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恋愛をやり直しますか? 〜 YES or NO 〜  作者: 相賜 奏合


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108/127

[99]


・・・・・・


6月末。

登校すると、8組の教室がやけに騒がしかった。


廊下に立っていても分かるほど、声が荒れている。

いつも聞こえてくる笑い声じゃない。

鋭く、刺さるような声だった。


「ちょっと、どういうことか説明してよ」


教室に足を踏み入れた瞬間、空気が張りつめているのが分かった。

教室の後ろの方で、山本美月が吉田晴美に詰め寄っていた。


2人の距離が近い。

声も大きい。


「ねえ、聞いてんの?黙ってないで、ちゃんと答えてよ」


晴美は壁に追い込まれた状態で立ったまま、俯いている。

逃げ場がない距離だった。


「・・・・違うよ。なにも、してない」


その声は必死だったが、小さくて、弱かった。


「は? なにもしてない?けいこが、見たって言ってるじゃない」


美月の声が跳ね上がる。

教室のあちこちから視線が集まってくる。


誰も止めない。いや、美月の勢いに皆が圧倒されて動けず、ただ傍観していることしかできないでいた。


「けいこ、見たんでしょ?」


名前を振られて、宮谷啓子が一歩前に出た。


「・・・・見たよ。校舎裏で、優斗と2人でいた」


ざわっと、空気が揺れる。


「ちょ、ちょっと待って。一緒にいただけで」


晴美が弁明しようとするが啓子が反論する。


「手、握って口説いてたよね?」

言葉が重なり、晴美の声はかき消される。


「美月・・・・」

優斗が口を開くと、教室が静まった。

優斗は美月に弁明を始める

「俺は晴美に言い寄られてた、だけだからな」


「そんなの信じられないじゃん」

美月が優斗にも噛みつこうとした時、啓子が間に入る。

「美月、待って、優斗が言ってる事は本当だよ」

啓子はそう言いながらポケットからスマホを取り出した。

その場の空気が、「言い逃れ」を許さない形に変わっていくのが分かった。


操作音が、やけに大きく聞こえる。


「これ、聞いて」


大音量で再生された音声。


『・・・・ゆうとくん・・好き』


教室が、一瞬で凍った。


『一緒にいると、落ち着くの』


『・・・したい』


短い音声だが、


それは晴美の声だった。


「・・・・ちが、・・・・それは・・・・」


晴美は首を振る。

涙が滲んでいる。


「そんなこと、言ってない・・・・」


「言ってるじゃん、嘘つき」


美月の一言が、決定打だった。


「身体使って、彼氏取ろうとしてたんじゃない」


誰かが息を呑む音がした。


「最低だな」


「うわー、マジか、引くわ・・・・」


ひそひそと、声が広がる。


俺は、その光景を見ていた。

ただ、見ていた。


証言があって、

音声があって、

怒っている人がいて、

納得している空気があった。


(・・・・俺が口出す場面じゃない)


そう、自分に言い聞かせた。


その日から、空気が変わった。


晴美の席の周りだけ、

音がない。

誰も話しかけない。

そこだけ時間が止まっているかのように。


その時は、誰も「いじめている」とは思っていない。ただ、距離を取っているだけ。


それは、残酷だった。


しばらくして新たな残酷が加わる。

晴美の私物がなくなる。

知らぬ間に机に落書きがされる。

晴美が歩いていると押されて転ぶ。

男性陣から卑猥な言葉が晴美に投げつけられる。

女性陣はその光景をみてクスクス笑っている。


はっきり言って地獄である。


そんな悲惨な1学期が終わり、夏休みに入った。


教室であの光景を見なくて済む。

正直、少しホッとした。


(時間が経てば、落ち着くだろ)


根拠のない楽観。

都合のいい希望。


そして、2学期。


久しぶりに集まった教室は、少し賑やかだった。

夏休みの話題。

日焼け。

部活。


いつもの8組に、戻ったように見えた。


チャイムが鳴り、新谷先生が入ってくる。


・・・・様子が違った。


無言で教卓に立ち、

一度、教室を見回す。


「全員、座れ」


その声は、低かった。


教室が静まり返る。


新谷は、少し間を置いてから、言った。


「・・・・今朝、連絡があった」


喉を鳴らす音が、やけに大きく響いた。


「吉田晴美が、亡くなった」


一瞬、意味が理解できなかった。


「自宅から、連絡が入った」

「・・・・自殺だったそうだ」

周りの教室から賑やかな声が漏れてくる中、

8組の教室だけ時間が止まった。


俺は視界が、ぐにゃりと歪んだ。


(・・・・え?)


あの教室。

あの声。

あの無表情。


全部が、頭の中で繋がる。


俺は、何もしていない。


ただ、見ていた。


それだけだった。

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