[109]
警察署の中は、やけに賑やかだった。
椅子を引く音。
誰かが話す声。
そんな中、俺は事情聴取を終え、促されるまま廊下を歩き、受付のあるロビーへと向かっていた。
頭が重い。
思考がうまく繋がらない。
受付の前に出たとき、
待合所のソファに腰掛けている人影が目に入った。
母、真弓だった。
母は、俺の姿を見つけた瞬間、立ち上がり、小走りでこちらへ向かってくる。
そんな母の顔を見て、胸がざわついた。
(ああ・・だめだ・・・・)
(オカンに、こんな顔・・させたら・・・・)
俺は俯き、視界が滲む。
(おかんを、悲しませてしまった)
やるせない感情が胸を締め付けていく。
絞り落ちるように涙が床に吸い付いてった。
母は何も言わず、
俺の前に立ち、
強く、抱きしめてくる。
頭の中で小さく微かに母の声が聞こえた。
【気付いてあげられなくて】
【ごめんなさい】
(オカン、そんなこと、言わないでくれ)
(謝らないでくれ・・・・)
今はただ、涙を流すしかなかった。
母の温もりを感じながら・・・・
翌日。
母は、学校へ行くなと言った。
それでも俺は家を出た。
学校へ向かう道。
今日は、やけに周囲が騒がしい。
道ゆく人たちが、みんな喋りながら歩いている。なんとも不思議な光景だ。
(ん?今日はみんな、なぜ、独り言をブツクサ言いながら歩いているんだ?)
(そういう日なのかな?)
雑音のようにうるさく聞こえているが、できる限り気にせず学校へと歩を進めた。
校門の前に立つと俺は屋上を見て眉をひそめた。
昨日、晴美の最後に微笑んだ映像が頭から離れない・・・・
教室に向かう一歩が目的地に近づくにつれてどんどん重くなっていく。
それと同時に周りの声も大きく響いてくる。
笑い声も、
ひそひそ声も、
すべてが一つの塊になって、頭に残る感じだ。
「ん?・・・・あれ?」
俺は立ち止まりかけ、
すぐに歩き出す。
考えるな。
気にするな。
ただ、教室に行けばいい。
そうやって、
流れ込んでくる声を、無意識に押し流す。
世界は今日も、
何事もなかったかのように動いている。
そして俺はまだ、
それが「聞こえている」ことに、
気づいていなかった。




