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恋愛をやり直しますか? 〜 YES or NO 〜  作者: 相賜 奏合


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[98]

5月の終わり頃。

西岡高校の1年生は、オリエンテーション行事として西岡川へ向かっていた。


内容は単純だ。

クラスごとに集まり、バーベキューをする。


ただそれだけの行事なのに、

朝から教室の空気はどこか浮き立っていた。


バスを降り、河川敷に着くと、

すぐに準備が始まる。


「じゃあ、火起こしは男子でいこうか」


「女子は野菜切りお願い!」


声を出して仕切っていたのは、優斗と美月だった。


特別偉そうなわけじゃない。

でも、二人が動くと、自然と周りも動く。


「トングこっち足りてる?」


「肉、先に焼いちゃっていい?」


「火、ちょっと強くない?」


誰かが声を出すと、必ず誰かが応える。

役割分担が、驚くほどスムーズだった。


(・・・・やっぱり、すごいな)


前の世界線と同じ。

この2人が中心にいると、クラスが一つの生き物みたいになる。


しばらくして、新谷先生が様子を見に来た。


腕を組みながら、しばらく眺めたあと、ぽつりと言った。


「・・・・8組、動き早すぎじゃないか?」

その一言に、みんなが笑った。


「他のクラス、まだ火も起きてないぞ」

「お前ら、ほんと手際いいな」


先生の言葉に、誰もが少しだけ胸を張った。

(俺たち、いいクラスだろ?)


そんな空気が、自然と流れる。


どのクラスよりも早く、肉が焼けた。

どのクラスよりも早く、食べ始めた。


「うまっ!」

「これ、やばい」

「焼き加減、神じゃん」


笑い声が、川の音に混ざって広がる。


優越感。

一体感。

幸福感。


全部が、ちょうどいい温度で混ざっていた。


その輪の中で、俺はふと、視線が引っかかった。

少し離れたところに、1人だけ、手を止めている人物がいた。


吉田晴美だ。


取り皿を持ったまま、川の方を見ている。


笑っていない。

かといって、泣いているわけでもない。


ただ、ほんの一瞬だけ、輪から外れた顔をしていた。


「・・・・吉田さん?」

気づけば、声をかけていた。


晴美は、ハッとしたようにこちらを見る。

「え?」


「どうした? なんか、元気ない?」


一瞬の間、ほんの一拍だけ。

何かを言おうとしたが、次の瞬間、彼女はすぐに笑顔を作った。


「あ、ううん。なんでもないよ」

そう言って、

トングを持ち直し、輪の中へ戻っていく。


「それ、焼けてるよー!」


その声に、

周りがまた笑い出す。


何事もなかったかのように。


(・・・・本当に、何もなかったのか)

そう思いながら、俺は視線を輪の中に戻した。

その時だった。


美月が、こちらを見ていた。


一瞬だけ、目が合う。


そして、すぐに、視線を逸らされた。


理由なんて、分からない。

勘違いかもしれない。


でも。


胸の奥で、

何かが、カチリと音を立てた。


(・・・・今の、なんだ?)


ほんの小さな違和感。

言葉にするほどのものじゃない。


周りは、相変わらず楽しそうで、みんな笑顔で、平和そのものだった。


でも、その完璧な幸福の中に、ほんの小さな影が、差し込んだ気がした。


俺は、もう一度だけ、晴美の背中を見た。

そして、何も言わず、肉を口に運ぶ。


みんなが、ただの楽しい思い出だけで終わると、まだ、この時は信じていたかった。

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