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恋愛をやり直しますか? 〜 YES or NO 〜  作者: 相賜 奏合


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123/127

[114]

事件のあった翌日の朝、母、真弓は胸の奥のざわつきを抑えながら、外で洗濯物を干していた。


真実が制服を着て玄関から出てくる。

私はその姿を見つけ、ギョッとして声を掛ける。


「今日は、学校に行かない方がいいんじゃない?」


そう言った私に、真実は一瞬だけ視線を落としてから、首を横に振った。

理由は言わない。ただ、「行く」とだけ。


その声は静かだったけれど、

もう決めてしまった人の声だった。


私はそれ以上何も言えず、

結局、いつも通り送り出した。


(休ませた方がよかったかな・・)

(でも、あの子、一度決めたら言うこと聞かないし)

(まあ、嫌になったら帰ってくるでしょ)


諦めの気持ちを持ちながら、洗濯カゴを抱えて家の中に入った。


昼前、玄関が開く音がした。


真実が、帰ってきた。


カバンを持って、顔を上げることもなく、

そのまま二階へ上がって、部屋に引きこもった。


その姿を見て、ある程度察しはついた。

念のため2階に上がり確かめる。


声をかけても・・・・返事はない。

ノックしても・・・・反応はなかった。


しばらくして、学校から電話が入った。


『真実くんが、急にいなくなりまして・・・・』


私は、無断で帰ってきた事に驚き、天井を見上げながら返答する。


「すみませんでした。息子は家に帰ってきてます。本当にご迷惑をお掛けしました。当分、休ませるかもしれません」


それだけを伝えて、電話を切った。


昼ごはんも、

晩ごはんも、

声をかけたけれど、部屋のドアは開かなかった。


不安が、形を持ちはじめていた。


私は秀壱に相談した。


秀ちゃんは「ここは父親の出番だな」と息巻いて、二階へ上がっていった。


そこから、3時間近く。

物音ひとつしなかった。


ようやくリビングに降りてきた秀壱は、

少し疲れた顔をしていた。


「しゅうちゃん・・・・長かったね」


そう聞くと、彼は困惑した顔をしていた。


「男の約束をしてきたから全部は話せない」


秀ちゃんはその後、言葉を選びながら話し始める。

「まゆみ、今から言う3つのお願いを聞いてくれ」


①とりあえず、あいつが“外に出る”って言うまで、

 そっとしておいてやってくれ


②どんなことがあったとしてもだ。

 愛情だけは、変えないでやってくれ


少し間が空く


③不満や愚痴は、言わないでやってくれ・・・・

 そして、思わないでやってくれ


私は、今まで見たことのない秀ちゃんの表情と声に戸惑った。

言われたお願いもわかったようで、わからない言葉だった。


なぜそこまで言うのか?

理由は、聞かなかった。いや、聞けなかった。


その日から、私は真実と何度か鉢合わせた。


トイレへ行く時。

洗面所ですれ違った時。


その顔は、

今まで見たことのないものだった。


悲壮感。

絶望感。

焦燥感。


(人って、ここまで落ちるものなの?)


あんな顔をする息子を見ていると、

私はただ、息を呑むことしかできなかった。


母として、

何もできない自分が、そこにいた。


今は、いつになるかわからないけれど、

息子が立ち直るのを、黙って見届けるしかない。


私は強くならなければ、と心に打ちつけたいのだが、

どう強くなればいいのかは、まだ分からなかった。


私は今日も、真実の部屋の前で足を止め、

ノックという目的地へ辿り着く前に、

思いとどまって引き返すことを繰り返している。


何も言えない・・・・

何もできないまま・・・・


立ち尽くすことしかできなかった。

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