今、出来ること
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別邸での生活が始まった。
元々そこで暮らしていたのはレイさんと元執事夫婦。
それから私が暮らすことになったからと、新しくメイドさんが3人と侍女さんが2人。下男さんに料理人の男性も派遣されてきた。
人間嫌いで、特にメイドとか侍女に碌な思い出がないレイさんが邸に人を入れようとしなかったのだけど、カズハのおかげで堂々と増員できるよ。とジョシュ様にお礼を言われた。
私は表向きはルード家の親族として扱われる。
ジョシュ様には15年ほど前に亡くなった弟さんがいて。
私は、彼の恋人だった女性との間に生まれた子供ということになった。
他国民である母は、私の存在をルード家に隠して母国で暮らしていたが、母親が病死したのをきっかけに父の親戚を頼ってこの国にやってきた。わたしはつまるところ、侯爵の姪ということであるらしい。
本当のことを知っているのは侯爵夫妻とトライゼル様とレイさん。そして雷光のみんなだけだ。
「真実を知る人間が多ければ多いほど、秘密は漏れるからね。君にはそのつもりでいてほしい。」
そう言われて、私は侯爵夫妻を伯父、伯母と呼ぶことになった。
じゃあ3兄弟は?と言うと、マティ兄様、レイ兄様、トリィ兄様がいいとのこと。
呼び方は今まで通りでいいと抵抗したけど、4人がかりで説得された。(…レイさんは最後まで無言だった。)
そうして私はレイ兄様と一緒に暮らすようになったのだけど、全くと言っていいほど彼と顔を合わせることがない。
どうやら、初対面の時の「なるべく会わないようにする」という言葉を実行している様子で。
だから、「私のことは気にしてほしくない。レイ兄様には今まで通りの生活をしてほしい」と伝えたくて、邸の中を探したり食堂で待ってみたりしたけど会えなくて。
もしかして嫌われているのかな?
そう言えば、初めて会った時のギルドでの私はレイ兄様にものすごく失礼な態度だった。
と心配になり。
落ち込んだ挙句、別邸執事のトマスさんにショボンと「初対面の時の失礼な態度を謝罪したいから会いたい」と伝えたら、元々Sランクは緊急性も難易度も高い依頼が殺到していて、あまり邸には帰ってこられないと教えてくれた。
「レイ様は、本当はとても純粋でお優しい方なのです。今はその性質を隠しておいでですが、カズハ様のことも気にかけておられますよ。…不自由はないか、困ったことはないかと私どもによくお訊ねです。」
まるで昔の誰にもお優しかった頃のレイ様が帰っていらしたようで。
と一瞬だけ遠くを見るように目を細めたトマスさんはふっと私を見て、
「レイ様がお戻りになられましたら一度ゆっくりとお話になられるのもよろしいかと。
…大丈夫ですよ。カズハ様の部屋に飾る花も、お出ししているお菓子もレイ様が自ら手配されたのです。レイ様はカズハ様を大切にされておられます。」
「カズハ様。今は、お勉強を頑張ってください。そして、レイ様がお戻りになられた時には、その成果を披露できると良いですね。」
優しく笑って言われた言葉に、私も頷く。
今の私に出来ることは少ない。
であれば、今出来ることを精一杯やろう。
この世界について学ばなければいけないなら、ちゃんと学ぼう。
そして、自分がこれからどう生きるのか、考えよう。
…レイ兄様が帰って来たらお茶に誘って、話をしよう。




