生と死を統べる森
読んでくださる皆さまに感謝です。
水という言葉を聞いて、子犬が私から一歩離れた。
チラッと私の胸元に抱え込まれたペットボトルを見ると、身を翻して倒れたままの犬の方へ向かう。
私が戸惑ったまま動けないでいると、
着いてこい
と告げるようにガアゥと鳴いた。
水を飲ませたいのはあの犬なんだなと、犬の前に弁当箱に注いだ水を置いたが、動く気配はない。ぴくりともしない。
子犬が、キューと声をあげた。
倒れたままの犬の喉の下辺りを手でタシタシと叩き、頭を擦り付ける。
生きているのかさえわからない。
呼吸も聞き取れない。
全く反応がない犬に、子犬の方も焦れ始めた。
キュー。キュー。
悲痛と言っていいほど悲しげな声を響かせて子犬が鳴いている。
私は覚悟を決めると、犬の前に座り込んだ。
ペットボトルのフタを外し、倒れないようにそっと置いて犬の口に両手を添える。
子犬は私の行動の意味がわからないのだろう。
警戒し鼻の頭に皺を寄せて威嚇するようにグルグルと喉を鳴らし始めた。
「悪いことはしないよ。傷つける気もないよ。
直接口の中にお水を入れるの。」
そう言ってぐいっと口をこじ開けると、閉じてしまわないように体をねじこんだ。
グルル
その時、口を開けられてわずかに意識を取り戻した犬が私に敵意を向けるのがわかった。
あ。今度こそ死ぬかも。
焦った私は
「水!飲んで!!」
と、ペットボトルを乱暴に掴み、残りの水を口の中にドプドプと流し込むと急いで犬の口元から逃げた。
犬は私のいきなりの行動に反応出来ず、流し込まれた水を飲んで思いっきり咽せている。
恨めしそうな表情。のような気がする。
犬って案外感情豊かなんだなぁ。
呑気にもそんなことを考えた。
一頻り咽せたあと、犬がこっちを見つめたままゆっくりと立ち上がった。
子犬がクルクルと鳴きながら甘えるようにその足元にじゃれついている。
「…て。敵意はないです。これっぽっちも。
乱暴なやり方で水を飲ませてごめんなさい。」
私の言葉が通じているのは他の犬たちの反応でわかったので、こちらに悪意がないことを知ってもらうために頭を下げて首筋を見せた。
首という急所を晒すことでそれを証明したかったから。
通用するかは別として。
犬は私の真意を確かめるようにじっと見つめていたけど、ふと顔を逸らすと未だ戦闘中の仲間の方へ駆けていった。
「うああ〜、怖かった〜」
あの何もかもを見通すような視線がなくなって、とりあえずは助かったと地面にへたり込んだ。
クウー
子犬が首をかしげて私の横まで来ると、ちょこんとお座りをして、仲間が戦っている方へと顔を向ける。
私もつられるようにしてそっちに目をやり、後悔した。
……言葉通り、怪獣大戦争だった。
しかも、もう一頭が参戦したことで早々に決着がついてしまった。
木々が倒され大地が抉れまくった惨状の中、ティラノサウルスにしか見えないモノが2頭倒れている。
え?あれと戦ってたの?しかも2頭を相手にして?
体格差がエグいんですけど………。
…ドン引き……。
なんとも言えない顔をしているであろう私の前に犬たちが戻ってきた。
死にかけてた犬たちはあの水を飲んで元気になった。
ということだろうか。
違うとしても、じゃあ何が原因でケガが治ったのかと問われたらわからない。
少なくとも2度もその場を目撃しているので、水のおかげだとしか思えない。
犬たちは揃ってじっと私を見つめている。
ふと疑問がわいた。
「ここまで強いのに、一体何があったら死にかけるほどのケガをするんだろう?」
犬たちがスッと目をそらした。




