[91]
桜が咲いていた。
満開というほどじゃないけれど、校門の前に立つと、風に揺れる花びらがやけに目についた。
この学校の制服を着るのも、これが最後だ。
校舎は変わっていないのに、廊下を歩く足音だけが、次に向けての歩みなのか変化を感じる。
卒業式の会場に向かいながら、ふと思った。
中学3年の学校生活は不思議なくらい、みんなが別々の場所に散っていくような、なんとも寂しい1年だった。
体育館に並んだ椅子に座り、式が始まる。
校歌を歌いながら、俺は周囲を見渡した。
麻耶は、少し離れた列にいた。
関成高校に合格した。
ただ、今の家から通えない距離で、家族ごと引っ越すと聞いた。
ん?まだ付き合ってるかって?
当然だろ、遠距離恋愛になるけど、大丈夫だと思う。
浩太は、相変わらず落ち着きがない。
でも進学先を聞いたときは、少し驚いた。
N高校。パソコン関連に強い学校だ。
両親を説得したらしい。
夢に向かって進む姿は、素直にすごいと思う。
頑張れよ、って、心の中で言った。
智大は、もう完全に別の世界に足を踏み入れている。
東都の堀切高校。
それだけでも十分なのに、芸能会社のオーディションにも合格して、もう所属もしているらしい。
さすがだな、としか言いようがなかった。
裕子は、西岡高校の進学科に合格した。
智大とは、別れてはいないらしい。
でも、距離はある。
俺から見た感じだと、裕子は智大の夢を邪魔しないように、意識的に一歩引いている気がする。
智大は「嫌われたかも」なんて言ってたけど。
――別れてないんだろ?
そう言ったら、苦笑いしてた。
「ちょうど遠距離になるんだ。一度、落ち着かせたらいい」ってフォローしておいたよ。
憲一と佳代は、二人で隣町の高校に通うことになった。
西岡じゃない理由を聞いても、はぐらかされる。
・・・・少し、察しはつくけどな。
そして。
真子はいなかった。
歌山県に行ってから、一切連絡がない。
浩太が電話しても出ない。
LIMOも未読のまま。
完全に音信不通だ。
卒業式にも・・当然、姿はなかった。
名前を呼ばれないのが、逆に重かった。
式が終わり、校門を出る。
写真を撮る声、笑い声。
それらを遠くに聞きながら、俺はもう一度、桜を見上げた。
みんな、それぞれの道を歩き始める。
前の世界とは、進む先がまったく違う。
そういえば――
中学3年のクラスも、全然違っていた。顔ぶれを見た瞬間に、胸の奥の違和感は大きかった。
世界線が、完全にズレたのかもしれない。
そんな考えが、頭をよぎったよ。
・・・・吉田さん。
この世界線では何も起きないといいんだけど・・・・
胸の奥に残る、説明のつかないざわつきを抱えたまま、
俺は校門をくぐって、学校をあとにした。
中学編はこれにて終了です。
中学編がちょうど ep.100という
記念すべき回で終わるのも不思議な縁ですね。
次回から高校編に突入。
これからも温かい目で見守ってあげてください。




