捨てたの? でもあれはタイムリープ前の出来事だから? 今回は渡さなかったからこうなった? わからん、さっぱりわからん)
混乱状態の真実に麻耶は話しを始めた。
「野元くん、小学校の時に三上さんたちに囲まれてる時に助けてくれたの覚えてる?」
真実は10人くらいに囲まれていた麻耶を助けるというか、その場面に出くわし何事かと咄嗟に声を掛けたのだが、結果的に麻耶を助けたという事になった記憶を思い出した。
「ああ、覚えてるよ、異様な状況だったから咄嗟に声を掛けたんだよ」
「あの時助けてくれありがとう・・・・ずっと言いたかったんだけどなかなか言い出せなくて・・・・私、あの時からずっと野元くんのことが好きで・・でもずっと気持ちを抑えてたの・・・・真子ちゃんと話ししてもう抑えなくていいんだって分かって決心したの・・・・野元くん・・私と付き合ってくれませんか?」
平静を装いながらでも恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら麻耶は真実に想いを伝えたのだった。真実は麻耶からの予想外の内容の連発で頭の処理能力が追いつかずに放心状態であった。(えっ?小学校の時からオレのことが好きだったって、そしたらなんで中学1年の時にラブレター破いて捨てたの?くそっ、前の時の出来事だから聞くこともできない・・・・。付き合えるのか?オレは一度は諦めた墨田さんと付き合うことが出来るのか? 大丈夫なのか? なにかのイタズラ?)
真実は考えれば考えるほど沼地に足を取られて動けなくなる感覚に陥っていた。しかし長く返答を待たせるのはマズイと考え、そこで真実が取った解答はstayであった。
麻耶が想いを伝えてからかなりの時間沈黙していた。しかし、麻耶は真実の顔をずっと見つめて返事を待っていた。ようやく真実が口を開く。
「墨田さん、オレ実は中学1年の時、墨田さんのこと好きだった。だけど色々あって、墨田さんのこと諦めてたんだ・・・・それでオレのこと好きだって言ってくれてめっちゃ嬉しいし、付き合いたい気持ちあるんだけど・・返事、ちょっと待ってくれないかな・・・・2.3日中には必ず返答するから・・・・いいかな?」
申し訳なさそうに真実が説明すると麻耶はニコリと笑みを見せた。
「うん、わかった、急だったからびっくりしたんじゃない?私も最近なんの接点もなかったのに急に想いを伝えちゃったからゴメンなさい、じゃあ返答まってるね」
麻耶は想いを伝えてスッキリしたのか軽やかにフワッと歩き出した。真実は麻耶が横をすり抜けた時に麻耶の髪の匂いがフワリと包む込み、その香りはとてもいい香りで今にも天に昇っていきそうな感覚に見舞われて上を見上げていた。麻耶は屋上の扉のノブに手を掛けて開けた時にクルリと振り返る。
「野元くん、私のこと好きって言ってくれてありがと」
そう言って真実のリアクションを見ずにそのまま屋上を後にした。
残された真実の足腰はノーガードでパンチを無数にくらい続け、フラフラでKO寸前のボクサーの様になりながら立ち尽くしていた。




