ルード3兄弟
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トライゼルと名乗った青年は、私の頭を撫でようとした手をほんの数秒だけ彷徨わせると、子供へ向ける笑顔から同年代の女性へ向ける微笑に一瞬でシフトチェンジした。
その際、
もちろん最初からわかってましたよ
という風に手を取り、指先に軽くキスをすることも忘れない。……貴族の外ヅラすごいな。
そんなことをされるのは当たり前だけど初めてな私は
「ひゃあ」
と声を出した。
私の視界の隅ではマットさんが苦笑している。
ところで彼、今マットさんのことぐけいって呼んだ?
………………………ぐけい?…グケー。
……愚兄!?
パッとマットさんを見る。
「賢弟だ。」
彼が肩をすくめると、トライゼルさんがものすごく嫌な顔をした。
「兄に次期領主を押し付けられようとしている可哀想な弟です。」
言いつつ私をエスコートして席へと向かうとマットさんも立ち上がって椅子を引いてくれる。
「マットさんも貴族なんですよね?」
「まぁ、一応?オレは冒険者のつもりだし、ルード家の後継者はトライゼルだから、別に畏まらなくていいぞ。というか普通がいい。」
と、頭に向けてあげかけた手が止まった。
「18歳です」
ジトっとした目を向ける。
「わかってる。うん。」
マットさんが慌てて手を引っ込めた。
朝食が運ばれてくる頃になって、誰も食堂内にいないことに思い至る。
昨日はあんなに賑やかだったのに。
「人がいない方がいいかと思って貸切にしたんだよ」
見上げると、食事を持ってきたのはフロスさんとガードナーさんだった。その後ろには昨日レイと呼ばれていた仮面の人もいる。
この人も私には必要な人ということ?
女将さんたちが奥に引っ込んで私たちだけになると
「さて。少し行儀が悪いけど食べながら話すとしようか」
と、同じテーブルに座ったルードの兄弟とメリンダさんが食事に手をつける。
隣のテーブルではフロスさん、ガードナーさん、レイさんが食事を始めた。
昨日、私が夕食を1人で摂ったのを気にしてくれてるんだろうなぁ。
本来ならトライゼルさんはこんなところで食事をする立場の人じゃないし、雷光のみんなには家庭がある。
「カズハ。改めて兄を救ってくれてありがとう。何かお礼がしたいのだけれど欲しいものはあるかな?」
トライゼルさんが硬めのパンをスープに浸しながら問いかけてくる。
「いえ、何も。私の方こそマットさんたちにはお世話になりました。1人じゃどうしていいかわからなかったからとても助かったんです。」
「ふむ」
トライゼルさんが首を傾げる。
「君はこの街に来たばかりだろう?これからどこか行きたい場所や目的はあるのか?」
…そんなものはない。帰りたい家もない。
沈黙が答えだ。トライゼルさんもそう考えたようで。
「カズハ。嫌でなければしばらくこの街で生活してみるかい?家はこちらで用意するから。」
「………なんでそこまでしてくれるんですか?昨日会ったばかりの私に。」
「君が兄の命を救ったからだという理由ではダメかな?出会ってからの時間は関係ないよ。誰かに頼るのが下手くそな君を守りたいから保護してくれないかと彼らに頼まれたんだ。」
正直いうと本当に助かる。
私はこちらに来るまでただの女子高生だったんだ。
知らない世界に放り込まれて、何もわからないまま街に入った。
家の借り方も働き方もキッチンの使い方もこの世界の常識は1つとしてわからない。どこに何を売ってるのか、ナチュカの実1つはいくらするのか。物価も知らない。
この宿は1泊100ゲルン。じゃあ1ゲルンで何が買える?
この世界の常識を学びたいけど、そんなことすら知らない18歳の娘なんていないよね。
高位貴族のお嬢様なら知らなくてもおかしくないのかな?
でも、じゃあお嬢様なら当たり前に知ってることを聞かれたら?
「……カズハ」
マットさんが私の前に跪いた。
「人は1人では生きていけない。誰かを助け助けられ、支え合いながら生きていくものなんだとオレは思ってる。…もしもお前に今、頼れる人がいないなら。…ほんの少しでもそれがオレでいいと思えるなら。オレのうちに来ないか?」
マットさんは真剣な顔をして私を見ているので気づいてないが、彼以外の全員が微妙な表情でマットさんを見ている。
「結婚の申し込みかよ!」
ガードナーさんがツッコんだ。
マットさんが驚いた顔でガードナーさんを見て、全員の呆れたような顔に気づいた。
自分が何を言ったのか理解すると、耳を赤くして急いで首を振る。
「え?……ち、違う!オレはライラ一筋だ!…ってそうじゃない!うちってのはルードの別邸のことだ!!」
「別邸?」
「領主館の敷地内に建っている別棟のことだ。今は私が住んでいる。本邸よりは小さいが、それでもかなりの広さで、引退した執事夫婦が住み込みで世話をしてくれている。」
疑問に答えたのはまさかのレイさんだった。
「えっと。レイさんが住んでらっしゃるんですか?」
「ああ。だが、部屋数は余っているし、私は女性に興味がない。部屋には鍵も付いているので君が心配するようなことはないと誓おう。たまに顔を合わせることもあるだろうが、君がそれを嫌だと思うなら君の視界には入らないように気をつける。」
「あなたが嫌というわけではないのですけど」
家が大きいからって知らない男性と住むのはちょっと……
「カズハ」
私の感情は思いっきり顔に出てたらしい。
フロスさんがマットさんと同じように私の前に膝をついた。
「正直に言うね。…君の能力は危うい。誰かに存在を知られたら君自身が狙われることになるだろう。もちろん君はとても強いけど、それでも完璧じゃない。自分でもわかっているんだよね?だから知られたくないし目立ちたくないんでしょう?…でも君の外見はこの周辺国では珍しいから嫌でも人の記憶に残りやすいんだ。もしも冒険者をするなら尚の事、目立たないと言うのは難しい。だったら後ろ盾があった方がいい。それも手が出せないくらいにわかりやすく大きな盾が。それがルード家なんだよ。そしてSランク冒険者のレイ。この2つを敵に回せる人間は限りなく少ない。」
………限りなく少ない。なくなるわけじゃない。
「カズハ。君が望むなら王家に庇護を求めることもできる。王家は君を手厚く保護するだろう。そうなるとほぼ完璧な守護者を得ることが出来るよ。ただし自由はないと思ってくれ。」
「嫌です。国とは関わりたくありません。」
「……それは君の意思で希望だと取ってもいいかい?」
「はい。」
私の返事を聞いた全員が神妙な顔で頷いた。
微かな違和感。私からその言葉を引き出したかったように感じる。でもそれが私の本心だ。
私を閉じ込め、利用しそうなところには行きたくない。
信用なんて言葉はまだこの人たちにも使えないけど。
私の目線に合わせて跪いて話してくれるこの人たちとならいつかそんな関係が築けると思うのも本当。
………………って言うか。私が迷いモノだとバレてる気がする。いや、バレてるよね?王家に保護頼むって。
「外見と見慣れない服装。素材がわからないバックパック。お金を見たことがなく、売られている商品が何かわかってない」
また表情に出てた!?
トライゼルさんが苦笑している。
「貴族の社交界ってのは表情や空気を読むのが上手くないと足を掬われる世界なんだよね」
「カズハ。ここにいる誰も君を傷つけないよ。君が望むままに生きられるように手助けがしたいだけ。そのための情報共有で集まってるって思っててくれていい」
フロスさんがポンポンと頭を撫でた。
「「「あ」」」
「え?」
私の年齢を知ってる3人が声を上げ、フロスさんがキョトンとしている。
……なんかもう、いいや。この人たち相手に警戒するのバカらしくなってきた。
保護してもらえるなら甘えよう。
「もういいです。考えてみればこの世界での私って10歳の子より何も知らないし出来ないので。子供扱いも甘んじます。………あの。ここにいる皆さんは貴族なんですか?」
と聞きながら確実に貴族なマットさんと貴族っぽいフロスさんが私の前に跪いたままであるのに気づいた。
「やだ、立って!
2人とも立ってくださいよ。ごめんなさい!」
2人は顔を見合わせて笑うと立ち上がり、片手を胸に当てて足を引く見事なボウ・アンド・スクレープで応える。
「自己紹介しようか。
オレはこの城塞都市ギルジェスを治めているルード侯爵家の第一子でマティアス・ルードという。よろしくな。そこに座っているのが次男のレイフォード・ルードだ。」
えっ!レイさんも兄弟!?3兄弟だったのかぁ。…え?3人だよね?
「3人だけだ。」
私の心を読みつつレイさんも立ち上がると同じように貴族の挨拶をしてくれた。
あー、だからルード家に住んでるんだ。Sランクだから雇われてるのかと思った。
「僕はフロス・ハイト。ハイト子爵家の次男だよ。」
「俺はガードナー・アシネド。アシネド男爵の3男。俺みたいなのはもう平民だな」
「バカ言わないでよ。私は平民よ。メリンダ・ニシノ。ちなみにニシノっていうのは前回現れた迷いモノの家名だと聞いてるわ。『リュータ・ニシノ』。」
「……にしのりゅうた」
「ああ、カズハの国では家名が先に来るんだったな。やはり君はリュータ様と同じ国の人間なんだね」




