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昼休みの終わり頃だった。
教室の後ろの方から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
俺は自然と視線がそちらへ向いた。
山本美月を中心に、宮谷啓子、大野愛、吉田晴美。そこに、当たり前のように有田優斗が混ざっている。
女子4人と、男子1人。
不思議な組み合わせのはずなのに、誰も違和感を持っていない。むしろ、その輪は妙に安定して見えた。
美月が話し、
啓子が相槌を打ち、
愛が笑って、
晴美が少し遅れて微笑む。
そこに、優斗が軽い冗談を挟む。
「やだー、ゆうとー、そんなワケないじゃーん」
「マジだってー」
空気が、整っている。
(・・・・ほんと、仲いいよな)
前の世界線と同じ光景を微笑ましく見守る。
その時だった。
「なあ、マコッちゃん」
前の席から、ニッシーが椅子をずらして振り返ってきた。
「見てて思うけどさ、あの5人、ほんとセットだよな」
「・・・・5人?」
「優斗と、美月たち4人」
西は、教室の後ろを顎で指す。
「つーか、あの2人、付き合ってるんだぜ」
「優斗と・・・・美月?」
「そうそう。俺、あいつらと同じ中学で仲良かったから知ってんだ」
「もう付き合い始めて2年くらいかなー」
(・・・・知ってるよ)
心の中でそう返しながら、俺は知らない振りをする。
「へえ、そうなんだ」
「クラスでもほとんど分かってるだろうな」
「あの距離感だからなー、まあ、みんな納得だろ」
(確かに)
美月の視線の先には、よく優斗がいる。
優斗もまた、自然と美月のいる場所に立っている。
(前と、同じだな)
安心と、ほんのわずかな影が、同時に胸をよぎった。
ニッシーは机に肘をつき、頬を乗せながら続ける
「優斗と、美月たち4人、放課後もしょっちゅう一緒だし」
「この前なんか、5人で遊園地行ったらしいぜ」
西は、何でもないことのように言った。
「へえ」
相づちたけ打っておく。
「完成してる感あるよな」
ニッシーは少し笑った。
「羨ましいよなー。俺も彼女欲しいわ」
そこで、ふと思い出したように俺を見る。
「そういえばさ、マコッちゃん。彼女いるって言ってたよな?」
一瞬だけ、思考が止まった。
「ああ・・・・うん」
「どうなのよ?」
俺は、少しだけ言葉を選んで答えた。
「関成高校に行ってる。今は遠距離」
「まじか」
「毎日、LIMOで通話してるよ。夜、寝る前とか」
「・・・・それ、地味にすげえな」
「夏休みに、こっち戻ってくる予定」
そう言いながら、俺はスマホを取り出した。
画面を操作して、1枚の写真を表示する。
夏祭りの時に撮った、2人の写真。
それをニッシーに見せる。
「うわっ」
声が裏返った。
「え、なにこれ?めちゃくちゃ美人じゃん」
「しかもさ、関成って進学校だろ?」
「頭もいいんだろ?」
「マコッちゃん、よくこんな彼女できたな・・・・」
早口で捲し立てるように言葉が出てくる。
「羨ましいぜー」
「嗚呼・・俺の運命のハニーは何処にいるんだー」
そのニッシーのアホらしい言葉を聞きながら、俺はもう一度、写真に視線を落とした。
今あらためて見ても、
どう考えても出来すぎた中学生活だ。
(・・・・奇跡、だよな)
こんな女性と付き合えたこと。
あのタイミングで、麻耶から告白を受けたこと。
真子の存在がなかったら、
一つでもズレていたら、
きっと今はなかった。
教室の向こうでは、
5人の笑い声が、まだ弾んでいる。
俺はスマホをしまいながら、
その光景をもう一度だけ見た。
(・・・・今は、平和だな)
そう思えた。
少なくとも、この時点では。




