マット目線 その1
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オレが住んでいる城塞都市『ギルジェス』は、「生と死を統べる森」から徒歩で数時間のところにある。
オレは、その『ギルジェス』を治めているルード侯爵家長男、マティアス・ルードとして生を受けた。
ルード家に生まれた者は幼い頃から、貴族としての心得や領主となるための勉強と同時に魔物からこの街や領民を守るための手段や戦い方を教わって育つ。
オレも例に漏れず、次期領主としての教育を受けて育った。
祖父は所謂脳筋タイプで、それを反面教師としたのが父であったと思う。
全く正反対の性格をした2人は、お互いに相手の不得意なところを補い合う形でこの街をよく治めているが、祖父が武力で、父が政治で他領の貴族たちと渡り合う姿は少年だったオレの心に尊敬と恐怖を植え付けてくれた。
……以前、隣のアホウな領主が死の森から入ってくる資源に目が眩んでこの街を手に入れようと画策したのだが、父と祖父にそれはもう完膚なきまでに叩き潰され、全てを失って一家全員が領地を追われるハメになったのだ。
そいつらの跡を継いだ遠い親族とやらは、着任した直後に我が家を訪れて「ルード家に忠誠を!」と叫んでいた。
……一体何をしたんだ、アンタら………。
すべてが片付いた頃に、どうやってアホウどもを追い落としたのですか?と尋ねた弟に、父はうっそりと笑いながら
「死の森を領地に持っていると、利権だけを欲しがる強欲な貴族の相手もすることになる。そんな馬鹿どもには一切の容赦はするなよ。最速で確実に叩き潰せ。クズどもの相手をしてるうちに死の森で異変が起こったら目も当てられんからな。魔物はこちらの状況など鑑みてはくれんぞ。」
と弟に嬉々として語っているのを見て、オレは初めて父の真の恐ろしさを知ったと思った。
正反対だと言われている祖父と父が似た者親子だと思ったのは、2人ともに貴族にはあまり馴染みのない恋愛結婚をしたところだろうか。
貴族の婚姻はお互いの利益のための政略で行われることがほとんどだろうが、我が領地は死の森の資源で潤い、魔物のスタンピードに備えて武力も整い、そのおかげで王家も無視できないほどには影響力がある。
それでも王家から睨まれていないのは、うちが王都での権力闘争には一切の興味を示さず、王家に忠誠を誓っているからだ。
そんな状況の中、これ以上の権力や財力を持っても碌なことにならず、敵を増やすだけだ、と特に妻の実家に求める条件がないのをいいことに祖父も父も惚れた女性を口説き落として妻に迎えている。
おかげで家族仲もすこぶるいい。
小さな頃から笑いの絶えない家で育ったオレは祖父母も両親も歳の離れた弟たちも愛している。
だから、この居心地の良い場所を父の次はオレが守っていくのだと信じていた。
オレが15の時、2番目の弟は8歳になったばかりだったが、剣や魔法を習い始めてすぐにその才能を発揮し、オレが習得するのに4年かかった剣術をおよそ2年で修めてしまった。それだけでなく魔法でも能力を開花させたらしい。
そして将来的にオレの補佐となるためにと勉強をしていた弟は、領内で下級役人が関わった不正行為に気付き、あっという間にそれを暴いてみせたのだ。
そうなると、弟に領主をという声が上がってくる。
父も弟もそれを否定したが、オレ自身は
それもいいかもなと思った。
領主の仕事もやれなくはないだろうが、机に向かって仕事をするよりは何も考えずに剣を振っている方が楽しいのだ、オレは。
「冒険者になりたい」
と父に頭を下げたのは、それから2年後のこと。
まだ弟は成人にもなっていなかったが、だからこそ早めに動き出すべきだと決めて、すぐにギルドで登録を済ませ。
暇を作っては森でせっせと魔物を狩り続けてDランクまで上げたところで父に家を出たいと申し出た。
父はオレの行動をちゃんと把握していたようで、寂しそうに、でもすんなりと家出を受け入れてくれた。
むしろ、マジギレしたのは弟の方だった。
オレを追い出すくらいなら自分が出ていく!
と半泣きで半ギレの顔をして迫ってきた弟に、
自分は冒険者をやりたいということや、領主なんていう堅苦しい仕事は合わないということを何時間も何日もかけて説得し納得させることとなった。
むくれるようにこちらを見る弟は、その代わり、1年に1度は領主館に戻ってくることと、貴族藉は抜かないことを了承させてきたのだが、オレにそれを了承させた手腕はさすがというべきか……
そうして、オレは領内に一軒家を買い、そこで生活を始めたのだ。
が。
……数日後には乳兄弟で悪友に近い存在だったフロスが、しれっとした顔で
僕がいないと、料理も掃除も出来ないでしょう。
と玄関に立っていた。
まぁいいか、と2人でパーティを組んで森に篭っている間に、ルード家騎士団団長の息子であるガードナーがどうやったのか、家に入り込んでソファーの上で爆睡していた。
呆れを隠さずに彼を叩き起こしてここにいる理由を訊ねたら、
騎士団にいるより、こっちの方が面白そうじゃねぇか。
と、これまたいつのまにか勝手に住み着いてしまった。
メリンダとは、合同依頼で一緒に行動した際に意気投合し、そのまま飲みに行ってベロベロに酔っ払った勢いでパーティを組んで今に至っている。
そのうち、フロスが、ガードナーが。メリンダが恋人と所帯を持つことになってそれぞれ家を借りて出ていき、また1人になり。
そんなオレも護衛依頼で出会った女性に運命を感じて、仲間の助けを得ながら彼女に愛を乞うた。貴族の侍女をしていた彼女は、いつも背筋をピンと伸ばし柔らかな微笑みを浮かべている人で。
せっせと通うオレに折れるように愛を受け入れてくれた。
男爵家の三女だという彼女は、オレの家名がルードだと知って驚き、
そんな大事なことは最初に教えてください!
と怒ったのだが、そんな顔も可愛くて。
つい我慢できずに「愛している」と囁いたらワナワナと震えるようにオレを見てから、「私もです」と小さく答え両手で真っ赤に染まった顔を隠してしまった。
そんな彼女との結婚生活が3年を迎える頃、弟が死にかけていると、領主館から使いが駆け込んできた。
フロスとガードナーは、マットが冒険者登録をしたのを知ってその意図に気づきます。
2人ともほとんど迷うことなく、それぞれの両親とルード侯爵にマットと共に冒険者をやりたいと申し出て許可を得ています。
ですので、3人は、ほぼ同時期に冒険者登録を済ませており、ルード侯爵も承知の上で森でのランク上げをしていた模様。
フロスは元々マットの侍従兼副官候補だったので、すんなり合流出来たのですが、ガードナーはすでに騎士団へ入団していたので、騎士団の通常業務と、辞める際の引き継ぎ、森でのランク上げなどに時間を取られ合流が遅くなったのです。
マットの性格上、一緒に行きたいとお願いしても断られるだろうと考えた2人は
きちゃった、えへ。
を決行したのですね。




