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恋愛をやり直しますか? 〜 YES or NO 〜  作者: 相賜 奏合


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121/127

[112]

その日の1時間目は授業がなかった。


朝のホームルームが終わると、

担任の新谷が教室に入ってきて、短く告げる。


「今日は1時間目の授業は行いません。

 これから、ヒアリングを行います」


机の上に、白い紙が配られていく。

無地に近い、簡素なシート。


——ヒアリングシート。


晴美の名前は、どこにも書かれていない。

ただ、

「最近のクラスの様子について」

「気づいたことがあれば」

そんな曖昧な文言だけが並んでいる。


皆、一斉にペンを取った。


教室は静かだった。

紙の擦れる音と、ペン先の音だけがする。


俺は、ペンを持たなかった。


視線は自然と、

花瓶の置かれた席へ向かってしまう。


・・・・もう、ここにはいない。


その事実が、

何度も胸の奥を叩く。


そんな中、

ふいに、声が流れ込んできた。


【・・・・めんどくせぇな】


優斗だった。


俺は、反射的に顔を上げそうになり、

寸前でこらえる。


(見るな・・)

(聞くな・・)


そう思ったのに、

意識が、勝手に引き寄せられる。


【正直、あそこまでなるとは思ってなかった】

【でもさ、最初に言い出したのは美月だし】


(えっ?美月?)


胸の奥が、ひくりと動く。


【あいつ、晴美のこと邪魔だって言ってた】

【グループの空気、乱すからって】

【だから、外したかっただけ】


優斗の手は、

ヒアリングシートに何かを書いている。


知らなかった

気づかなかった


そんな無難な言葉を。


——その裏で。

【告白の話も、作り話】

【啓子と三人で話合わせて】

【ボイスは無理やり作った】


俺は頭の奥で、

何かが、音を立てて崩れ始めている。


【野元が邪魔してきた時は焦ったけど】

【でも、音源さえあれば信じるだろ?】

【皆、見たいものしか見ないし】


吐き気がした。


(やめろ・・)

(これ以上、入ってくるな・・)


そう思った瞬間、

別の声が、割り込んでくる。


【今さら言えない】

【私のせいじゃないし】

【だって、雰囲気がそうだったから】


啓子。

美月。

名のないクラスメイト。


次々と、

心の声が重なって流れ込んでくる。


後悔。

自己正当化。

責任転嫁。

無関心。


誰も、

-自分が殺した-

とは思っていない。


それが、

一番、気持ち悪かった。


「・・・・くっ」


無意識に、

机の下で拳を握りしめていた。


怒りが、確かにあった。

胸の奥で、

熱を持って、暴れていた。


(でも・・どうする?)

(立ち上がって・・叫ぶ?)

(「お前らがやったんだろ」と言う?)


(・・・・無理だ)

(証拠はない)

(みんな、紙の上では無垢な顔をしている)


(そして何より、俺はもう・・)

(この場所で正義を語れる人間じゃない)


入ってくる声は、

止まらない。


【野元、気づいてないよな?)

【あいつ、ずっと下向いてるし】

【可哀想だけど、関わると同じ目に合うかもしれないし)


頭が、割れそうだった。


(もう・・無理だ・・・・)


(これ以上、ここにいたら)

(俺の中の何かが、完全に壊れる)

ただ、俯いていることしか出来なかった。

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